2010年06月11日

韓国ニュースを読み解く(1)

韓国統一地方選挙の歴史的意義
柳 あい


 去る6月2日に行われた韓国の統一地方選挙、その「歴史的」といえる画期的な変化にもかかわらず、同日突発した鳩山首相の辞任劇の陰に隠れ、日本の主要メディアではほとんど報じられていない(『毎日新聞』6月4日付の記事が比較的詳しい)。インターネット上でもあまり論じられていない選挙結果の意義を以下に整理し、紹介してみたい。

 まず韓国の統一地方選挙は、日本の都道府県に当たる広域地方団体の首長と議員、教育長と教育議員(地方議会内に教育委員会を構成)、市町村に当たる基礎地方団体の首長と議員、少なくともこの6人を同時に選出する。日本との最も大きな違いは、都道府県の教育長と教育議員を有権者が選挙で選ぶ点にある。それほど韓国の教育責任者には政治的立場が重視され、この間の教育委員会は圧倒的多数を保守勢力が掌握して「保守化」を推進してきた。

 さて、今回が第5回となる本格的な統一地方選挙は1995年に制度化されたが、本格的には1998年・2002年・2006年5〜6月に実施され、いずれも保守勢力が圧勝してきた。その背景には保守基盤の厚さもあるが、時期がワールドカップの開催前後で若者の関心が低く、50%前後の低い投票率によって保守勢力が地方団体の首長・議員・教育委員会を掌握してきた。だが、今回初めて民主・革新勢力がこれら地方団体の主導権を「全国的に」掌握した、この点が今回の統一地方選挙の歴史的意義の第一である。

 ついで第二に、政府は3月下旬に起きた「天安」沈没事件の調査結果を選挙公示日に公式発表するなど、南北間の緊張をあおったにもかかわらず、大方の予想に反して大敗した選挙結果は「歴史的な分水嶺を越えた」と評価できる。次の第三点とも関連するが、国民は「再度の戦争への道」を選挙を通じて明確に拒否したのである。

 実は、今年の初めまで民主・革新勢力は四分五裂していた。昨年金大中とノ・ムヒョンという二人の指導者を失い、民主党政権時からの内部対立の後遺症に加え、革新派の民主労働党も分裂を重ねていた。それを野党統一候補という形にまとめ上げたのが市民運動、それもネットワーク式の市民団体連合であり、中でも李明博政権の対北緊張政策に反対して「平和共存」政策を継承する朝鮮半島平和フォーラムなどの政治力だった。つまり、民主・革新政党の分裂を克服した野党統一候補の多くが当選した選挙結果は、韓国市民運動の政治力によって実現したといえる。これが、第三の歴史的意義である。

 その成果を具体的に見ていくと、最も驚くべき人物は、釜山広域市郊外に広がる慶尚南道知事に当選した金斗官(キム・ドゥグァン、51歳)である。農民出身の彼は苦学しながら学生運動に参加、獄中生活後に故郷で農民会を組織して最初の民選郡長となり、ノ・ムヒョン政権発足時には行政自治相を務めた。保守勢力の中心地である慶尚南道ゆえに、無所属の野党統一候補として当選したが、彼の政治信条は「草の根民主主義」である。

 同じく、南北接境地の江原道知事に当選した李光宰(イ・グァンジェ、45歳)と忠清南道知事に当選した安熙正(アン・ヒジョン、45歳)はノ・ムヒョンの側近中の側近で、いわば「助さん・格さん」にあたる。この三つの地域で保守政党以外の候補者が当選したのは初めてであり、三人とも軍事政権を打倒した1980年代に学生運動に参加して投獄された世代を代表する政治家である。

 そして、彼らの先輩世代で民主化運動、学生運動の先駆者の一人が、ソウル市長選挙で惜敗した韓明淑(ハン・ミョンスク、66歳)である。ノ・ムヒョン政権下で韓国初の女性首相となった彼女は、選挙前の世論調査での10〜20%差が実際には0.6%差に迫るほどの善戦で、次回2012年大統領選挙に向けて民主勢力を代表する有力候補に浮上したといえよう。なお、ソウル市25区のうち、21区で民主派が勝利したことも画期的であり、こうした「草の根民主主義」の広がりは次回の大統領選挙でも力を発揮するだろう。

 さらに、ソウル市教育長には民主化を推進した全国教授協議会の郭ノヒョン教授が当選するなど、多くの広域地方団体で教員組合の積極的な支持者が教育長に選出された。これまた画期的な成果であり、韓国社会の民主化を長期的に持続させる基盤となり、「平和共存から共生へ」と南北関係を進展させていくに違いない。そして、今この時期に、「戦争よりも平和共存」という方向性を選挙で明確に選択したことこそ、「市民参加型」統一運動(白楽晴『朝鮮半島の平和と統一』、岩波書店、2008年)の到達点を端的に示している。

 次は日本の選挙である。東アジアの「平和共存」の流れに積極的に加わるよう、新政権に様々な形で働きかけていくべきである。沖縄の米軍基地を減らすためにも、「韓国併合100年」にそうした市民運動が求められている。

 柳 あい 韓国・朝鮮半島問題研究者。
 1990年代に韓国の大学で教えながら学生たちと交わり、韓国社会の民主化過程をつぶさに見、肌で感じてきた。帰国後は日本と韓国との市民交流や市民を結んだ研究会活動と取り組む。翻訳家としても数多くの仕事を重ねている。






2010年06月10日

HPの最新記事「カシュガル近況&ウズベキスタン近況」

 折々、ホームページの記事についてご紹介していますが、「小島正憲の凝視中国」欄の最新記事、「カシュガル近況&ウズベキスタン近況」は小島氏が実際に現地に赴いてつぶさに取材したレポートです。
 普段なかなか接することのないカシュガル、ウズベキスタンの現場に立って、歴史をふまえて、現在(いま)を見つめた、情報性に富む読みごたえのあるレポートです。
 
 サイトは以下の通りです


 http://www.shakaidotai.com/CCP105.html

 ぜひお読みください。 
posted by 木村知義 at 00:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録

2010年06月08日

単純なことが、一番難しい!

 単純なことが実は一番難しい、ということはよくあることです。
 しかし、やはりこれしかないのではないか、というのがきょうの話です。

 そこで問題です。
 「脅威」に対する最大の抑止は何だろうか、という問題、さて答えは?

 なぜこんな子供じみた問題を出してみるのかと言えば、「天安」問題があるからです。

 その「天安」問題にかかわっては「脅威」と「抑止力」をめぐる議論がもっと活発におこなわれてもいいのではないかと思うのですが、そうでもありません。

 朝鮮半島をはじめ北東アジアには「脅威」が存在していてそれへの「抑止力」が必要だ、というのは安全保障論の疑う余地のないところだとされているからか、議論はそれほど起きません。

 そうした「脅威」を抑えるためには米軍の存在が欠かせない、あるいは日本や韓国など各国の軍事力の一段の拡充が必要で、その上に日米韓の軍事的な協力、連携を一層緊密にしていくことが不可欠だという「常識」に行きつくというのか、そこが前提となって、そこからすべての問題を考えるという展開をたどる。まあこれが「順当」なところでしょうか。

 この線で書き、語っておけばまず問題はというか波風は起きないでしょうし、識者の言説としても、メディアの論調としても「なべて事もなし」ということになるのではないかといえます。

 さて、だからというべきか、ここが一番の考えどころです。

 信頼醸成こそが最大の安全保障だ、などと言うと「専門家」からは一笑に付されるというのが、まあだいたいの今の風潮だというところでしょうか。

 しかし、一笑に付される、この単純な問題提起をしておきたいと、私は考えるのです。

 なぜ一笑に付されるのかと言えば、単純にして難しいからです。

 単純なことはまず専門家というのか「玄人筋」の受けはよくありません。
 残念ながら、それが今の日本の言論状況です。

 次に、難しいことは、というより取り組むことが大変なことは、それ以上に受けません。

 そんなしんどいことと真面目に取り組むなどという酔狂なことはしてられるかい!というわけです。

 第一そんなことを考えても、書いてみても、何の儲けにもならず、得にもならないということを直感的に知るからです。

 「得」にはならないけれど、実は、「徳」になるのだなどということは考えないわけです。

 いささか斜に構えた書き方になっているので、姿勢を正して書くことにしましょう。

 前のブログで、「利」と「理」ということを書きました。
 いま私たちは「利」については大いに語るけれども、「理」についてはあまりにも語らないという状況になっているのではないか、とそんなことを考えるのです。もちろん「利」も大事であることはいうまでもありません。それを否定しているのではなく、同時に「理」についても大事にする視点がなくてはならないのではないかと、控えめにですが、言っているのです。

 朝鮮半島の「核危機」が声高に語られはじめた90年代のはじめ、私は二度にわたって北朝鮮の核問題と朝鮮半島、日本、北東アジアの安全保障をテーマにした番組を担当しました。1992年のことでした。

 いまでこそ珍しくもありませんが、寧辺の核施設(当時はまだ「核施設と見られる、あるいは、思われる」という限定詞が付いていました)を撮った衛星写真を手に入れて、画像解析の専門家や軍事問題、朝鮮半島問題の専門家に出演してもらうという企画の番組でした。

 ただし、米国の情報機関がそうした衛星画像を持っているという話をヒントに、解像能力は当時の「KH11」など米国の「スパイ衛星」よりは数段劣るフランスの資源探査衛星で同じ地域の画像を撮影して入手したものでした。

 その際、ソウルに赴き、当時北朝鮮からの「亡命者」で一番レベルが高いとされた元外交官にもこの画像を見せてインタビューし、北朝鮮の核開発について話しを聞くという取材も経験しました。

 そして、スタジオに朝鮮半島問題の専門家や軍事評論家、衛星画像解析の専門家を迎えて45分間にわたって話し合いました。この三人は、いずれも当時広く名の知られた専門家でした。

 「北の核開発は日本にとって脅威で、いつ何時日本に向けられるかわからないので北をなんとかしなければならない」という出演者の一致した論調に、私は、「そうであれば、北朝鮮との間に信頼醸成が必要になってくるのではないか、そうして北の脅威を緩和もしくは解消していくことが重要なカギになるのではないか、となると、そのために日本はどうすればいいのか・・・」と問いを投げたのでした。

 率直に言って当時はまだ、北の核開発などと言っても多くの視聴者は半信半疑という受けとめだったと記憶しています。

 また北朝鮮の金日成主席(当時)は「我々は核を持つ能力もなければ、その意思もない」という趣旨の言明を重ねていましたので、北朝鮮の核危機というような言説には「エキセントリックに騒ぎ立てている」という響きがなかったわけではありませんでした。

 私は、そうした一部にある北朝鮮にむけた警戒感、危機意識をいたずらに煽るのではなく、問題の根源にさかのぼって冷静に考えていくべきだというスタンスで番組に臨んでいたのでした。

 出演者のみなさんも、私の「信頼醸成が重要になるのではないか」という問いかけに「そうですね・・・」という受けとめで、いくばくかの分析や考えを述べて番組は終了したのでした。
 が、そこでは終わらなかったのです。

 番組終了後控室に戻るなり、「いや、マイッタねぇー。あなたね、本気であんなことを考えてるの?!」と出演者からあざ笑われたというか、なじられたのでした。「北朝鮮みたいな国を相手に信頼醸成なんて成立するわけがないじゃないか。そんなバカなことを考えて番組を担当しているの?!」と。すると3人の出演者一同、「全くそうだ・・・」と意見が一致したのでした。

 もちろんそこは大人の対応というもので、最後は、お互いに苦笑交じりに言葉を濁して解散となったのでしたが。しかし、ことほど左様に「素人がなにを言い出すやら、ほんに恐ろしいものよ・・・」というのが出演者一同の「あざけり」の、と言ってもいい空気でした。

 私は、この「北朝鮮みたいな・・・」というところに大いに引っかかりがあったのですが、別に「北朝鮮信奉者」というわけでもないわけですから、こうした名の知れた専門家と、番組終了後の雑談という、限られた時間で議論してもあまり生産的ではないという気持ちがあったので、まあそこまでにしたというわけでした。

 しかし、彼らが、「北の核がなぜ危険なのかといえば、問題は韓国なんですよ。北の核をそのままにして統一された日にはそれが日本に向かってくることは間違いない。いまはまだ分断されているからいいが、統一となったら南北一緒になって核を日本に向けることになるから大変なことになる。だから今のうちに芽を摘んでおかなければ・・・」と雑談を交わすのを目の当たりにして、当時、日本を代表する朝鮮半島問題の研究者のひとりで、韓国からも高い評価を得ている専門家の本音が奈辺にあるのかを知ることになり、実に「勉強になる」とともに、複雑な思いを抱いたことを記憶しています。

 しかし、たとえ素人の空想とあざけられても、信頼醸成こそが最大、最強の安全保障だという考えが揺らぐことはありませんでした。

 つまり、それが難しい現実があるからこそ、その困難の依って来たる所を根底から見つめ直して、それをどうすれば変えることが出来るのか、信頼醸成を可能とする状況にむけてどうすればいいのか、どのような努力が必要なのかを深く考え、明らかにしていくことがジャーナリズムに求められる事ではないのか、あるいは専門家と言われる人々の責務ではないのか、と考え続けてきたのです。

 私はこのコラムで「所与の前提」を疑うこともなく前提として言説を重ねていくことの危うさについて何度も書いてきました。

 どうでしょうか、今回の「天安」問題。

 「危機的状況」があるのなら余計のこと、それをどのようにすれば平和的な環境に変えることが出来るのか、そのために必要な信頼醸成をどう創りだしていくのかというベクトルの議論や考察がメディアで、論壇で深められているでしょうか。

 現実はと言えば、上に書いた「専門家」たち同様、脅威を抑止するためには日米韓の軍事連携を一層深め、レベルを上げなければならないという全く逆のベクトルの論調、議論ばかりがメディアや論壇という、言論空間を覆っているのではないでしょうか。

 これが識者の、あるいは専門家といわれる「ひと群れの人たち」の言説、議論でいいのでしょうか、ジャーナリストの語るべきことなのでしょうか。

 と、ここまで、朝、書いて出かけて、夜帰宅したあと、続きを書こうとしたところ、このブログの読者の一人で韓国メディアの報道を毎朝チェックしている方から、韓国KBSで重要なニュースが伝えられたというメールが届いていることに気づきました。

 そのメールの一部を引用すると、
 「今朝(6月7日)のKBSニュースをチェックしていたら、謎だらけのニュースがはさまっていました。
 AP通信が、『米軍官吏』の言葉を引用して報道したというクレジットで、『天安艦、沈没当時、米韓合同軍事演習を行っていて、北の魚雷などの攻撃に対する脆弱点が明らかになった』とのこと、ここまでは、いいんですが、次のくだりです。
 『ある、米軍官吏は、北の所行を前提としながらも、天安艦の沈没が、北朝鮮の意図的攻撃というよりは、ある強硬派の司令官の所業か、あるいは、(北朝鮮側の)、事故、訓練中のミスであり得ると分析した。』
 随分、時間が経過していますが、今になって、こうした内容を発表する意図、背景が何なのか、やはり、気になりますね。あきらかに、これまでの、韓国の強硬姿勢を支えていた論拠を、内から崩しかねない要素が含まれてますね。」
というのです。

 APの情報をキャリーする形で伝えられたニュースですが、調べてみると、韓国・中央日報と聯合通信でも、関連する情報が伝えられていました。

 まず中央日報です。APをキャリーする報道となっています。
 天安艦沈没事件が発生したとき、韓国と米国両国軍は事件発生場所から75マイル(120キロ)離れた所で合同対潜訓練をしていたとAP通信が5日(現地時間)、報道した。
AP通信によると韓米キーリゾルブ訓練の一環だった両国軍の対潜訓練は3月25日夜10時に始まり、翌日(26日)夜9時に終わったと在韓米軍スポークスマンジェイン・クライトン大領(ママ)が述べた。 また天安艦沈没事件が発生する前日、米駆逐艦2隻と、違う艦艇が(ママ)韓国潜水艦が標的役割をする中、追跡訓練をしたと付け加えた。韓国海軍関係者はこの報道に対し「天安艦沈没当時、韓米両国が忠南泰安半島西格列飛島以南の海上で訓練中だったのは合っているが、事件当日、対潜訓練があったかは確認していない」とし「事件が発生した海域とは120キロ以上離れていて事件を認知することは難しかった」と述べた。

