長く「休んでいた」ブログを再開しなければと思って書き始めたところに、仙台の地で、ご夫妻で「コリア文庫」を主宰