 しかし、聯合通信の報道を読んでみると、中央日報では、どういうわけか、肝心な部分が脱落していることに気づきます。

 聯合通信の伝えるニュースです。
 【ソウル7日聯合ニュース】北朝鮮の魚雷攻撃で韓国海軍哨戒艦「天安」が沈没した3月26日、直前まで黄海では韓国と米国による海上演習が行われていたことが分かった。
 国防部の元泰載(ウォン・テジェ)報道官は7日の定例会見で、韓米合同軍事演習「キーリゾルブ」が3月25、26の両日、泰安半島に近い黄海上で実施されていたと明らかにした。「天安」が沈没する前の午後9時に終了し、演習実施海域は沈没地点から170キロメートル離れていたと説明した。日中は対潜水艦演習も行われたと承知しているとした上で、海上から170キロメートル離れていれば、潜水艦の探知は不可能だと述べた。
 韓国軍と民間による沈没事件合同調査団のムン・ビョンオク報道官よると、当初の演習日程は28日までだったが、沈没事件のため中断された。
 元報道官はまた、ロシアの調査団が合同調査団の調査結果に疑問を提起したとの報道に対し、「ロシア調査団は外部に一言も語っていない」と強調した上で、報道された内容は事実ではないと否定。調査団が本国に帰れば、ロシア当局から発表があるだろうと述べた。
 一方、哨戒艦沈没事件との関連で、パトリオットミサイルを配置することは検討していないと言明した。


 以上が聯合通信の伝えたところです。
 「韓国軍と民間による沈没事件合同調査団のムン・ビョンオク報道官よると、当初の演習日程は28日までだったが、沈没事件のため中断された。」という重要な情報が中央日報では欠落しています。

 一つのニュースの中に矛盾する情報が盛り込まれていますので、これらの情報をどう読み解くのか、非常に難しいところですが、要は、「天安」は沈没まで米軍との共同訓練(演習)に参加していたということ、そして「天安」沈没によって28日までの予定を繰り上げて訓練は中止されたということが読み取れます。

 訓練海域と沈没現場が120キロ、もしくは170キロメートル離れていたと、さりげなく、強調されている(形容矛盾ですがニュースの内容がそうなので仕方ありません)のですが、それでも常識的に考えて米韓両国の軍艦艇が多数参加して展開している共同軍事訓練(演習)の最中に北朝鮮の小型の潜水艇が誰にも知られず潜入して「天安」に向けて魚雷を発射して、音もなく姿を消したということになります。

 軍事に通じていない素人の私でも、こうした米韓軍事訓練(演習)の最中に北朝鮮の潜水艇が潜入して魚雷を発射するという所業に及んだ場合、これは戦争(の勃発)以外の何ものでもないというぐらいのことはわかります。

 加えて、「脅威と抑止力論」に立たない私としては矛盾するもの言いになりますが、もしこのニュースが伝える通りであれば、世界に誇る米軍の最先端の軍事力と韓国海軍の連携した対潜作戦訓練をかいくぐって北朝鮮の小型潜水艇が潜入できたということは、米韓両軍の力ではなんの「抑止力」にもならないという、はなはだこころもとない現実をわれわれは目にしてしまったということになります。

 あるいは、そうでなければ、日頃多くのメディアで、訓練用の航空燃料もないと揶揄されているあの北朝鮮の軍事力ですが、特に海軍力だけは、ロクに飛べもしない旧型の航空機群と違って、装備と錬度も飛躍的に高く、米韓軍のそれをはるかに上回る、つまり世界に冠たる水準になるということになります。

 また、対潜訓練が行われていたということは軍艦艇だけではなく、当然のことながら対潜ヘリなど空海の連携で訓練が展開されていたはずです。

 ということになると、くだんの北の潜水艇は一体どのようにしてこの海域に潜り込み、どうやって帰って行ったのでしょうか。

 当局側が、あるいは李明博政権、そして米国サイドが、韓国国内で広がる「疑念」を解こうとしてさまざまに説明を加えていけばいくほど、論理的に矛盾を深めていくという推移をたどっていると言わざるをえません。

 また、聯合通信のニュースの末尾にロシアの専門家グループに言及がありますが、国防部の報道官がこうしてわざわざ「『ロシア調査団は外部に一言も語っていない』と強調」というのは、かえって疑念を深めることになってしまい、言えば言うほど言い訳がましくなるという印象を持ってしまいます。

 重ねて言いますが、この一連の報道の読み方は実に難しいところです。
 が・・・、注意すべきは、米国サイドが微妙に軌道修正をはじめていることが読み取れるということです。

 そして、KBSの報道にあるように、北の「強硬派の所業」か、ということを持ち出したところまでは、まあまあ、「わかる」としても、「北の訓練中のミス??」という「珍説」まで持ち出しはじめたというわけで、俗な言葉を引けば、なにやら「シッチャカメッチャカ」という展開になってきたとしか言えません。

 一方、中国国際放送は7日夕方以下のように報じました、
 韓国国防省の元泰載報道官は7日、哨戒艦「天安」号が沈没した当日、韓米両国が事件発生地点から170キロ離れた海域で海上軍事演習を行ったことを認めました。 元泰載報道官はこの中で「韓米合同軍事演習は3月25日と26日に泰安半島付近西部海域で行った。26日午後から夜まで、潜水艦対策と浸透対策の演習をしたが、米軍潜水艦は演習に参加しなかった」として、さらに「この日の軍事演習は『天安』事件発生前に終了し、しかも、演習する場所は事件発生地点まで170キロも離れ、潜水艦の探測が難しい」と述べました。 韓国のマスコミは、元泰載報道官のこの話は、韓国国民の間で言われている「『天安』号が米軍潜水艦と遭遇して沈没した」ということを打ち消すためだと見ています。

 一つの情報源であることは確かだろうと思いますが、それぞれが微妙に違っていて、意図してか、意図せずにかは判然としませんが、「混乱」が生じはじめています。

 APの情報をめぐる「詮索」は、ひとまずここまでにしますが、なにやらわけのわからない情報が錯綜して、どうもおかしなことになってきました。

 韓国軍−国防部当局、李明博政権さらには在韓米軍当局、米国は、このまま、あやふやにして収束するのか、あるいは、続報でなんらかの「筋道」をつけて「収束させる」のか、もう少し様子をみてみる必要があります。

 しかし、ふたつだけ、加えておくと、
 まず、5月31日から韓国に調査に入っていたロシアの専門家ティームが7日帰路についた(「ロシアの声」)というロシアサイドの報道がありますが、それだけで調査の中身についての言及はなく、実にそっけない報道となっています。
 
 それどころか、「ロシアの声」では、別建てのニュースとしてですが、天安問題が国連安保理に提起される背後で中国とロシアが「意見交換」と、報じています。

 その記事の中で極東研究所・朝鮮研究センターのアレクサンドル・ジェビン所長の以下のコメントを引きながら次のように伝えています。

 「現場から引き上げられた魚雷と爆破装置については当初、ドイツ製との報道があった。米韓海軍ともにドイツ製を配備することもあるからだ。その後、北朝鮮製であるとの説が唱えられるようになったが、専門家からは非常に強い疑問が寄せられている。事故現場となった海域では、最新の追跡システムを搭載した米韓の軍用艦が軍事演習を実施していた。北の潜水艦が全く気づかれずに通過できたとの見方はおかしい。天安を沈めたとされる魚雷の残骸も大問題だ。船を真っ二つにした魚雷のボディ部分はほとんど何にも触れていないようだし、部品の一部も完全に無事なのだから。」
北犯行説の主な証拠となっているのは、魚雷の残骸につけられている識別番号だ。とはいえそれも工場の製造ラインで機械により印字されたわけではなく、マーカーを使い手で書かれている。さらにジェビン所長は、「もし魚雷が北朝鮮製だとしても、天安を沈めたかどうかは別問題」と主張する。
「南北間で幾度となく武力衝突が起きた現場海域では、非常に多くの魚雷が沈んでいる。うちひとつが爆発し、海底に沈み、発見されたということもありえるのだ。だから北朝鮮は米韓による挑発行為ということが出来る。(ベトナム戦争勃発の契機となった)トンキン湾事件でも米国は同様の手口を使っており、北の主張には一定の根拠がある。」

 とうとう「トンキン湾事件」までが登場する仕儀となっています。

 もうなにがなんだか、さっぱりわからなくなってきます??

 そして、もうひとつ。「AERA」の最新号(6月14日号)では元朝日新聞記者で軍事ジャーナリストの田岡俊次氏が「天安の行動書かず/釈然としない報告書/謀略とも思えないが」と題して「天安問題」を取り上げています。

 そこでは軍事の専門記者としての立場で今回の「報告書」に疑問を呈しているのですが、その詳細は「AERA」に譲るとして、「とはいえ、韓国が事件を捏造することも考えにくい。北が崩壊し統一となれば韓国の負担はドイツ統一後の西独の比ではなく、援助で現状維持を図る韓国が、北を追い込む謀略を企てる理由がない。なお釈然としない気分から脱しきれずにいる。」と結んでいます。
 
 この文意をどう読み取るのか、なかなか手ごわいものがあります。

 田岡氏が普天間問題と「天安」との関連に無知でいるというようなことは考えられませんから、ここで普天間問題に全く触れられていないというのは、このことを除けば「北を追い込む謀略を企てる理由がない」ということだよ、つまり・・・、と問わず語りに何かを伝えようとしているのか、あるいは本当に普天間問題などとの関連性に思いを致すことがない(つまり軍事問題専門家としてはまったくの「バカ」ということになりますが)と思っているのか、さてどちらでしょか、という含みの多い論考となっています。

 さて、この稿の本筋は、6月2日の地方選挙に見られた、韓国市民の力強さと健全さこそが、強力な安全保障になっているということ、そして、信頼醸成こそが最大、最強の安全保障なのだということを、韓国の地方選挙を具体例にして書こうとしていたものです。
 
 しかし、「天安」問題の報道に「奇妙」な展開があったので、「脱線」せざるをえませんでした。

 本筋についてはあらためての「続き」とすることにします。
 6月7日深夜記(つづく)


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2010年06月01日

ミスリードしてはならない!

ミスリードしてはならない!
きょう昼のテレビニュースを見ていて思わず口をついて出た言葉がこれでした。

 ミスリードしてはならない!!

 そのニュースとは、きょう昼モンゴルに向けて日本を離れた中国の温家宝首相が「天安」問題について語った内容について伝えるニュースでした。

 そのニュースでは以下のようなコメントとともに温家宝首相がインタビューに答える姿が伝えられました。

 温家宝首相は韓国の哨戒艦の沈没事件について、各国が冷静に対応し軍事的な衝突を回避すべきだとしたうえで、「衝突が起きれば最も被害を受けるのは韓国であり、中国も被害を免れない。中国には『城門に火事が起きると、災いは池の魚にも及ぶ』ということわざがある」と述べ、朝鮮半島の平和と安定の維持を最優先にする考えを示しました。そのうえで、温首相は「中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく」と述べ、友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました。一方で、韓国が目指す国連安保理への事件の提起については「中国は各国の状況や反応を真剣に検討して態度を決めていきたい。どのような姿勢で臨むかは見守ってほしい」と述べ、安保理での中国の対応については明言を避けました。

 私が、違和感を感じて思わずエッと思ったのは、「温首相は『中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく』と述べ、友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました。」というくだりでした。

 これを取材して出稿した記者がそう受けとめたのか、あるいはもっと別のコメントだったものがデスクの判断でこうなったのか、それはわかりませんが、「中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく」ということが、「友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました。」ということになるのでしょうか。

 さて、月並みな表現になってしまいますが、ここはまさに取材者が問われる「正念場」です。

 ここで言う「公正な立場」とはどのような含意なのか、取材した記者は考えたでしょうか。

 取材の出発点が、「極悪非道」な北、その被害を受けてなお「自制する」南という、せいぜい鳩山首相と同レベルの認識と問題意識でしかないことを如実に露呈してしまったというべきです。

 いや、こんなことを言うとこの記者は、一国の総理と同レベルということはスゴイじゃない!と、まるで褒められていると勘違いしそうですから、ここは言葉を選ばなければなりませんね。

 そんな「与太話」は置くとして、この温家宝首相の「ことば」をどう読み取るのかは、事の本質にかかわる重大な問題です。

 結論から言うと、あれこれ言葉を重ね、策を弄してなんとか温家宝首相に韓国、日本の「言い分」に寄り添った(かのような)コメントを引き出したいと狙った日本の、そして韓国の思惑は完全に外れたというべきなのです。それを示したのがこの温家宝首相のコメントだと読み取るべきです。

 六カ国協議の構成メンバーであることから、普通であればロシアのメディアまで見たり読んだりしないのですが、今回の問題が起きてからは、それなりに努力してロシアのメディアの論調もチェックしてきました。ロシア語など一言も解さないにもかかわらずです。
 
 その結果、韓国の「調査報告」にいくばくかの「疑問」を呈していたロシアでしたが、韓国に「調査団」を派遣することになり、いまソウルで「調査」に当たっていることがわかりました。

 では中国はといえば、調査団をという韓国側の「誘い」にもかかわらず、ロシアとは違って、派遣しないということを韓国に通告しました。

 もちろん、今後、未来永劫にということではないでしょう。「条件」次第では変わることもあり得ます。

 しかし、いま、韓国の政権べったりのメディアはそれがいたく気に食わないと見えて、中国への「苛立ち」の論調を醸し出し始めています。

 【ソウル=築山英司】一日付の韓国紙、朝鮮日報は、韓国軍哨戒艦沈没を「北朝鮮製魚雷の攻撃」と結論付けた調査結果をめぐり、中国が韓国政府による追加資料提供や調査団派遣などの要請を拒否したと伝えた。同紙によると、韓国政府は哨戒艦沈没の国連安全保障理事会への問題提起を前に常任理事国である中国とロシアに「信用できないなら調査団を韓国に送り、調査結果を検討してほしい」と要請した。ロシアは調査団を派遣したが、中国からは返答がないという。(「東京」6月1日夕刊)

 これぐらいなら、それがどうした、という程度でしょう。
 しかし以下を目にすると、韓国の「焦り」がどのようなものかが直截に伝わってきます。

 「哨戒艦沈没:韓国側の追加資料受け取らない中国」
 5月29、30の両日開かれた韓中日首脳会談で、中国の温家宝首相から「国際合同調査団と各国の反応を重視する」という言葉を引き出したものの、韓国政府からは「天安」沈没事件に対する中国の態度に冷めた声が続いている。表面的には大統領府(青瓦台)関係者が「中国が一歩前進した」と評価し、外交部の金英善報道官が「中国との意思疎通は現在進行形だ」と述べるなど、表情を取り繕ってはいるが、内心は「中国はあんまりだ」というため息ばかりだ。 韓国政府は「天安」事件を国連安全保障理事会に問題提起する件について、明確な立場表明を行っていない中国とロシアに対し、「調査結果を信頼できないならば、専門家チームを韓国に送り、調査結果を検討してほしい」と要求した。ロシアは5月31日に潜水艦と魚雷の専門家で構成される海軍調査団4人を韓国に派遣し、検討作業に着手した。しかし、中国からは何の回答もない。韓国政府高官は「何の回答もないことからみて、中国は最後まで専門家チームは派遣しないのではないか。国際社会がすべて合同調査団の調査を信頼しているにもかかわらず、中国だけが理解できない反応を示している」と話した。韓国政府は5月20日の調査結果発表直前に事前説明まで行い、「必要な資料があればいつでも送る」と中国側に伝えた。クリントン米国務長官もソウルで、「韓国が400ページに達する調査報告書を中国に提供すると提案したと承知している」と述べた。しかし、中国は専門家チームの派遣どころか、追加資料の受け取りをも拒んでいる。中国は韓国の提案に耳を閉ざしたまま、張志軍外務次官が「中国は『天安』事件に対する一次資料を確保していない」と述べている。また、武大偉朝鮮半島問題特別代表も「北朝鮮の仕業だと証明する独自資料はまだない」として資料不足を理由に挙げた。「天安」事件は韓国領海で起き、船体、残骸(ざんがい)、北朝鮮製魚雷のスクリューなどの一次資料をすべて韓国政府が保有しているにもかかわらず、「一次資料がない」とやや矛盾する主張をしている格好だ。韓国政府関係者は「温首相の言葉通りに是非をわきまえて判断するというならば、資料を必要としているはずなのに、提供するという資料に関心がないのは理解できない。中国がいう一次資料とは何なのか分からない。具体的にどういう資料を欠いているのか知らせてほしい」と話した。このほか、中国政府高官は外交ルートを通じ、「韓国は中国の立場を今は理解できないだろうが、長期的にはわれわれの判断が正しかったことを悟ることになる」と訓戒でもするかのように語ったという。韓国政府は「天安」事件を国連安保理に問題提起し、北朝鮮を非難する決議案か議長声明を出す方向で協議する過程が中国の態度変化を期待できる最後の機会ととらえている。
(韓国・「朝鮮日報」6月1日)

 ここまでなら、まあ、まあそんなにムキにならずに・・・と宥めもしますが、以下のような論調になるともう度をこえているというべきでしょう。メディアの品格もなにもあったものではありません。
 しかしとにかく読んでみましょう。

 『金総書記に援交費やるのはもうやめろ』
 「中国は『シュガーダディー(sugar daddy=援助交際男)』、
  金正日に援助交際費を渡すのはもうやめろ」
 米国の有名な経済コラムニスト、ウイリアム・ペセック氏は5月31日、ブルームバーグ通信のコラムで、中国を北朝鮮の金正日総書記と援助交際をする金持ち男に例え、上の通り主張した。
 『シュガーダディー』とは、自分よりはるかに若い女性に金品を与える代わりに、性的な関係などを要求する金持ち男のことだ。
 ペセック氏は、「中国は、世界で最も孤立している北朝鮮政権に、食糧・石油・援助物資を支援する最大のスポンサー。このため、中国が北朝鮮に大きな影響力を行使しているのは否めない」と語った。
 また、「ハエになって中国の指導者たちの部屋に忍び込まなくても、彼らが『天安』沈没で(北朝鮮に対し)いらだっているのが分かる。中国がこの煩わしい蚊(金総書記)をたたき落とさないのは、北朝鮮政権の崩壊がもたらす脱北者の大量発生や、韓半島(朝鮮半島)での米国の勢力拡大を懸念しているからだ」と分析した。
 だが、「北朝鮮の崩壊は中国や韓国の経済にとてつもない影響を与える可能性があるので、誰もこれを心から願ってはいない。
 中国はもう、金総書記の挑発行為の尻ぬぐいをやめ、アメではなくムチを手にしなければ」と強調した。
 中国が支援を中止すれば、北朝鮮はほかの国と交渉をせざるを得ず、北朝鮮の経済開放は北朝鮮住民の福祉やアジアの安定に寄与するとペセック氏は考えているのだ。
 そして、「成長する経済力にふさわしい外交的努力を示せずにいる中国は、果たして国際社会の責任ある一員になれるのだろうか」と疑問を呈し、「北朝鮮は中国が国際的な責任を果たす国であることを証明する絶好の舞台」と述べた。(「朝鮮日報」6月1日)

 物事には限度というものがあります。しかし、反面、これはいまの韓国の「苦衷」を余すところなく伝えていると見ることもできるわけで、その意味ではこの記者は「なかなかいい仕事」をしていると言えなくもありません。

 さて、こんな言説に付き合っているとこちらまで「下品」になってしまいそうで、いいかげんのところで切り上げなくてはと思います。

 そこで最後に、これまた日本のメディアでは伝えられない重要な情報について引いておきます。

 外交消息筋は28日「中国が天安艦事件と関連して駐韓国連軍司令部(UN司令部)と中国、北朝鮮が参加する共同調査を実施しようと米国に提案した」と明らかにした。この消息筋は「中国は先週頃にニューヨーク国連代表部チャネルを通じてこういう提案をした」とし「この間 機能を喪失した軍事停戦委員会(軍政委)を開き共同調査をしようということだった」と伝えた。米国と中国は去る24〜25日、中国北京で開かれた米中戦略・経済対話で中国側のこういう仲裁案に対する調整を終えた後、UN司令部の天安艦事件特別調査チームを通じ26日 韓国政府に通知したということだ。これと関連してUN司令部特別調査チームは、中国人民解放軍の軍政委復帰を要請すると韓国側に通知し、朝鮮人民軍の‘共同監視小組派遣’も北側に要請すると通知した。これと共にUN司令部特別調査チームは‘対話を通した天安艦事態の解決’が必要だという点を強調したと伝えられた。UN司令部は去る22日天安艦沈没事態の原因を糾明するため‘特別調査チーム’を構成した経緯がある。中国のこういう新仲裁案は去る20日、北朝鮮の‘国防委員会検閲団(調査団)派遣’提案を韓国が拒否した事実を考慮した新折衷案だと見られ、現実化する場合、天安艦事態が新しい局面に入ると予想される。中国の提案に対し韓国政府はまだ公式方針を明らかにしていないが、北に弁解する機会を与えることになるだけだとして、慎重に考慮しなければならないという態度だとされる。温家宝中国総理は28日午後、大統領府で開かれた李明博大統領との会談で、天安艦沈没事態に関連して「中国政府は国際的な調査とこれに対する各国の反応を重視し事態の是是非非を分け、客観的で公正に判断して立場を決める」と表明した。温総理はまた「中国はその結果に従い誰もかばうことはしない」と述べたとイ・ドングァン大統領府広報首席が語った。温総理のこの発言は、中国が提案した‘南・北・米・中など国際共同調査’提案を念頭に置いたものと見られる。李明博大統領は「北朝鮮を正しい方向に導くためには断固たる対応が必要だ」として「今回ばかりは北が誤りを認めるよう中国が積極的な役割をして欲しい」と述べた。温総理は国会でキム・ヒョンオ国会議長と会見した席で「我々は事態悪化と衝突発生を予防するため各国が冷静さと自制を維持するよう訴えている」として「朝鮮半島で衝突が起きれば最も大きな被害をこうむるのは韓国と北朝鮮、そして中国だ」と語った。(「ハンギョレ新聞」5月29日から)

 さて、もう一度冒頭の温家宝首相の「中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく」というコメントに戻りましょう。

 この含意は、少なくとも韓国が国家の威信をかけて発表した「調査報告」であるかぎり、韓国の立場を(メンツを)損なうようなことはできない。仮にも韓国の「発表」を否定するなどということはあってはならないことだ、しかしだからと言って、そのままハイソウデスネとはいかない!
 ゆえに、「公正な立場を堅持する」ということなのだ、と温家宝首相は語ったと読み解くのが理にかなうということです。

 冒頭のニュースが、意図してなのか、意図せずなのかはわかりませんが、なんとかして、中国が「友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました」というところに誘導したいという、「見えざる手(思い)」が働いたということは否定できないと思います。

 それがごく自然な読み解きとならざるをえません。

 メディアは、そして情報の受け手である私たちは、相当賢くならなければメディアの「導き」でとんでもないところに連れて行かれるかもしれないと、自戒を込めて、思うのでした。

 メディアはミスリードしてはならない!
 それが最低限の掟です。






posted by 木村知義 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録

2010年05月31日

普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(13)

 (承前)
 日中韓三国首脳会談に臨む鳩山首相が、政府専用機から幸夫人と手をつなぎながらタラップを降りる姿をニュースで見ながら、「韓流ファン」と伝えられる幸夫人を同行したのは夫妻での外遊はこれが最後という思いからなのだろうかといらぬことを考えたりしました。

 週明けの各紙朝刊は鳩山政権への支持(率)の一層の下落を伝えるとともに、社民党の連立離脱の記事をはじめ紙面のどこかに「退陣」の二文字の活字が見受けられる「危機的状況」になりました。

 とはいうものの、普天間問題と「天安」沈没事件にかかわって「昨今の朝鮮半島情勢」と「脅威と抑止力」論については深く検証されることはなく、各紙とも中国が必ずしも日韓と同じ立場に立たなかったことを取り上げて「日本は中国説得強めよ」あるいは「『北』に高をくくらせるな」といった社説を掲げています。

 朝鮮半島の平和と安定というとき、何をもって平和であり安定だと考えるのか、メディアが、そして私たちが深く問われると思います。

 ところで、鳩山首相はソウルの空軍基地からヘリコプターで大田の国立墓地「顕忠院」に立ち寄って「天安」沈没犠牲者の墓に詣でて済州島に向かいました。

 また首脳会議冒頭に「天安」沈没犠牲者への黙とうを提案するなど際立った「存在感」を示しました。

 ただし「予想以上の支援だが何か理由があるのか」と韓国政府関係者は、「鳩山首相の韓国への強い支持を歓迎しつつ、戸惑いも見せる。」(「朝日」5月31日)ということだったというのですから、鳩山首相の「善意」もそのまま素直に伝わったとはいえないようです。

 首脳会議は、「天安」沈没事件について「3カ国首脳は域内の平和と安定を維持するために協議を続け、適切に対処していく」とした共同報道文を発表し閉幕、中国の温家宝首相はその足で日本を訪問しています。

「域内の平和と安定を維持する」という文言の重みと含意を的確にとらえることが必要だと、いまさらながら痛感します。

 さて、朝鮮半島に緊張緩和の兆しが見えていた、はずの今年年明けから3月までの「動き」をトレースしながら、3月26日の「天安」沈没、そして「北朝鮮の仕業」に至る推移を吟味し、そこから何が見えてくるのかを考えてきました。

 すでにお分かりのように、これらの作業はすべて「公開情報」にもとづいて、それらを読み込み、個別の情報の背後に流れる「つながり」(連関)を解析していくことで背後に隠された事態の「構造」をとらえてみようという試みでした。

 したがって、誰も知らない「極秘情報」を、私が、知ってます!といった性格のものではなく、誰もが見ているもの、誰の眼にも見えている事柄の向こうに何を見るのかという営みにほかなりません。

 そうした立場と方法でメディを読み解き、それを通して世界を、この場合は朝鮮半島をはじめとする北東アジア情勢を、そして東アジアとのかかわりで米国を読み解き、見据えていこうというものです。
 きのうまでの2回のポイントを再度まとめておくと、昨年末のボズワース北朝鮮政策担当特別代表の訪朝後「南北関係」と「六か国協議再開―米朝協議」にむけて「動き」がはじまり、まさに「最終幕の緞帳が上がる」一歩手前まで来ていたということと、そうした「動き」によって朝鮮半島で緊張緩和と冷戦構造の超克にむけの胎動がはじまることへの「逆の巻き戻し」が複雑に絡み合いせめぎ合って軋んでいた、まさにそのぎりぎりのところですべてを「ご破算」にするかのように「天安」沈没という事件が起きたということです。

 その際注意が必要なのは、一方の水面下で動いていた「南北首脳会談」の模索に対して今年2月に訪韓し玄仁澤統一相と会談したキャンベル米国務次官補が「米韓は南北首脳会談と6者協議の開催のいずれもを北朝鮮に促すことで意見が一致した」としながら一方で「すべての面で米韓が必ず調整せねばならないというのが核心だ」と述べて「韓国政府が首脳会談のみを先行させないよう暗に牽制した」ことです。

 この時、韓国統一省は「キャンベル氏が、南北関係発展のための韓国の努力を全面的に支持すると語った」と発表して米国の支持を強調したのでしたが「韓国政府関係者によると、玄統一相らが南北首脳会談に向けた動きについてもキャンベル氏に説明したが首脳会談について直接の支持は表明していない模様」(「朝日」2月4日)ということでした。

 そして、このあと力点は北朝鮮の6カ国協議への復帰を視野に入れた「米朝協議」に移り、六カ国協議の議長国、中国を間に挟みながら米朝両国が激しい駆け引きを繰り広げ、「米国と北朝鮮は3月26日、天安艦事件発生直前、朝米両者会談および(予備)6カ国協議の連続開催に合意し、これにより米国は金桂寛北朝鮮外務省次官の訪米のためのビザ発給準備に入ったが、天安艦事件が起こり取り消された」(韓国・中央日報5月20日)という事態を迎えることになるわけです。

 米国は3月末または4月初め、北朝鮮の金桂寛外務次官にビザを発給することにして準備に入ったということでしたが、その数日後の26日、天安艦事件が起こってプロセスが全面中断に至ったということで、「事件初期には天安艦沈没原因が明らかにされなかっただけに米国は朝米両者会談オプションを完全に捨てないで状況を注視した・・・しかし事件発生2週後、北朝鮮の犯行であると明らかになると、米国は韓国の“天安艦事件・6カ国協議”基調に同意して朝米両者会談方針を下げた」というのでした。
 
 この背後では、アメリカのキャンベル国務次官補のたびたびの韓国、アジア訪問、そして米国の情報機関を束ねる米国家情報局 (DNI) のシルビア・コープランド北朝鮮担当官の極秘訪韓などがあった、というわけでした。

 で、この間、「昨今の朝鮮半島情勢」から、「東アジアの安全保障環境」に不確実性が残っているので、海兵隊を含む「在日米軍の抑止力」を低下させてはならない・・・というロジックで沖縄の普天飛行場の移設問題が従来の「日米合意」に戻る形で「迷走」に「決着」をつけた(実はなにも決着していないことは言うまでもありませんが)というわけです。

 加えて、韓国で「懸案」となっていた、朝鮮半島有事の際の韓国軍の作戦統制(指揮)権についても、2012年4月とした米軍からの移管が、韓国側からの要請という形をとって、いわば「白紙」に戻った、というわけです。

 すべては、「天安」沈没事件が大きなテコとなって「事態」を動かしたというわけです。

 もちろん、こうした考察がそのまま「天安」沈没の原因を定めることにはならないのは確かです。

 しかし、一体「天安」沈没事件とはなんであったのかを考える重要な、しかも無視してはならない要因であることは間違いないと言えます。

 沈没の原因はなんであれ、この事件をフルに活用してまさに北東アジアの安全保障体制を米―韓―日の連携の中でそのもっとも「望ましい状態」に持っていこうとした力が働いたと考えることはそれほど的ハズレではないだろうと言えるでしょう。

 そして、そのもっとも「望ましい状態」とは、この地域に緊張緩和と信頼醸成、そして平和的共存の条件がもたらされないことを意味することは、結果から明らかだと言えます。

 では、誰がそれを望んだ、あるいは今も望んでいるのかが、沈没の真の「原因」を究明するカギとなる、これが今回の「事態」の、私のとらえ方だというわけです。

 物事は常に「理」と「利」が複雑に絡まりあって動いていきます。その「理」と「利」を的確に読み分けていくことが、その実体と本質を明らかにしていくうえで重要な「分水嶺」になると考えます。

 それでは、今回の問題あるいは事態に対する、関係する各国の「利」は何で「理」はどういうものであるのか、これがメディアであれ、私たちであれ、それぞれに問われてくるのだと考えます。

 このことをおろそかにすると、そこにあるのは、ただすべてを「所与の前提」とする横並び、もしくは全体の流れに身を寄せていさえすればなにも問題はないという、荒野のみということになるのでしょう。

 さて、そこで、今回の「調査報告」の発表に対する「疑問」についてです。

 私は、軍事技術や武器について何かを知っているわけではありません。したがって、素人の素朴な疑問に立って考えるということにならざるをえません。

 その際手がかりになるのは、日本で読み、目にするメディアにおいてではなく、韓国国内で今回の「調査報告」がどう受けとめられているのかということになります。

 韓国の知人たちの協力で、韓国国内で今回の「調査報告」に様々な疑問と疑念が広がっていることを知ることができました。

 しかも、それらは私のような「素人」ではなく軍事分野の専門家や研究者、大学教授といった人々からの疑念です。なかには青瓦台(大統領府)で外交安保政策秘書官を務めた経歴の人や外交・安保専門誌の編集長などもいます。

 日本のマスメディアの紙面や空間で、それらが一切顧みられていないことが不思議なくらいです。

 ランダムにならざるをえませんが、いくつか、メモ風に記してみます。

1.20日の「軍民共同調査団」の報告は、4月2日に韓国国会で国防長官がおこなった「北の潜水艦2隻の所在がつかめなくなっているので追跡調査をしたが、(北の)潜水艦基地は遠く離れているので天安沈没との関連性が薄いと考えている。北の潜水艦はアメリカの最新鋭の潜水艦のような長い潜航航続距離をもっていないので天安沈没海域まで潜航してきたとは考えがたい」という趣旨の答弁を正面から覆すものとなっている。北の130トン級の小型潜水艦は(国防長官が言った)航続距離と潜航能力の限界を「克服」して、しかも装着可能な限界をこえる1.7トンの重魚雷を装着して、なおかつ誰にも知られず海中を南下して「天安」を真っ二つに折って、その後悠々と姿を消したことになる。軍事・安保専門家たちは、このような小型の潜水艦が、国防長官が認めた「限界」をこえて作戦に成功したとは納得しがたいとしている。それらの専門家は特に、この規模の小型潜水艦に今回いわれるような重魚雷の装着が可能かどうか、ないと言われてきた「水柱」があるなど、「調査報告」の信ぴょう性に大きな疑問が残るとしている。

2.発表の形式と内容は、それなりに充実していて、質疑応答も誠実に行われた。しかし、決定的な証拠という面では全体的に不十分で説得力に劣ると言わざるをえない。魚雷の推進体に書かれた番号とハングルが決定的な証拠ということになるが、北朝鮮は一般的に(武器の)数字をふるときは「1番」「2番」より「1号」「2号」と表記する。7年前に回収した北の訓練用魚雷でも「4号」と書かれてあった。したがって、今回の魚雷のように「1番」というような表記の他の例が示されれば説得力もあっただろう。また北が「1番」というような文字を書き入れて自分たちの仕業であるあることを証明する「物的証拠」をなぜ残したのか理解できない。さらに、バブルジェットの効果で水柱が100メートル上がり、白いフラッシュの柱として観測されたとしているが、全く説得力がない。水柱を見たのが哨兵ただ一人だけだというのも理解できないし、それほどの水柱が巻き上がるほどの強力な爆発であった場合、死亡者の遺体が「完全無傷」ということはありえない。このような問題に対する補足的な説明がない場合は、国際社会から決定的な証拠としては認められないだろう。

3.130トン級の小型潜水艇がどのように1.7トンの重魚雷を搭載してきたのかが最も納得できない。潜水艦にはそのサイズに応じて、積載して運航できる重量制限というものがある。潜水艦は水中では動力をバッテリーに依るため、サイズは小さくともメカニズムは非常に多岐にわたる。したがってそれらの重量を勘案して最適な攻撃手段を確保することがとてもむずかしい。今回のような小さなものに重魚雷の装着を可能にするのは非現実的だと言わざるをえない。

4.また、「サケ級潜水艇」というのは今回初めて登場したが、ファン・ドンウォン情報本部長が「サメ級」と類似していると答えていた。「サメ級」は330トンから重魚雷が装着可能なのでそのように答えたのだろうが、「サケ級」と近いのは80トン程度のユーゴ級だ。これは物理学の問題なので明白だが、説明が強引だという印象を受けた。

5.水柱がなかったとしていたのだが、途中からは、左舷の横に水がはね跳んだという記述が新たに出てきて、水柱があったということになったが、生存者のメディアとの接触が遮断された状態で、生存者の新たな証言を根拠にしてというのだが、果たして信ぴょう性があるのだろうかという問題もある。

6.先月(4月)25日の2回目の調査結果の発表のときは、水柱がないという問題について、「水平爆発をすると水柱もなかったということになる」と説明したが、今回は水柱があったとして「発破か所」をガスタービン室中央から左舷3メートル、水深6メートル〜9メートルとしたが、バブルの効果(影響)が強力だったことを説明するために、この間隔(距離)としたようだ。しかし、この間隔で爆発した場合船体に火薬と魚雷の残骸が飛び散らなかったということはありえない。痕跡程度ではなく、多量に検出されなければならない。議会の特別委員会で「真相調査」をおこない、この問題を積極的に提起していく必要がある。北朝鮮の魚雷によるということは国家安全保障上重大な事態であるのだから、徹底的に追究し明らかにすべきだ。

7.魚雷の残骸という物的証拠が示されたと思う。魚雷に当たったという可能性が大きくなったことは明らかだが、物的証拠を裏付ける軍事情報がない。潜水艦の侵入と脱出経路について調査団が語ったのは仮定と推測で「半分の説明」にしかなっていない。水柱がないと言っていて、後になってあったと変わったが、キョン・シビョンの「顔に海水がはね跳んだ」という記述を根拠として提示するのは困ったことだ。「天安」が真っ二つに折れるくらいの水柱だったら水が弾け飛ぶ程度ではすまず「水流の洗礼」とでもいうべきものだ。100メートルの「白色閃光」の柱を水柱と判断したが、それが果たして水柱だったのかどうか疑わしい。

8.130トンの潜水艇は初めて聞くものだ。発表前、この問題は最もデリケートな問題になっただろう。小型潜水艦とするのか、新たな潜水艦が発見されたとするのかについて、最後まで苦心しただろう。誤って発表してしまうと「小説」(フィクション)になってしまう。にもかかわらず、サケ(サーモン)級という新しい用語が出た。北の新型潜水艇についてはわからない。また、潜水艦基地を常時監視して識別することはできなかったのだろうか。最初は330トンのサメ級や80トンのユーゴ級という言葉が出ていたのに、サメ級は大きすぎて岸まで来たと説明するのは無理だろう、ユーゴ級はあまりにも小型なので事故海域までの潜航航行能力があるのかという問題が出てくるので、中程度のサケ級があるのだという説明になったようだ。

9.合同調査団の決定的証拠を重視する理由は、シューティング・エビデンス、つまり爆発の痕跡がなかったからだ。残骸とススと燃えた跡がなく、燃料タンクとケーブル被覆がきれいで、弾薬庫にも問題がないという事実から、まさにシューティング・エビデンスが脆弱である。シューティング・エビデンスがないのだから、それゆえ爆発ではないとしなければならないのに「それゆえ、水中非接触爆発」とし、信頼を失ったし、論理的に無理な言葉が出てきてしまった。また、たとえ非接触で(魚雷の)爆発があったとしても、船体を二つに折るほどの膨大な爆発があったのなら、遺体がきれいで、イカナゴの死骸もないという(のは不思議だという)質問への答えも出てこなかった。そのような疑問を解消できないとなって魚雷を登場させたのだ。一週間前までは数ミリの破片が出てきただけだった。調査団が提出した規模の魚雷の残骸が出てきたという話はなかった。

10.合同調査団の発表に伴う「後続(善後)措置」がとられなければならない。この発表に同意はできないが、しかし、国家機関が発表したのだから、それに応じて(こうした事態を防げなかった)国防長官を解任し、警戒指揮官を軍事裁判に付する必要がある。また政策ラインにいる人々は安全保障に責任を負わなければならない。北が魚雷を撃つような危険な状況で事故の数日後、大統領が現場を訪問することを止めない側近たちは責任を負わなければならない。

11.このクラスの潜水艇に重魚雷が装着されることがあるのかが最も大きな問題だ。韓国軍が保有する同クラスの潜水艦にも装着できず、330トン級のサメ級にも取り付けは容易ではない。さらに、密かに浸透したことを証明するには潜水艇が小さくなければならず、「天安」艦が真っ二つに折れるくらい強力な爆発を証明するには重魚雷でなくてはならない。この二つを組み合わせると、潜水艇は小さく魚雷は大きいという、矛盾が生じるのだ。次に、潜水艇を支援する母船も一緒に行動していたというのだが、母船は水上艦だ。その侵入を探知できなかったというのは理解をこえている。母船について把握している情報を公開すべきだ。座礁による事故だと主張する人々は、スクリューが全部曲がった(変形した)ことについて、座礁からの脱出のために前進、後退を繰り返し砂底に押しつぶされたからだと説明する。しかし、魚雷の攻撃を受けた場合はなぜ曲がったのかを説明できない。キール(船の竜骨)が切れて電源が切断されているので、(スクリューは)その後30秒以上回ってはいなかっただろう。水の抵抗を勘案すればそれよりも早く停止してしまっただろう。その停止状態で、海底に沈んでスクリューがすべて曲がってしまったというのは理解しがたい。最後に、7年前に捕獲したという北の訓練用魚雷はなぜ持って出(て示さ)なかったのだろうか。

12.魚雷推進部の腐食状態に比べて「1番」の文字は鮮やかな青色をしており、錆び跡がないのはなぜか。また、刻印されたものではなく、マジックインキで手書きされたもので国連の安保理に付託可能だと言えるのか。これで北の所業だという強力な証拠として提示するには説得力に欠けると考えないのか。直接打撃を受けたガスタービン室の状態が決定的な証拠であるにもかかわらず、引き上げ後の移動中として公開しなかったのはなぜか。航跡記録、連絡先履歴、TOD(裂傷検知装置)、KNTDS(海軍戦術情報システム)などの基礎情報はなぜ公開することが出来ないのか。

 これだけにとどまらず、犠牲者の家族から発せられた「素朴」な疑問やさまざまな「不可解な出来事」、そして「消えた報道」など、挙げれば、まだまだきりがないくらいありますが、これぐらいにしておきます。

 5月23日のブログで「調査報告」の詳細を掲載して「どのような判断、立場に立つにしても、今後、検証を深める際にはこの報告の詳細が「原点」となるわけですから、精読は欠かせないと考えます。」と書きました。

 こうした韓国内で提出されている疑問や疑念と照合しながら「調査報告」を吟味するためにも必要だと考えたのでした。

 日本のメディアの報じたものからひとつだけ取り上げてふれておくと、5月23日の「朝日」朝刊にソウルの牧野愛博記者が「国際軍民合同調査団」の共同団長を務めた尹徳龍・韓国科学技術院名誉教授にインタビューして「伝統漁法を使った漁船を調査に投入し、『決定的証拠』を手に入れた経過」を聞いた記事が掲載されました。

 その中で、尹団長は、最終報告を発表する20日が迫る中「魚雷の可能性が高い」というだけにとどまる結論も想定していたが、転機は発表の5日前の15日に訪れたとして、「通称サンクリ機船漁と呼ばれる伝統漁法の漁船に協力を依頼、特別に強化した網を装着させて現場に投入した。一発逆転に賭けた。」と語る様子が伝えられています。

 3月26日の沈没発生以来の捜索にもかかわらず決定的証拠が出ずに焦る中、「一発逆転」に賭けたところ、発表の5日前に証拠が上がったという、なんとも「絵にかいたような」幸運に恵まれた調査だったことがわかります。

 牧野記者はこの話をどう聴いたのか、どういう問題意識でインタビューしたのか、ぜひ聞いてみたい気がします。

 さて、こうした疑問や疑念が、ほかならぬ韓国内で出されていることは、記憶にとどめておいて意味のないことではないと考えます。

 さあ、これだけの「疑問」を前に、メディアは、そして最大限の言葉を連ねて韓国への支持を表明した鳩山首相は、さらに私たちは、「北朝鮮の仕業」であることを所与の前提として考え、論を組み立てることでいいのでしょうか。

 前提を疑え!というのはジャーナリズムの初歩の初歩だと思うのですが、どうでしょうか。

 前に述べた「理」と「利」のからむ問題を解くカギは、この原点からはじめることで手にすることができるのだと確信します。

 それにしても、朝鮮半島そして北東アジアの冷戦構造の超克、緊張緩和と信頼醸成にむけてあと少しで、貴重な「一歩」を踏み出せたかもしれない、そんな可能性を前にして、それをつぶした人々は、歴史の中できっと厳しく裁かれることになるでしょう。

 それを信じて、北東アジアの緊張緩和そして平和と発展のために、少しばかりの営みを重ねることにします。



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2010年05月30日

普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(12)

(承前)

 20日におこなわれた哨戒艦「天安」沈没問題についての「調査報告書」の発表、そして24日の韓国李明博大統領の「国民向け談話」の発表をはさんで、きのう、きょうの済州島での日中韓三か国首脳会談まで、実に慌ただしく過ぎました。

 アメリカのクリントン国務長官の来日(21日)、北京での米中「戦略・経済対話」(24〜25日)と訪韓(26日)、そして中国の温家宝首相の訪韓(28日に李明博大統領と会談、30日三か国首脳会談終了後日本へ)に先立ってまず六か国協議の中国首席代表、武大偉朝鮮半島問題特別代表がソウルを訪れて魏聖洛朝鮮半島平和交渉本部長と会談(25日、24日にソウル入りして帰国は日中韓首脳会議終了後)、さらに日本では普天間問題のニュースに隠れてしまってほとんど注目されませんでしたが、外務省の斎木アジア大洋州局長と米国務省のキャンベル国務次官補が25日夜にソウル入りし26日に魏聖洛朝鮮半島平和交渉本部長と「会合」(日米韓の局長級協議)など、米・日・韓・中の動きは本当に片時も目の離せないめまぐるしいものでした。

 私が一番知りたい日米韓の「局長級協議」についてはほとんど報じられていないか、皆無なので、何が話し合われたのかわかりませんが、それ以外の「会合」についてはすでに「おおむねのところ」がニュースで伝えられていますので、それらをもとに何を読み取るのかが深く問われるところだと感じます。

 そこで、ここまでに書いてきたことをもとに少しばかりの「整理」をしておかなくてはと思います。

 まず、昨年12月、米国のボズワース北朝鮮政策担当特別代表の訪朝(12月8日〜10日)による実質的な「米朝協議」から年が明けて、2月、3月にかけて「南北関係」、「米朝関係」にある「動き」が出始めていたということを押さえておかなければなりません。

 昨年末の中国の習近平副主席の来日時の「6カ国協議の再開や朝鮮半島の非核化について新しいチャンスを迎えているのではないか。朝鮮半島問題は緊張緩和の兆しが出てきている。」という重要なコメントについてはすでに書いた通りです。

 その2月、3月の「動き」をどう解析するのか、限られた情報しかないなかでなかなか難しいのですが、まず一つ目の問題、「南北関係」についてです。

 1月28日に李明博大統領が訪問先のスイスで英国BBCのインタビューに「北朝鮮の金正日総書記と年内に会わない理由はない」と述べて、今年中にも南北首脳会談開催が可能との見方を示した(「共同」1月29日)ことから、南北首脳会談についてさまざまな観測がとりざたされるようになっていました。

 朝鮮日報が「昨年11月に開城で行った南北首脳会談開催に関する『秘密接触』で、韓国側が会談合意文の冒頭に北朝鮮の『非核化』を明記するよう求めたが北朝鮮側が難色を示し、開催の合意に失敗した」(2月1日)と報じ、韓国の専門家の間では、「今年3、4月ごろにも再開されるとみられる6カ国協議の前後」、あるいは韓国の地方選挙(6月2日)後で1回目の南北首脳会談10周年に当たる「6月15日説」あるいは朝鮮戦争勃発60周年の「6月25日説」などと、南北首脳会談の開催時期についての予測まで飛びかったりしていたというわけです。(「産経」2010.2.1)

 李明博大統領の、あるいは李明博政権のスタンスから本当に南北首脳会談にむけて動いていたのかどうか、判断の難しいところです。

 ある意味ではディスインフォメーションとしてリークされたものだったかもしれないということも否定できません。

 しかし一方では、昨年11月の「秘密接触」の北側の代表が朝鮮労働党統一戦線部の元東淵副部長だと具体名を挙げて報道されたにもかかわらず北側がこれに反論したり言及したりせず「静か」な対応だったことを考えると必ずしも否定できない、もしくは、その可能性は大いにあると考えることもできました。

 また、経済大統領を標榜して政権につきながら新自由主義的政策で格差の広がりをはじめとした社会の矛盾、不満の鬱積で、李明博政権への支持がかならずしも高くないことに加え、6月には、次期大統領の有力候補となるかもしれないソウル市長をはじめ各地の首長選挙を含む統一地方選挙をたたかわなければならないこと、さらには与党ハンナラ党内には朴正熙元大統領の長女朴 槿惠女史を支持する勢力との軋轢などをかかえ、政権維持という面で盤石ではなかったことなどから3回目の南北首脳会談という賭けに出ることは十分に考えられることでした。

 さらに2月8日には、共同がソウル発で「8日付の韓国紙、朝鮮日報は、李明博大統領と北朝鮮の金正日総書記が互いのメッセージを仲介者を通じて伝達し合い、意思疎通を図っていると伝えた。複数の韓国政府当局者の話として伝えた。同紙によると、仲介者は南北双方が信頼できる人物で、中国や日本などから両首脳の言葉を相手方に連絡している。伝達に必要な時間は24時間以下という。」とまさに「南北首脳会談」へという「流れ」をさらにそれらしく予感させる情報を伝えました。

 そんな状況を背景にしながら、2月9日、4日間の訪朝日程を終え帰国する中国共産党の王家瑞・中央対外連絡部長と同じ航空便で、6カ国協議の北朝鮮首席代表、金桂寛外務次官と次席代表の李根外務省米州局長が北京入りします。

 この金桂寛外務次官らの北京入りを伝える共同電で、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記が王家瑞中国共産党中連部長と会った席で、
 「朝鮮半島非核化を実現しようとする北朝鮮の意志を重ねて示し、6カ国協議再開を望む関連当事国の真剣な姿勢が非常に重要だと述べた。」
 という文言とともに「北京の外交筋の間では、金次官の訪中を機に中朝が6カ国協議再開と関連した協議を行うとの見方が出ている。また一部では、金次官が北京から米国を訪問する可能性も提起されている。」というくだりがあることに、エッと思ったのでした。

 「金次官が北京から米国を訪問する可能性も」というのです。

 これが一体何を意味するものなのか、前後のニュースや動きを洗い直しながら考えることになりました。

 ここからは一つ目の「南北関係」に加えて、もうひとつの問題、6カ国協議への「復帰」問題、つまり米朝協議が焦点になってきます。

 ところが、結局のところ、金次官は13日、北京国際空港で記者団に対して「後でまたお会いしましょう」というナゾのような言葉を残して帰国してしまうのでした。

 しかし!です、この前日、12日に韓国の聯合通信が「北朝鮮の6カ国協議首席代表、金桂寛外務次官が3月に訪米する見通しで、米朝対話が行われる可能性もある」と報じていたのです。

 このあと、米国務省のクローリー次官補が2月22日の会見で、ボズワース北朝鮮政策担当特別代表とソン・キム6カ国協議担当大使ら米代表団が23日から、北京、ソウル、東京を歴訪すると発表します。

 「最近の中朝間の要人往来を踏まえ、6カ国協議再開に向けて中韓日の各当局者と対応を協議する。」とされました。

 同時に6カ国協議韓国首席代表の魏聖洛外交通商部朝鮮半島平和交渉本部長が、「韓中協議を希望していたところ、ちょうど中国側から招請する連絡があった」として23日から2日間中国を訪問します。

 そして、中国から韓国に入ったボズワース北朝鮮政策担当特別代表は25 日、ソウルで 魏聖洛朝鮮半島平和交渉本部長らと意見交換した結果、「米韓両国は制裁解除を求める北朝鮮に対して譲歩しない方針で一致した。」ということになりました。

 「韓国政府当局者などによれば、北朝鮮は中国との協議で米朝協議を進めたい考えを示したが、6者協議への復帰には制裁解除が必要との主張を変えなかった。中国は北朝鮮の要求には応じず、今週北京で行われた中韓協議でも、韓国側の歩み寄りを求めなかったという。」(「朝日」2月25日)というのです。

 しかし、海をこえた米本国では、26日、クリントン国務長官が 6カ国協議の再開について、「進展に向けた複数の兆しがあることに勇気づけられている」と述べるのです。

 加えて、「国務省高官は記者団に対し、昨年11月末に実施された通貨ウォンのデノミネーション(通貨の呼称単位の変更)などの一連の改革で、北朝鮮経済が『大惨事に見舞われている』と指摘。『北朝鮮は国際的な支援が必要になる見通しで、(協議再開の)好機になる。状況は、北朝鮮が協議復帰を決断する方向に向かっている。』と述べた。また、クローリー次官補は 26 日の会見で、協議再開は『今後数週間か数カ月以内の可能性がある』との見方を示し、関係国間で『北朝鮮が(協議再開に)イエスと言うように促す道筋をどう作るか協議している』と説明した。」(「朝日」2月27日)と伝えられました。
 
 実に頭の中が混乱するようなジグザグな経緯をたどるのでしたが、28日の朝日新聞はソウル発で注目すべきニュースを伝えました。

 【ソウル = 牧野愛博】訪米中の韓国政府高官は27日、北朝鮮の核問題をめぐる6者協議について「最近の情勢をみると、早期に協議が再開される可能性がある。時期で言えば、3月から 4月ごろと言えるのではないか。」と韓国記者団に語った。聯合ニュースなど韓国メディアが伝えた。同高官はまた、北朝鮮が望む米朝協議について「確実に6者協議につながることが必要だ。米国は、北がいつ6者に応じるかという保証を望んでいる。」と説明し、「中国もある程度、了解している」と語った。米朝協議の場所については、北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官が訪米する機会になるのか、それとは別に北京で行うのか「まだ決まっていない」と述べた。北朝鮮はこれまで6者協議について、朝鮮戦争を正式に終結させるための平和協定をめぐる協議を優先させるべきだとも主張してきた。この協議の開始時期について、韓国政府は「非核化の進展後」としており、同高官も「(最後に6者協議が開かれた)2008年12月の状態よりも更に進んだ措置が必要だ」との見解を示した。6者協議の再開をめぐっては、クリントン米国務長官も26日に「進展に向けた複数の兆しがあることに勇気づけられている」と述べている。

 前後の脈絡もなく突然出てくる「米朝協議の場所については、北朝鮮の金桂寛(キム・ゲグァン)外務次官が訪米する機会になるのか」というくだりには、またもやエッと思わされました。

 前回、韓国の哨戒艦「天安」の沈没をめぐって、発生当初をふりかえると、韓国の一部のメディアには「北朝鮮の関与」という論調で走る傾向がなかったわけではないが、青瓦台と政府、韓国軍当局そして在韓米軍司令部もそれにブレーキをかけて慎重になる、もしくは北朝鮮の関与を否定するという態度をとっていたのが、どこから「反転」していくことになるのかという問題意識で・・・と書きました。

 そして、そのためには、記憶を3月中旬から4月に戻す必要があると書いたのでした。

 その4月の「反転」のポイントについて考えるために、そこに至る経過について、さかのぼって復習してみたのです。

 さて、このあたりでまとめなければなりません。
 ここから見えてくることは何か、どのような「仮説」が成立するのか、です。

 私は、少なくとも実現性がどうだったかはわかりませんが、韓国の李明博大統領のサイドが「南北首脳会談」を模索したことは確かだったのだろうと考えます。

 そして、あるいは・・・というところまで行ったのかもしれません。

 しかし「○○をするならば、××をしてやる」「△△しなければ□□をしてやらない」という、例の李大統領の「グランドバーゲン」方式の思考では北の受け入れるところにはならないことは自明です。

 そこへ、南北の動きを察知した米国が、何を考えているのだと一喝したかどうかはわかりませんが、いまここで「南北首脳会談」などを考えている場合ではないだろう!問題は核問題であり北の「やりたい放題」を封じることではないか!!として、議長国としての沽券もかかる中国と「協働」して北朝鮮の六カ国協議への「復帰」への道筋を優先させるべく「動いた」としても不思議ではないと考えるのです。

 ということは必然的に「米朝協議」がテーブルに上るということです。

 中国が、北へは援助、支援の大幅なてこ入れで、米国に対してはまさに「ステークホルダー」として朝鮮半島問題を制御する論理で、両者をテーブルに着かせる方策、《米朝両者会談→予備6カ国協議→6カ国協議本会談》の「3段階案」を北朝鮮、米国双方に示して事態が動き始めたというのが、まさに「天安」沈没事件が起きる「前夜」の風景だったということではないかと考えるのです。

 そして、前回書いた、4月2日のキャンベル国務次官補の訪韓となります。

 この訪韓については、日本のメディアはほとんど注目しませんでしたし、伝えたところも「ベタ記事」扱いだったことはすでに書きました。

 しかしこのあと、4月28日になって、共同がソウル発で聯合通信を引いて、
 「韓国政府筋は28日、韓国海軍哨戒艦沈没への北朝鮮関与説が強まる中、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議再開に向けた米朝協議実施は当面、難しいとの立場を米国が韓国に伝えてきたと明らかにした。今月初めに訪韓したキャンベル米国務次官補(東アジア・太平洋担当)が米政府の検討結果として韓国側に説明。米国はこうした立場を中国にも伝え、中国も理解を示した。同筋は、6カ国協議再開まで少なくとも『数カ月はかかる』との見方を示したという。6カ国協議再開問題をめぐっては、韓国の柳明桓外交通商相が20日に、原因究明が協議再開より優先されるとし、北朝鮮関与が判明した場合、協議再開は当分難しいとの考えを示している。」
と伝えました。

 こうして、重要な「転回点」(のひとつ)がここでいう「今月初め」、つまり4月2日のキャンベル国務次官補の韓国訪問にあったことが見えてきたというわけです。

 また、朝鮮日報は4月19日、
 「西海(黄海)で哨戒艦「天安」が沈没したことと関連して、今月初めに米国家情報局 (DNI) のシルビア・コープランド北朝鮮担当官が極秘で来韓していたことが18 日に分かった。」と報じて、
 「コープランド担当官はソウルで韓国の情報機関幹部らと会い、天安沈没を前後した時期の北朝鮮の動きについて情報を交換し、対策を話し合ったという。この席でコープランド担当官は、天安沈没が北朝鮮による仕業である可能性に特に重点を置き、関連する情報を集中的に分析したという。」
「(コープランド担当官は)天安の事故以降、韓国の情報機関と緊密な協力を行うため派遣された。この機会に、北朝鮮に関する韓国と米国の情報共有の仕組みについても改めてチェックしたようだ。コープランド担当官は来韓を前後して、日本や周辺国も訪問している。」
と注目すべき情報を報じました。

 もうひとつ重要な「動き」を拾っておくと、
 
 「韓国政府は、朝鮮半島有事の際の韓国軍の作戦統制(指揮)権について、2012年4月とした米軍からの移管時期を延期するよう、米国側に求めていく方針を固めた。複数の韓国政府関係筋が明らかにした。米軍のトランスフォーメーション(変革)に影響が出るため、公式な要請時期は慎重に検討して決める。12年4月の移管時期は、盧武鉉(ノ・ムヒョン)前政権時の07年2月に決まったが、李明博(イ・ミョンバク)政権を支持する保守層から『韓米同盟の弱体化を招く』として不満が出ていた。経済不振や金正日(キム・ジョンイル)総書記の健康問題から北朝鮮情勢が不安定になる中、3月末に韓国哨戒艦が沈没し、安全保障に対する国民の不安が噴出。移管時期の延期はやむを得ないとの判断に至ったという。」(「朝日4月23日」)

そして、普天間移設問題の「迷走」です。

 なによりも、「天安」沈没問題によって「昨今の朝鮮半島情勢」が「脅威の存在と抑止力の必要性」を示していると教えられ、日米安保の「危機」をのりこえることができた??というわけです。

 さて、こうした「舞台」と「構図」のなかにそれぞれの「役者」を配置して、では誰が利益を得て、誰がそれを快く思わないのか、それが問題だ!ということになります。

 私は、このブログでも書いたように、3月にソウルに出かけて大先達のジャーナリストに会う機会を得た際、
 「政権が一部を除いてメディアを完全に掌握し、国民に本当に必要な事を伝えなくなり、政権のあらゆるところに旧勢力が蘇ってきてしまった。情報機関も、金大中政権、盧武鉉政権で民主化、改編、改革されたというが実のところは何も変わっていなかった。政権を自由に批判することもできなくなる、息の詰まるような時代が戻ってきつつある・・・」と苦渋に満ちた低い声で語ったことを、いまさらながら思い起こすのでした。

 このブログの読者のみなさんがお気づきになったかどうかはわかりませんが、24日午前、李大統領が戦争記念館から国民に向けて「談話」を発表したのとまさに時を同じくしてというべきか、その前日、韓国の情報機関、国家情報院とソウル地検・中東地検公安1部が、ソウル地下鉄1〜4号線の危機対応マニュアルなどの内部情報を抜き取って北朝鮮に報告した容疑(国家保安法違反)で、北朝鮮・国家安全保衛部所属の女性工作員(36)と、元ソウルメトロ課長級幹部(52)を拘束したことを明らかにしたというニュースが報じられました。

 久しぶりに聞く「国家保安法違反」でした。そして、こんな身近なところ?!に北朝鮮の国家安全保衛部所属の「スパイ」がいたというわけです。

 久しく忘れていたことですが、以前、韓国に出かけて地下鉄に乗っても、バスに乗っても「間諜、怪しい人物を見つけたら申告するように」という告知が掲げられていたことを思い出しました。

 この「女スパイ事件」がどのようなものなのかわかりませんが、なにか暗い時代の再来を予感させるものがあります。

 さてそこで、もう一つ、今回の沈没が北朝鮮の魚雷による攻撃で引き起こされたという、軍民共同調査の結果の発表について、いま韓国でどのような「疑問」が提出されているのかという問題の整理も必要になってきます。
(つづく)

posted by 木村知義 at 23:47| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録

2010年05月24日

普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(11)

(承前)

 刻々と事態が動いていきます。書くことに十分時間を費やすことができない状況では、書くことが情勢の動きに即したものにならず、忸怩たる思いがあります。

 したがって、きちんとしたところまで書き上げてから掲載しようと考えていたのですが、言い訳がましくなることを承知で、まず、けさ、そして夜になって書いた部分だけWebにアップすることにします。

 普天間飛行場の移設問題で鳩山首相が沖縄を再訪したことについては、きのう冒頭でふれましたが、テレビの中継を見ながらメモしたため鳩山首相の「ことば」の採録がやや不完全なところがありましたので、けさの朝刊掲載の記録をもとに、その部分を再掲しておきます。

 「私はこれまで、ぜひ普天間の代替施設は県外にと考えて、実際にそれも追求して参ったわけでございます。それがなぜ県内なのだ、という皆様方のご懸念、お怒りはもっともなことだとも思っております。これは、ま、昨今の朝鮮半島の情勢からもおわかりだと思いますが、今日の東アジアの安全保障環境にまだ不確実性がかなり残っているという中で、海兵隊を含む、これは在日米軍全体の抑止力を、現時点で低下をさせてはならないということは、これは一国の首相として安全保障上の観点から、やはり、低下をさせてはならないということは申し上げなければならないことでございまして、そのうえで、普天間の飛行場に所属をしております海兵隊のへリの部隊を、沖縄に存在する他の海兵隊部隊から切り離して、国外はもちろん県外に移設すると、海兵隊の持つ機能というものを大幅に損なってしまうという懸念がございまして、従いまして、現在の、現在のでありますが、安全保障の環境のもとで、代替地は県内にどうしてもお願いせざるを得ないという結論を私どもとすれば、結論になったのでございます。」

 きのうも書きましたが検証されるべきは、「昨今の朝鮮半島情勢」から、「東アジアの安全保障環境」に不確実性が残っているので、海兵隊を含む「在日米軍の抑止力」を低下させてはならない・・・というロジックです。

 これを「所与の前提」としていいのかということです。

 そして、鳩山首相沖縄再訪の記事に隠れて扱いは小さいのですが、けさの朝刊で「聞き捨てならない」記事を目にしました。

 それは、「米軍普天間飛行場の移設問題を巡り、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に建設する代替施設について、日米両政府が、自衛隊と米軍による共同使用を検討することで大筋合意していることが23日、分かった。28日にも発表する日米共同声明に盛り込む方向。北沢俊美防衛相が24日に訪米し、25日のゲーツ米国防長官との会談で最終調整する。」というものです。
 
 問題は、ここでも、そのロジックです。

 「自衛隊と共同使用とすることで米軍のプレゼンスを相対的に減らし、沖縄の負担感を薄める狙いがある。さらに日本側は将来、安全保障環境が改善し、沖縄からの海兵隊撤退が可能となる事態を想定し、自衛隊管理としたい意向だ。」というのです。

 別の新聞には「普天間飛行場の移設問題をめぐる日米共同声明に、沖縄県名護市辺野古周辺に設ける代替施設について、米軍と自衛隊の共同使用の検討が盛り込まれることがわかった。政府高官が明らかにした。施設が米軍に占有されると、事故や環境汚染の情報が入りにくくなる。政府は、自衛隊が基地に入ることで、地元の心理的負担を軽減できるとみている。日本側は将来的に施設の管理権を自衛隊に持たせることも求めているが、米側は難色を示している。 」とあります。

 「政府高官」からこのことを聞かされた記者は、こんな理屈をそのまま信じて書いたのでしょうか。

 「政府高官」が「そう言った」ことは事実だからそのまま書いたまでだ!というならジャーナリストは要りません。

 もちろん記者の意見を書きこめなどと幼稚なことを言っているのではありません。

 取材者としての問題意識と責任でさらに取材して書くべき事実やニュアンスというものがあるだろうと思うのです。

 ただ、あっちからこっちに物を運ぶように「言ったこと」を運ぶだけなら記者という存在は不要というべきでしょう。

 問われるのは取材者としての、ジャーナリストとしての問題意識です。

 それにしても、自衛隊との共同使用、共同管理にすれば地元の負担感を薄めることができる、あるいは軽減できるとは、どうものを考えればそうなるのか、書いた記者に説明してもらいたいものです。

 「いや!高官はそう言ったのだから書いたまでだ!」と言い張るのなら、では、「君はここに疑問を持たなかったのか??」、それを「高官」に質さなかったのか?!と問い詰めたくなります。

 否!そこをはっきりさせてもらわないと記者などと名乗るのをやめて「運び屋」とでも称するべきでしょう。

 ましてや、間違っても、ジャーナリストなどを僭称するのはやめてもらわなければと思います。

 けさはまずこのことを押さえておかなければならないと思いました。

 さて、韓国の哨戒艦「天安」の沈没をめぐって、発生当初をふりかえると、韓国の一部のメディアには「北朝鮮の関与」という論調で走る傾向がなかったわけではないが、青瓦台と政府、韓国軍当局そして在韓米軍司令部もそれにブレーキをかけて慎重になる、もしくは北朝鮮の関与を否定するという態度をとっていたのが、どこから「反転」していくことになるのかという問題意識で、聯合通信の報道に依りながら、沈没発生からの初期段階の推移を振り返ってきました。

 いささか煩雑になるのを承知で、聯合通信の記事を引用したのは、そこに、後になって留意する必要の生じる、重要な情報が散らばっていたからと、初期段階では日本のメディアでの扱いはそれほど大きくはなく、子細に吟味するためには韓国内での報道に依る必要があると考えたからです。

 そこで、ではどこが「反転」のポイントとなったと考えるのかです。

 記憶を3月中旬から4月に戻す必要があります。

 4月2日、米国のキャンベル国務次官補がソウルを訪問しました。キャンベル国務次官補のアジアとの往還は実に頻繁で、2月にも訪韓していました。

 実は3月半ばに来日する予定だったのが急きょ中止になりました。3月16日の外務省の会見で岡田外務大臣は記者の質問に対して「キャンベル米国務次官補の訪日が急遽中止になりました。これは訪問先のタイにおける現在の混乱によって日本に来ることができなくなったということで、大変残念に思っております。」と答えていました。

 一方平野官房長官は同じ日の会見で「日程の調整がつかないため、わが国への訪問を中止したということだ」と説明しました。
 
 キャンベル次官補の日本訪問中止と普天間問題の「迷走」との関連をめぐってさまざまな憶測を呼びセンセーショナルに語られたため、その背後でおこなわれた4月初めの韓国訪問はあまり注目されなかったといえます。新聞の扱いもいわゆる「べた記事」扱いでした。

 しかし、です!問題はこの前後に、一体何が起きていたのか、あるいは何が進行していたのかです。

 そこで、もう少し遡って、まず2月の訪韓について伝える記事を見ておきます。

 【ソウル=箱田哲也】訪韓中のキャンベル米国務次官補は4日、玄仁澤(ヒョン・インテク)・統一相と会談後、韓国の聯合ニュースに「米韓は南北首脳会談と6者協議(の開催)のいずれも(北朝鮮に)促すことで意見が一致した」と語った。一方で「すべての面で米韓が必ず調整せねばならないというのが核心だ」とも述べ、韓国政府が首脳会談のみを先行させないよう暗に牽制(けんせい)した。韓国統一省は会談後、「キャンベル氏が、南北関係発展のための韓国の努力を全面的に支持すると語った」と発表し、米国の支持を強調した。韓国政府関係者によると、玄統一相らは南北首脳会談に向けた動きについてもキャンベル氏に説明したが、同氏は首脳会談について直接の支持は表明していない模様だ。そんななか、李明博大統領の信頼が厚い韓国大統領府の金泰孝(キム・テヒョ)・対外戦略秘書官が3日から訪米していることが判明。南北首脳会談の開催に向けた調整ではないかとの観測が広がっている。(「朝日」2月4日)

 そして4月です。まず、日本での報道です。

 【ソウル=牧野愛博】韓国を訪れたキャンベル米国務次官補(アジア・太平洋担当)は2日、ソウルで北朝鮮核問題を巡る6者協議の韓国首席代表を務める魏聖洛(ウィ・ソンラク)朝鮮半島平和交渉本部長らと会談した。キャンベル次官補は会談後、記者団に対して北朝鮮の金正日総書記の訪中を巡り、「北朝鮮が6者協議に早く復帰するよう、中国側に努力を要請した」と語った。韓国政府は金総書記が近く訪中する可能性が高いとみているが、キャンベル次官補は訪中時期について「多くの推測が出ている」と語るにとどめた。(「朝日」4月3日)

 一方韓国の4月2日の聯合通信です。

 【ソウル2日聯合ニュース】訪韓している米国務省のキャンベル次官補(東アジア・太平洋担当)は2日、海軍哨戒艦「天安」沈没事故と北朝鮮の関連性について、「推測はしない。韓国政府が進めている(原因)調査を全面的に信頼している」と述べた。外交通商部で6カ国協議韓国首席代表の魏聖洛(ウィ・ソンラク)朝鮮半島平和交渉本部長と会合した後、記者団に語ったもの。
キャンベル次官補は、すでに4隻の米軍軍艦が現場でサポートを行っており、船体引き揚げをはじめ他の作業でも援助が必要な場合は支援を惜しまないと強調した。キャンベル次官補と魏本部長は会合で、事故原因の究明に伴う想定事項やその影響を確認し、共同対応策を集中的に話し合った。政府高官は、「具体的には言及できないが、内部爆発、外部衝撃、北朝鮮との関連性などさまざまな事故原因について、どう対応していくかを協議した」と伝えた。一方、北朝鮮・金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中と関連し、キャンベル次官補は「現時点では推測だといえる」としながらも、韓国側と協議を行っており、今後も鋭意注視していくと述べた。また、北朝鮮の国際投資誘致努力は国連安全保障理事会の制裁違反では、との質問には、「米国をはじめとする同盟国は、北朝鮮が2005年9月19日の(6カ国協議)共同声明と2007年2月13日の合意で提示した約束を履行するまで、現存する制裁が維持されるよう強く望んでいる」と答えた。キャンベル次官補は同日午後に金星煥(キム・ソンファン)青瓦台(大統領府)外交安保首席秘書官、申ガク秀(シン・ガクス)外交通商部第1次官とも会合し、韓米同盟の懸案や北朝鮮核問題、金総書記の訪中に関する動向など、両国懸案を幅広く話し合った。3日に日本を経由し米国に戻る。

 同じ「米韓会談」についての報道に微妙にニュアンスの違いがあることに気づきます。このことをまず知っておかなければならないと思います。

 その上で、この「米韓会談」が、「天安」沈没問題でも重要な協議の場になったことが見えてきます。

 そして、この背後で同時進行していた重要な「懸案」があったことに目をこらす必要があると思います。

 それは米朝協議に向けて大きく動く可能性を秘めたある「懸案」でした。わたしは小さな「兆候」からそれを注意深く見守っていたのですが、最近の韓国の報道で、結果的には残念な形で「裏付けられる」ことになって、やはりそうだったかという思いを強くしたものでした。

 その「懸案」とは・・・。

 この直近の韓国での報道はまだ日本でキャリーされていなのですが、きわめて重要な記事なので全文引用しておきます。

 以下は韓国「中央日報」5月20日付の記事です。

 米国と北朝鮮は3月26日、天安艦事件発生直前、朝米両者会談および(予備)6カ国協議の連続開催に合意し、これにより米国は金桂寛(キム・ゲグァン)北朝鮮外務省次官の訪米のためのビザ発給準備に入ったが、天安艦事件が起こり取り消されたと外交消息筋が19日伝えた。
消息筋は「6カ国協議復帰を拒否してきた北朝鮮が3月に入り「朝米両者会談が行われればこれは6カ国協議につながる」という意を米国側に明らかにし、米国もこれまで北朝鮮に要求して来た「非核化過程に推動力を与える措置」を(予備)6カ国協議後にしてもいいという立場を見せることにより、朝米が米国で両者会談を持つことに事実上合意した」とこのように伝えた。消息筋は「これによって米国は3月末または4月初め、金桂寛副相にビザを発給することにして準備に入ったが、わずか数日後の26日、天安艦事件が起こってプロセスが全面中断された」と述べた。続いて「事件初期には天安艦沈没原因が明らかにされなかっただけに米国は朝米両者会談オプションを完全に捨てないで状況を注視した」とし「しかし事件発生2週後、北朝鮮の犯行であると明らかになると、米国は韓国の“先天安艦事件・後6カ国協議”基調に同意して朝米両者会談方針を下げた」と述べた。北朝鮮は2月末、北京とニューヨークの朝米チャンネルを通じて金桂寛副相のビザ発給申込書を米国に公式提出したと消息筋は付け加えた。
消息筋は「スティーブン・ボズワース米対北政策特別代表とソン・キム米北核特使は天安艦事件で両者会談および予備6カ国協議プロセスが取り消され、落胆したものの韓国の“先天安艦、後6カ国協議”の方針に対して反対しなかった」と伝えた。また他の外交消息筋も「天安艦事件直前まで中国が朝米両者会談→予備6カ国協議→6カ国本会談の3段階案を提示し、非常に積極的な仲裁をして、6カ国協議再開のための確かなモメンタムが生じたとすべての会談参加国が確信した状態だった」とし「まさにその瞬間、天安艦事件が起こり、会談再開に向けて肯定的に進行された状況が大きくひっくり返った」と述べた。
消息筋は「このような急な反転は朝米対話と6カ国協議再開を望まなかった北朝鮮軍部など北朝鮮内強硬派が外務省など交渉派を押して天安艦事件を起こし、政策の主導権を取ったという推測ができる」と指摘した。消息筋は「天安艦事件で韓米と北朝鮮間の対峙が長期化することが明らかで6カ国協議は今年の下半期にも再開される可能性はほとんどない」と見通した。

 ここで登場する「消息筋」は、今回の「天安」沈没を引き起こしたのは北朝鮮軍部の「強硬派」だったという結論を導き出すために語った(リークした)ということになるわけで、中央日報のスタンスも同様です。

 日本のメディアではまったくといっていいほど伝えられていないのですが、いま韓国社会に広がる「北朝鮮の仕業論」への疑念を封じ込めるために、ここに踏み込んだというニュアンスがうかがえる記事です。

 しかし、この記事から導き出される「結論」はそれだけではないことは賢明な読者ならばおわかりになると思います。

 あるいは、わたしが「残念な形で裏付けられた」と言うのもおわかりいただけると思います。

 ここまで何度か「最終幕の緞帳は上がるのか」と書いてきました。

 その意味では、「3月26日」を挟んで、まさに「緞帳が上がる」まで「あと一歩」というところにさしかかって、息詰まるような重要な「つばぜり合い」が、見えないところで、繰り広げられていたのです。

 こうした文脈の中に「天安」沈没を据えて吟味しないと、その本質を読み解くことができず、当然のことながら、いま目にしている事態の意味も見えてこないと、わたしは考えます。

 つまり普天間問題、北朝鮮の脅威と抑止力、金正日総書記の訪中、そして米朝協議から六か国協議へ、さらには朝鮮半島の戦後の歴史的懸案の解決にむけての大きな胎動へという、大きな「連環」の中に位置付けてそれぞれを見据えなければ、「天安」沈没問題の本質も見えてこないということだろうと考えます。

 それにしても、朝鮮半島の、そして北東アジアの緊張と対立の解消に向けた「歩み」は「天安」によって、またもや足踏みを余儀なくされることになったというべきです。

 10年、いや20年あまりも「時間」が逆戻りしたのではないかとさえ感じます。

 そして、何とも言い難い「暗雲」が、韓国社会を、そして日本を、北東アジアを、覆い始めているのではないか・・・。
 そんな危惧を抱かざるをえません。
(つづく)




 
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普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(10)

(承前)
 前のコラムを書いた直後、新たなニュースに接しました。
 
 まず、韓国の李明博大統領が24日午前、哨戒艦「天安」沈没事件の調査結果にかかわって国民向け談話を発表することになったということで、ここで李大統領は、「北朝鮮に対する断固とした対応措置」を取る意向を示すとともに「国連安全保障理事会への問題提起など国際共助を通じた対応方向」(聯合通信)についても表明することになるということです。

 また、李大統領の談話発表終了後に外交通商部の柳明桓(ユ・ミョンファン)長官、統一部の玄仁沢(ヒョン・インテク)長官、国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官が、合同記者会見を行い、北朝鮮への具体的な対応策を発表する予定だということです。

 一方、このことをBBCニュースが伝えたとして、国連の安全保障理事会理事国ロシアの「ロシアの声」放送がいち早く転電で報じています。(5月23日夜、「ロシアの声」Webによる)

 ロシア外務省のネステレンコ報道官は、韓国で「調査報告」についての発表があった20日、今回の調査がかなり詳細に行われたとしながら、韓国側とは事前交渉があったものの、北の犯行疑惑を確証できるような証拠は示されなかった点を指摘して、韓国から受け取ったものがあくまで「調査結果に関する発表」であり「実際の結果」を受け取り検証するまで結論は出せないとして「彼らは検証が終わったことを確認しているようだが、我々には時間が必要だ」と語っていました。(「ロシアの声」による)
 
 「調査結果」発表後の「動き」が慌ただしくなってきました。

 事態の動向は、このコラムの続きを、「のんびり」と書いていることを許すかどうかわからなくなってきましたが、とにかく続けることにします。

 完璧な「証拠」に裏付けされ、かつ専門家の緻密な検証と原因追及の論理構築に一介の素人が疑問を抱くなどという「不遜」なことが許されるのかどうか、少なくとも大メディアの誰一人、紙面なり番組なりでそんなことを書き、語っていないなか、まるで無謀としか言えない所業というべきかもしれません。

 それだけのことを自覚して、しかし、少し書いておきたいと考えます。
 つまり、もし「それはおかしい!」というなら、ぜひ納得できる答えが欲しいと切望するからです。

 したがって、国際的な専門家が大勢集まって「究明」し論理構築したものに対して、にわか勉強、一知半解の「知識」で挑もうというような大それた気持ちは一切ありません。

 ただ、素朴な疑問に答えてほしいと思うところを述べてみようと考えただけです。

 さて、何から書いていけばいいのか気の遠くなるほどいっぱいあるのですが、それを全部書き連ねるには時間とスペースが足りません。

 また、どういうわけか、このところ背中から肩、腕にかけての痛みに悩まされているため、キィーボードにふれるのが辛く、最低限の事柄にとどめざるをえません。

 そこで、まず、哨戒艦天安沈没「事故」が起きた当時に記憶を戻してみることから始めたいと考えます。

 この「事故」が起きたのは3月26日の夜のことでした。

 思い返してみると、「事故」発生当初は日本のメディアの扱いも決して大きなものではなかったと記憶しています。

 手元に残している日本の新聞よりも韓国での報道をたどるほうが報道のトーンの「変化」がよくわかるので、聯合通信の報じ方を読み返してみます。

 聯合通信の第一報だと思われるものは、2010年3月27日0時0分配信で、
「黄海の白リョン島付近で警備中だった韓国海軍の哨戒艦が26日午後9時45分ごろ原因不明の爆発により沈没していると軍消息筋が伝えた。軍消息筋は、哨戒艦が船体後方から沈没しており、攻撃を受けた可能性が提起されていると明らかにした。哨戒艦の乗組員は104人で、このうち相当数が爆発当時、海に飛び込んでおり、人命被害が懸念されている。」
 というものでした。
 
 その後、「黄海の白リョン島南西沖で警備活動中だった海軍哨戒艦『天安』(1200トン級)が26日午後9時45分ごろ、船体後方に穴が開き、沈没した。合同参謀本部情報作戦処長のイ・ギシク海軍准将は27日、艦艇の船底に原因不明の穴が開き、沈没したと説明した。穴が開いた原因が明らかになっていないため、北朝鮮によるものと断定はできないとし、一刻も早く原因を究明し、適切な措置を取る方針を示した。哨戒艦の沈没地点は白リョン島と大青島の間、北方限界線(NLL)から南方に遠く離れた海上で、27日午前1時現在、艦艇の乗員104人のうち58人が救助された。残り46人の救助活動も続けられている。合同参謀本部は人命救助作業を最優先に行っているため、まだ正確な事故原因は究明できずにいると説明した。一角では、船尾に穴が開いたため、北朝鮮の魚雷艇などによる攻撃の可能性も提起されているが、合同参謀本部は『確認されていない』とし、慎重な反応を示した。また、事故当時、事故海域近隣で作戦中だった別の哨戒艦『束草』のレーダーに正体不明の物体が捉えられ、警告射撃を5分間行った。イ准将は『レーダーに捉えられた物体の形状から鳥の群れと推定されるが、正確な内容の確認を行っている』と述べた。一方、李明博(イ・ミョンバク)大統領が26日午後10時に招集した安保関係長官会議は27日午前1時ごろに終了した。同日の午前中に再び会議を開き、事態の把握に努める予定だ。青瓦台(大統領府)の李東官(イ・ドングァン)弘報(広報)首席秘書官は、北朝鮮との関連の可能性については現時点では予断できないと明らかにした。」(3月27日8時2分配信)

 「在韓米軍は黄海・白リョン島南西沖での海軍哨戒艦『天安』(1200トン級)沈没事故に関連し、北朝鮮の介入の可能性は低いと判断していると伝えられた。軍の事情に詳しい情報筋が27日に明らかにした。事故前後に朝鮮人民軍の特異動向がとらえられていないことを根拠としているという。一方、韓国海軍は、事故海域の水深は24メートルほどだが、暗礁は存在しない地域と判断し、座礁による事故の可能性は大きくないとみている。また、軍一角でも、沈没地点が北方限界線(NLL)から遠く北朝鮮軍艦艇の侵透が制限されており、比較的浅海のため敵艦隊の機動も容易ではないことから、『天安』内部で爆発があった可能性が提起されている。ただ、国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官は、この日事故海域に向かう前、記者らに対し『深海を探索してみなければ、事故原因は分からない』と述べ、慎重な姿勢を示した。海軍はこの日午後から、事故原因究明と行方不明者の捜索に、戦時・平時の海難救助作戦と港湾および水路上の障害物除去などの任務を遂行する海軍特殊潜水部隊SSUを投入した。天候も午後から比較的安定しており、18人の要員が特殊潜水装備を着用し水中に入り、爆発した船体部分を詳しく調査、今回の事故が魚雷や機雷など外部衝撃によるものか、内部爆発によるものか、原因把握に当たっている。同時に、行方不明者46人の多くが船内に閉じ込められているものと見て、沈没した哨戒艦の隅々まで捜索し、生存者の救助と船体引き上げなどの作業に入る。ただ、長時間の捜索作業が可能なほど天候が良いわけではなく、軍関係者は、27日中に調査を終えるのは難しいとの見方を示している。」(3月27日15時32分配信)と北朝鮮の関与にかかわっては微妙に「変化」していきました。

 また、米国防総省のスポークスマンも米国時間26日に行われた記者会見で「むやみに結論を急ぐべきではない」と前置きした上で、「現時点では北朝鮮が関与した証拠はない」としました。
 
 当初から「北朝鮮攻撃説」で突っ走った一部のメディアを除いて、聯合通信などのメディアは、沈没発生当初は「北朝鮮軍の魚雷によって沈没した可能性」にふれはしましたが、その後は米国の見方などともあいまって「政府高官関係者は27日、『まだ正確な事故原因は究明されていないが、政府各官庁でこれまでの調査状況を総合すれば、今回の事故は北朝鮮によるものとは見られないというのが、政府の判断』だと明らかにした。」(聯合通信3月27日16時22分配信)などと、報道のトーンが変化したことは思い返しておく必要があります。

 その後行方不明者の捜索が難航し家族の苛立ちも昂じてくる中でネットなどでも政府の危機管理能力に対する辛辣な批判が飛び交うようになっていきます。

 そして、処理されずに残った「機雷」説や「疲労破壊」など、諸説が交錯する中、一部メディアが「天安」の沈没と前後して北朝鮮の「半潜水艇」が周辺海域で稼動していたと報じたことについて、青瓦台(大統領府)が「確認の結果、まったく事実ではない」ときっぱりと否定するとともに、そうした一部のメディアで北朝鮮の魚雷によって「天安」が沈没した可能性も取りざたされていることについて「北朝鮮潜水艇の作戦遂行能力などを考慮すると事実ではない」とし、さらに 国防部も、半潜水艇の出没説について「当時、北朝鮮に特異兆候はなかったと把握された」として、「そのため事故当時も非常事態が下されなかったと説明した」と伝えられました。(聯合通信4月1日9時16分配信)

 在韓米軍もまた、シャープ司令官(韓米連合司令官兼務)が4月6日におこなわれた講演で「米国は事故調査のため最高の専門家チームを派遣するとし、同チームが韓国ともに、事故原因を正確に究明するだろうと期待を示した。また、李明博大統領が強調したように、米軍は精密に分析作業を行うと説明した。
 そのうえで、北朝鮮を連日近くから観察しているが、現時点で特異活動はないとみていると強調した。」(聯合通信4月6日17時32分配信)と、北朝鮮の関与説を否定していました。

 では、どのあたりから「北朝鮮関与説」に「反転」しはじめるのでしょうか。



(つづく)
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2010年05月23日

普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(9)


 普天間飛行場の問題で、今月4日に続いてふたたび沖縄に出向いた鳩山首相が仲井真知事らを前にして、名護市辺野古のキャンプシュワブ沿岸部に移設する考えであることを伝える様子をきょう昼前のテレビの中継で見ました。

 「沖縄の負担軽減と危険性の除去を実現するために確実な方法として、普天間基地の県外移設の可能性を真剣に探ってきた。しかし、国内や日米間で協議を重ねた結果、普天間基地の代替地は、名護市辺野古付近にお願いせざるをえない結果となった。普天間基地の返還を実施するために、どうしても代替施設を探さなければならないという現実を踏まえて断腸の思いで下した結論だ」
 と述べるとともに、
 「なぜ県内なのかという皆さんの懸念、怒りはもっともだと思うが、昨今の朝鮮半島の情勢からも東アジアの不確実性がかなり残っており、海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力を低下させてはならない。一国の総理大臣として、安全保障上の観点から申し上げなければならない。『できるかぎり県外』ということばを守れなかったことに加え、今回の結論に至る過程の中で、県民に混乱を招いたことに対して、心からおわび申し上げたい」
 と語る鳩山首相の姿が映し出されていました。

 「昨今の朝鮮半島の情勢」からも「海兵隊を含む在日米軍全体の抑止力を低下させてはならない」というのです。

 「昨今の朝鮮半島情勢」が何を意味するのかは言うまでもありませんから、まさに韓国の哨戒艦「天安」の沈没問題が「天佑」のように降って湧いてきた展開となったわけです。

 20日の天安沈没問題についての「調査結果」の発表を受けて
 「私どもとすれば、これは韓国の立場を支持をする。すなわち、もし韓国が安保理に決議を求めるということであれば、ある意味で日本として、先頭を切って走るべきだ」
 「私たちはこの問題で国際的に協力してしっかりと戦っていかなければならない」
 と、異様に感じるほどの際立った高揚感のこもるコメントをした気持ちがわかるような気がします。

 ただし、鳩山首相の不幸は、これほどまでに「北朝鮮の脅威と抑止論」に身を寄せたにもかかわらず、沖縄からの中継を見ながらスタジオでコメントを求められた、前政権時代までは外交アドバイザー的な立場にありながら、政権交代で「遠ざけられ」最近ではまた鳩山首相から「頼りにされている」と巷間の噂のある人物が「(これまで日米同盟の問題にかかわってきた立場からいえば)こんなことは常識だ。これまでの経験者をはずして、半経験者、素人を集めてやろうとしたから(こんなことになったの)だ。」と冷たく突き放されるという、笑えない「喜劇」にあるというべきでしょう。

 それ以上に、この話を受けて、テレビではおなじみの新聞の政治担当編集委員が「鳩山さんの善意と(この日米外交のアドバイザーの)経験が生かされないのは不幸なことだ」と言うのを目の当たりにして、身をよじるようなこのおもねったコメントに、見ているこちらの方が気恥ずかしくなるほどで、日本の大新聞といわれるところに身を置く記者のレベルというものを深刻に考えさせられました。

 さて、その大新聞が、そして放送も含めた大メディアがこぞってしかも一致して伝えた内容に、野にある一介の素浪人が「異議申し立て」するなどという「無謀」なことが果たしてできるのか・・・。

 実のところ、う〜ん、とうなってしまうところですが、ここは勇をふるって書き進むことにしましょう。

 韓国の軍民共同の調査団、しかも米国をはじめ4か国の専門家が参加した国際合同調査団による沈没原因調査報告のポイントやその根拠となった「エビデンス(証拠)」類の映像は繰り返し伝えられていますが、「調査報告」の全容はあまり目にしませんので、煩雑でも、まず採録しておく必要があると考えます。

 どのような判断、立場に立つにしても、今後、検証を深める際にはこの報告の詳細が「原点」となるわけですから、精読は欠かせないと考えます。

 その内容は以下のようなものだと伝えられています。
 (大新聞の記者ならいざ知らず、というと皮肉がキツすぎるかもしれませんが、現時点では原文を入手して精査できる立場にはないので、いまのところ、「伝えられています」と間接話法で語る以外にありません)

1.民軍合同調査団は国内10の専門機関の専門家25人と軍の専門家22人、国会推薦専門委員3人、米国、豪、英国、スウェーデンなど4カ国の専門家24人が参加し、科学捜査、爆発類型分析、船体構造管理、情報分析など4つの分科に分けて調査活動を実施した。

2.今日の発表内容は調査団に参加した国内外の専門家らが科学的、客観的な接近方法を通じた調査活動と検証過程を経て導き出した結果である。

3.現在まで海底から引き揚げた船体の変形形態と事故海域から得た証拠物を調査および分析した結果を見ると、哨戒艦「天安」はガスタービン室の左舷の下段部から感応魚雷の強力な水中爆発によって船体が切断され、沈没したと判断される。

4.沈没原因を魚雷被撃と判断した理由は、船体損傷の部位を精密計測してみたところ、
(1)衝撃波とバブル効果によって、船体の骨格が艦艇の建造当時と比較して上のほうに大きく変形し、外板は急激に折れ、船体には破断した部分があった。
(2)主甲板はガスタービン室内の装備の整備のための大型開口部の周囲を中心に破断され、左舷側が上のほうに大きく変形し、切断されたガスタービン室の隔壁は大きく毀損し、変形した。
(3)艦首と艦尾の船底が下から上のほうに折れたことも水中爆発があったことを立証する。

5.艦艇の内外部の表面を綿密に調査した結果、艦艇が左右に激しく揺れるのを防止する艦安定機に表れた強力な圧力の痕跡、船底部分の水圧およびバブルの痕跡、熱の痕跡がない電線の切断などは水中爆発による強力な衝撃波とバブル効果が艦艇の切断及び沈没の原因だと知らせている。
 生存者とペクリョンド海岸の哨兵の陳述内容を分析した結果、生存者はほとんど同時的な爆発音を1、2回聞き、衝撃で倒れた左舷の兵士の顔に水が飛び散ったという陳述と、ペクリョンド海岸哨兵が2、3秒間、高さ約100メートルの白色の閃光の柱を観測したとの陳述内容などは水中爆発で発生する水の柱の現象と一致した。

6.また、遺体検査の結果、破片傷と火傷の痕跡は発見されず、骨折と熱による傷が観察されるなど衝撃波およびバブル効果の現象と一致した。

7.韓国地質資源研究院が地震波と空中音波を分析した結果、地震波は4カ所で震度1.5規模で感知され、空中音波は11カ所で1.1秒の間隔で2回感知された。地震波と空中音波は同一の爆発原因で、これは水中爆発による衝撃波とバブル効果の現象と一致した。

8.数回に及ぶシミュレーション結果によれば、水深約6〜9メートル、ガスタービン室の中央からおおよそ左舷3メートルの位置で総爆発量200〜300キログラム規模の爆発があったと判断される。

9.ペクリョンド近海の潮流を分析した結果、魚雷を活用した攻撃に制限を受けないと判断した。

10.沈没海域で魚雷だと確証できる決定的な証拠物として魚雷の推進動力部であるスクリューを含めた推進モーターと操縦装置などを回収した。

11.この証拠物は北朝鮮が海外に輸出する目的で配布した魚雷紹介の資料の設計図に明示された大きさと形態が一致し、推進部の後部の内側にある「1番」というハングル表記は我々が確保している北朝鮮の魚雷の表記方法と一致する。このようなすべての証拠から回収した魚雷の部品が北朝鮮で製造されたことを確認した。

12.また、このような結果により、一部で持続的に提起してきた座礁や疲労破壊、衝突、内部爆発とはまったく関連がないことを確認した。

13.結論として、沈没海域で回収した決定的な証拠物と船体の変形、関連した人の陳述、遺体の検査結果、地震波及び空中音波の分析結果、水中爆発のシミュレーション結果、ペンリョンド近海の潮流分析結果、収集した魚雷部品の分析結果に対する国内外専門家の意見を総合すると、
(1)天安は魚雷による水中爆発で発生した衝撃波とバブル効果によって切断沈没した。
(2)爆発位置はガスタービン室の中央から左舷3メートル、水深6〜9メートル程度、武器体系は北朝鮮で製造した高性能爆薬250キログラム規模の魚雷と確認された。

14.5月4日から運用してきた米豪カナダ英など5カ国の多国的連合情報分析タスクフォースによって確認した事実は次の通り。

15.北朝鮮軍はロメオ級潜水艦(1800トン級)約20隻とサンオ級潜水艦(300トン級)約40隻、サーモン級(130トン級)を含めた小型潜水艇約10隻など約70隻を保有しており、今回天安が受けた被害と同一規模の衝撃を与えられる総爆発量200〜300キログラム規模の直走魚雷、音響および航跡誘導魚雷など多様な性能の魚雷を保有している。

16.この事実と事件発生海域の作戦環境などを考慮すると、このような作戦環境の条件で運用する水中武器体系は小型潜水艦艇だと判断される。

17.また黄海の北朝鮮海軍基地で運用していた一部の小型潜水艦艇とこれを支援する母船が天安攻撃の2、3日前、黄海の北朝鮮海軍基地を離脱したとあとに天安攻撃2、3日後、基地に戻ったことが確認された。

18.さらに、ほかの周辺国の潜水艦艇はすべて自国の母基地またはその周辺で活動していたことが確認された。

19.5月15日、爆発地域近隣で漁船が回収した魚雷の部品など、すなわちそれぞれ5つの純回転および逆回転スクリュー、推進モーターと操縦装置は北朝鮮が海外に武器を輸出するためにつくった北朝鮮製武器の紹介冊子に提示されている「CHT―02D」魚雷の設計図面と正確に一致している。この魚雷の後部推進体内部で見つかった「1番」というハングルの表記は我々が確保している別の北朝鮮製魚雷の表記方法とも一致する。ロシア製魚雷や中国製魚雷はそれぞれその国の言語で表記する。

20.北朝鮮製「CHT―02D」魚雷は音響航跡などを使い、直径21インチ、重さ1.7トン、爆発装薬250キログラムに達する重魚雷である。

21.あらゆる関連事実と秘密資料分析に基づき天安は北朝鮮製魚雷による外部水中爆発の結果、沈没したという結論に到達した。

22.また、以上の証拠を総合してみると、この魚雷は北朝鮮の小型潜水艦から発射されたという以外にほかに説明できない。

(項目番号は、便宜的に、筆者による)

 「あらゆる関連事実と秘密資料分析」から哨戒艦天安は「北朝鮮製魚雷による外部水中爆発の結果、沈没したという結論に到達し」「この魚雷は北朝鮮の小型潜水艦から発射されたという以外にほかに説明できない。」ということで、証拠の魚雷の一部部品などとともにこの「精緻」な報告を示されると、私たち「素人」には言うべき何ものもないということになるのでしょう。

 が、しかし!です。

 大新聞、大メディアのジャーナリストは、完膚なきまでに、というぐらいに示されたエビデンス(証拠)に対しても、まずは自分の目で見、足で調べ、自分の頭で考え、検証して伝えていくということが最低限の責務としてあるのではないでしょうか。

 そう考えると、今回の「調査報告」にかかわる発表について伝える各メディアのありようを目の前にすると、いささか心寒いというか、はっきり言えば戦慄を覚えるとさえ言うべき「一様さ」に言葉を失います。

 ジャーナリストにとっては「所与の前提」はあってはならないことであり、それが歴史に責任を持って立ち向かう「報道者」としての最低限にして最大の自覚であり、矜持であるべきではないでしょうか。

 大メディアだけではありません。

 数日前に聴講した朝鮮半島問題の専門家の講演でも「99%北がやったということは間違いない」と、この人物は良心的だからなのでしょうか自信がなかったからなのでしょうか、百パーセントとは言わなかったのですが、語りました。

 また、20日の夜から今日にかけてのテレビ番組に出演した「専門家」たちもこぞって「北の仕業に間違いない」もしくは今回の発表を疑う余地のない前提として「北朝鮮の仕業」とする論調を重ねていました。

 独特の語り口と巷間膾炙したニックネームで人気のある元政治家が「むこうはやけくそになっているんだから、経済的にも締め上げてつぶす方向に持っていった方がいい」と言い放ったのは論外としても、冷静に考えるべきだと説く識者もその理由は、今回の問題は過去の冷戦時代の脅威とは異なって「ならずものの脅威」なのだからと言うのを聴くにつけ、ジャーナリズムのみならず、言論、言説の困難を思わずにはおれませんでした。

 したがって、ここで大メディアやそうした専門家、識者に何かを申し立ててもまさしく「蟷螂の斧」の類かもしれませんし、第一、メディアの記者をはじめ、そうした人たちが何の痛痒も感じないかもしれませんから、いかほどの意味があるかはわかりません。

 しかし、これは捨て置けないと感じるのは私一人だとは思えないのです。

 では、お前は北の仕業と言うことを否定するのか!と言われれば、もちろんそれを否定できるだけのエビデンス(根拠)も持ち合わせていません。

 しかし、では、近いところでひとつだけ例を挙げるとして、パウエル国務長官が国連安保理という場であれほど「完璧」なエビデンスを挙げてイラク開戦に至ったことを思い起こしてみるとき、記者や専門家の人々は、忸怩たる思いはないのでしょうか、と問いたくなるのです。

 そうした責任をいまだに検証することもなく、口を拭って、さも他人事のように、いまになってイラク戦争は間違っていたなどと語って何ら恥じない大メディアの記者たちや専門家、識者は、少しは「おそれ」というものを知るべきだと、私は思うのです。

 さて、そうしたパースペクティブを確認したうえで、今回の「報告」について述べる際、一見矛盾するように響くかもしれませんが、まずは、今回天安が沈没した海域は「何が起きても不思議ではない」緊張の海であることを認識しておかなければならないと思います。

 ここにあまり紙幅を費やすことは避けようと思いますので端折りますが、この海域には「二つの境界線(ライン)」が存在することを忘れてはならないと考えます。

 我々が普段目にするニュースでは、北朝鮮の艦船が「北方限界線」(NLL)をこえて「侵犯」したということがほとんどですが、立場を変えて北朝鮮側から見れば、「西海海上軍事境界線」を「侵犯」しているのは韓国の軍船であり、北にとってみれば自国の「海上境界線」海域内を航行しているだけなのだという論理になるということです。

 つまり、陸地については、1953年7月27日の朝鮮戦争の停戦協定にもとづく「軍事境界線」が存在するわけですが、このとき海上の「境界線」については明記されず、その後韓国はNLLを、北朝鮮は「西海海上軍事境界線」を、それぞれ主張することになり、相互にとってそれぞれ異なる「侵犯」の主張がありうる海域になっているということは忘れてならない重要なポイントです。

 今回の天安沈没という問題が起きて、私は、日頃から尊敬している戦略・軍事の専門家に、率直に言ってどう受けとめているのかと質問し、教示を乞うたことがあります。

 返ってきた答えは実に示唆深いものでした。

 あくまでもその一部だけですが、引用すると以下のような内容でした。
(文中でおわかりと思いますが、この質問と回答は20日におこなわれた「調査報告」の発表のずっと以前のことです。)

 「この場所は陸上のDMZ(非武装地帯)と違って、朝鮮側と米韓側との間に停戦ラインが確定していない交叉地域ではないかと思います。南は北方限界線と称して自国領海とみなしており、米韓軍は演習などで威力誇示を常続的に行っていますし、北も自領とみなしてパトロールを行っているので、ときたま局所的な交戦が勃発しているわけです。つまり、交戦は異常ではなく、むしろ正常であるとも言えるのではないでしょうか。これまでは大型艦を有する南側が優勢を占める戦例が多かったようです。
 示威やパトロールをやめれば、相手側に既成事実を作られてしまうわけですから、不期遭遇戦が生起するのは避けられません。現場の部隊や指揮官としては、上層部からの命令が無ければ、自動的に戦闘行為に突入するのはむしろ当然とも言えるのではないでしょうか。消極退嬰は処罰の対象になり得ます。時としてお互いに『威力偵察』なり『武力偵察』を行うのも当然のことでしょう。だからといって、全面戦争にまで拡大発展するということにはなかなかなり難いことは容易に理解できるのではないのでしょうか。」

 「要はこの両側の主張が食い違う海域で不期遭遇戦が起きても、どちらが正、どちらが邪という話ではないという事が一つ。それと、国際政治上、国際戦略上、どちらが仕掛けたとしてもそれなりの理屈は付くということが一つ。南が証拠不十分のまま(確定的になったとしても)北攻撃論を主張するのは、米日が対北宥和論に傾斜するのを妨げ、北孤立を続行し、北の自壊を待つ。北が攻撃したとすれば、膠着状況下にある対米関係を動かすため、敢えてリスク覚悟で武力示威(挑発ではなく)に出た(この場合、金正日将軍以下の十分な分析判断の下で)という高等統帥(政治的)の存在を推定することも可能ではないかと思います。」

 こうしたことをふまえて、「宣伝戦を互いに戦っている」のだから「為にする議論に一喜一憂することなく」冷静に見ておかなければならないとアドバイスが締めくくられていました。

 いただいた教示のほんの一部の引用ですが、語って余すところがないというべきです。

 ただし、言うまでもありませんが、「何が起きても不思議ではない緊張の海域」だから何が起きてもかまわないと、私が考えているわけではありません。

 乗り組んでいた46人の将兵の命が失われたことは痛ましいことであり、それを「何が起きても不思議では」ないゆえに仕方のないことだなどと考えているのではないことははっきり言っておかなければなりません。
 (救助、捜索作業でも犠牲者が出ているのですが、それが本当に「天安」の沈没現場海域であるのかどうかについて諸説あるので、ここではひとまず「天安」に乗り組んでいた将兵46人という犠牲者の数だけを挙げておきます)

 しかし、この戦略・軍事専門家の指摘にある事柄は、私たちが冷厳な現実として知っておく必要があると思います。

 さて、その上で、しかし!というべき問題があります。

 それは今回の「調査報告」をあたかも至上のというかまったくの「所与の前提」とする報道に問題はないのかという点です。

 これまでの各紙、各メディアあるいははじめにふれた専門家や識者の誰一人として「北朝鮮の潜水艇が発射した魚雷による沈没」という発表になんの疑問や疑念も持たず、書き、語っていることに、私たちは唯々諾々と従っていていいのか?!ということです。

 また、記者たちは、専門家たちは、そして識者たちは、何も疑うところはないのですか?!ということなのです。

 率直に言って、私は今回の「発表」を目にして、というより、この発表に至る、事の推移を見据えるとき、ぬぐいがたい重大な疑念が頭をもたげてくるのです。

 完膚なきまでに、というぐらいに完璧に提示されたエビデンスが「うそ」で塗り固められていたが、それを的確かつ有効に見抜くことができずに「戦争」に突き進んだという経験は、先ほど例に挙げたイラク開戦にとどまらず、枚挙にいとまがないというべきです。

 メディアであれ専門家であれ、識者であれ、このことに対する「おそれ」を忘れるべきではないと考えるのです。

 自己の責務、使命の重さを考えるなら、事に対してすべからく謙虚であるべきだと、わたしは考えます。

 ここまでが、今回の問題を考えていく、私の基本的な視座ということになります。

 そこで、では今回の「発表」への疑念とは具体的にいかなるものかということになります。
(つづく)




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2010年05月09日

金正日総書記訪中、普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(8)

 
 金正日総書記の中国訪問について、きょうまでに、各メディアでおおむねの初歩的な「総括」(まとめ)が報じられています。
 そうした報道をもとに少しばかり整理しておく必要があると感じます。

 その前に、前回、米国務省のクローリー次官補の5日の定例会見でのコメントについて、元のテキストにあたって確認しておかなければならないのではないかと書いた問題についてです。

 以下はその元テキストです。

 まず、金正日総書記訪中問題にかかわるクローリー次官補のコメントです。

Cannot verify Kim Jong-il comments in China/ U.S. shared views with China/ Hope North Korea will meet its commitments and cease provocative behavior
U.S. supports South Korean investigation into sinking of naval vessel/ Will draw conclusions once the investigation is complete .

 続いて、その後の質疑の中からこのテーマにかかわる部分です。

QUESTION: P.J., do you have any comment on the report that Kim Jong-il said in Beijing North Korea is ready to return to Six-Party Talks?

MR. CROWLEY: I cannot verify what Kim Jong-il has said anywhere in China. We obviously are aware he’s there. It’s been reported there will be meetings between senior Chinese officials and North Korean officials tomorrow. We have shared our views with China in anticipation of this meeting. We hope that North Korea will live up to its obligations and meet its commitments. We hope that North Korea will cease its provocative behavior, but then we’ll see what comes out of the meeting tomorrow.

QUESTION: (Inaudible) your understanding was that he was there. Do you know if he has his son with him?

MR. CROWLEY: I – we do not.

QUESTION: I’m sorry, you do not know or you don’t --

MR. CROWLEY: Well, I don’t. I don’t --

QUESTION: You don’t know; not that you don’t believe that he --

MR. CROWLEY: I don’t know.

QUESTION: Thank you. That was --

QUESTION: Does the provocative behavior include anything that happened to a South Korean naval vessel a few weeks ago?

MR. CROWLEY: On that, we continue to support South Korea as it investigates that incident.

QUESTION: If I understand, then you think the response to sinking of Cheonan and the resumption of Six-Party Talks separate as two track; is that right?

MR. CROWLEY: Well, certainly, North Korea’s behavior has affected the pace of talks in the past. We are fully supportive of South Korea’s investigation, and obviously, when that investigation is completed, we will all draw conclusions and implicate – and then we’ll have potential implications. Let’s get to the end of the investigation first.

QUESTION: On Mitchell?

MR. CROWLEY: Hold. A follow-up?

QUESTION: Follow-up. You said on this podium yesterday you hope that North Korea will come back to Six-Party Talks. It means if Kim Jong-il in Beijing right now make decision and express come back to Six-Party Talks, you take part in Six-Party Talks?

MR. CROWLEY: Well, there are a couple of ifs there. Let’s see, but – I mean, we are – there are things that North Korea has to do if this process is going to move forward. And its behavior, living up to its obligations, meeting its commitments that it’s made over a number of years – those are things that North Korea has to do. And let’s see what they’re prepared to do. Meanwhile, we’ll take note of the meeting tomorrow and we’ll continue to work with South Korea on this investigation.


 
 私は、「中国と共有している」というところにもっと質問を重ねて突っ込んでいるのかと思ったのですが、そこはあまり深く触れられていませんので残念です。

 ワシントン時間で5日の日中ですから、クローリー次官補の言葉にもあるように、詳細についてはわからない段階でしょうから、本当は、冒頭発言のこの「U.S. shared views with China」というところについて、一体、何を、どう、中国と共有しているのかを突っ込むべきではなかったかと思います。

 ここが重要なカギだと思いますので、依然としてモヤモヤしたものが残ります。もちろん質問したからといってクリアーに答えるとは思えませんが、ニュアンスというものがわかるのではないかと思うのです。

 重ねてですが、せっかっく何も訊ねてもいないのに、「中国とviewsを共有している」と言っているのですから、金ジョンウンを同行していると思うかなどと聞くよりも、こここそ踏みこんでほしかったと、残念でなりません。

 さて、米国が中国と何を、どう共有しているのかと深くかかわる、「おおむねの総括」をめぐってです。

 各メディアの「まとめ記事」あるいは、テレビ各局の「まとめニュース」を見て、いまさらながら取材者の、あるいは伝える側の問題意識が問われるところだと痛感します。

 一体何が問題の本筋なのか、そこに加えて付随的に見えたことは何なのか、という一番大事な「仕分け」が実にぐらぐらと揺らいでいて、いい加減うんざりしてしまいます。

 何を問題だと認識して、なんのために取材しているのか、伝えているのか、焦点が定まらず、ただあれやこれやと覗き見ているだけという感じをぬぐえません。

 ですから、お笑いの類ですが、一方では、左足を引きずっていたことなどから金正日総書記の「健康不安ぬぐえず」と書くメディアがあるかと思うと、他方では「精力的に・・・」とか「健康回復ぶりをアッピール」と書くものがあったりと、付き合いきれません。
 
 また社説に「中国は北朝鮮を甘やかすな」というものやら「中国は北の勝手を許すな」などというものまで飛び出してきて面喰います。

 新聞の論説委員というのはもう少し良識と品のある人がなるものかと思っていましたが、こうした言説には品位というものが感じられず、読んでいる方が恥ずかしくなります。

 問題はすでに煮詰まっていて、要は「最終幕」の緞帳があがることになるのかどうかだということはすでに書きました。

 ただし、昨年末の中国の習近平副主席訪日の際の「6カ国協議の再開や朝鮮半島の非核化について新しいチャンスを迎えているのではないか。朝鮮半島問題は緊張緩和の兆しが出てきている。日朝関係にも期待感があり、日本としても積極的な対話と協議をしてほしい。」という発言以降、年が明けてからは「脅威と緊張」への「巻き戻し」が起きていること、それゆえに今回の金正日総書記の訪中が重要な意味を帯びているという問題意識であることはすでに書いてきたとおりです。

 とりわけ普天間飛行場の移設問題に象徴される沖縄と米国の世界戦略、そして李明博政権の対北政策、さらにそれらに規定されて日本の朝鮮半島政策や対中国、アジア戦略が無定見ともいえる「揺れ」を繰り返していることで、どんどん袋小路に入っていくという状況を前に、北朝鮮が勝負に出る、あるいは中国が「カード」を切るというところに踏む込むことを意味したのが、金正日総書記の訪中だったというべきでしょう。

 新華社通信の報道によると、9人の中国共産党政治局常務委員全員が総出で最大級のもてなしをして胡錦濤主席みずから金正日総書記の視察にも同行するという配慮を重ねたことがわかります。

 胡錦濤主席、温家宝首相それぞれとの首脳会談の席で、胡錦濤主席から5項目にわたる「提案」があったことは伝えられるとおりでしょうが、この新華社の報道をこえる「踏み込んだ話」についてはまだ明らかではありません。したがって、各メディアが言うように、「六か国協議復帰説得失敗」というのは早計に過ぎるというべきです。

 それよりも、いま六か国協議が再始動をはじめて緊張緩和に舵を切ることは阻止したいという「見えざる意図」が働いて、そのために哨戒艦「天安」の問題などもふくめて、この間のさまざまな「動き」があったと理解する方が自然だと言えます。

 (ここで言う「六か国協議の再始動」というのは六か国協議の前提となる「米朝協議」へという意味を含んでいることはいうまでもありません。)

 ここをメディは深く掘り下げて取材し、分析すべきだと思うのですが、みんな横並びの論調になってしまうのですから、救いがたいというべきです。

 もちろん金正日総書記と胡錦濤主席並びに温家宝首相との首脳会談で、笑顔の下の駆け引きは熾烈をきわめたでしょうから、そう簡単に一件落着とはいかないでしょう。

 しかし、上海万博開幕に合わせた韓国の李明博大統領の訪中と首脳会談、そしておなじく上海万博の開幕式に出向いた北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長と胡錦濤主席との会談を終えて金正日総書記の訪中へと進んだ「段取り」からみても、周到に準備された今回の訪中ですから、やってみたけれどもダメでした・・・というような「子供の遊び」のようなことであるわけはありません。

 そこで残るのは米中間の駆け引きとせめぎあいということになります。

 その意味で、冒頭に挙げた、米中が何を、どう共有しているのかが重要なカギとなってくるわけです。

 6か国協議に関して金正日総書記が「各国と再開のため有利な条件を作り出したい」と表明したと伝えられていますが、中国が提案する協議予備会合への参加条件としてきた米朝協議などに言及しなかったことについては「協議復帰について、中国に委任する形を取った。綿密な計画に基づくものだ」(韓国国防研究院の白承周(ペクスンジュ)安保戦略研究センター長:「読売」5月8日)という指摘は的を射たものだというべきでしょう。

 このブログで北朝鮮の立ち位置を確認しておくためにと挙げた資料でもたびたび言及されている「9・19声明」(六か国協議で2005年9月19日にだされた共同声明)のレビューも含めて、今後米中がどう動くのか、まさに水面下の「せめぎあい」もふくめて、ささいな「兆し」から敏感にキャッチして解析していく感度が求められるのだろうと思います。

 そうした視点からは今月24,25日に北京で予定されている米中戦略・経済対話が要注目でしょう。

 また、5月3日のブログに項目だけでしたが挙げた中朝間の経済、実務面の協力、連携の「うごき」は、新華社の報道でも
 
 「在双方共同努力下,当前双方各領域友好交流合作都呈現出良好発展・・・成功協議的鴨緑江大橋新建工程将成為朝中友好合作的新象征。・・・」(表示できない簡体字を一部手直し)

 と、中国丹東市と北朝鮮新義州市を結ぶ鴨緑江大橋の新設などにふれているように、六か国協議への「復帰」問題と別のテーマとしてあるのではなく、一体となって事の成否を規定していく重要な位置づけ、要因として、動向に目を凝らしておく必要があると考えます。

 その意味では3日のブログ記事で挙げた、

 ○中国丹東市と北朝鮮新義州市を結ぶ橋の新設
 ○新義州の島を「経済特区」とし、中国企業を誘致
 ○北朝鮮が国境沿いの島などの開発権を中国企業に付与
 ○中国琿春市と北朝鮮羅先市を結ぶ橋の補修・建設や道路整備
 ○北朝鮮が平壌や開城などを外資に開放、中国企業が参入

 などの分野で具体的にどんな動きがはじまるのか、今回の視察先としてわかっている、

 大連:機関車製造工場、牛肉加工販売会社、水産加工工場、空調設備製造工場
 天津:港湾施設、経済技術開発区
 北京:バイオテクノロジー研究所
 などと合わせて、今後の展開の重要なシグナルという意味で要注目でしょう。

 さらに言うならば、今回の訪中の随行メンバーの中に国家開発銀行―朝鮮大豊国際投資集団のプロジェクトで重要な役割を負う、大豊国際投資集団理事長の金養健(朝鮮労働党統一戦線部長)、同集団役員の張成沢(国防委員会委員)が加わっていたことも、単に金正日総書記の側近という意味をこえて示唆するものが大きいといえます。

 一方、外務省の斎木アジア大洋州局長がワシントンに飛び6日、ボズワース朝鮮半島問題担当特別代表、6カ国協議担当のソン・キム特使と会談しましたが、そこで何が話し合われたのかを解析していくことも今後の展開を読む上で見落とすことのできない重要な要素になってくると言えます。

 最終幕の緞帳はどう上がるのか、あるいはそれを「阻止」する力がどう働くのか、一層目の離せないところに来ました。



posted by 木村知義 at 22:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録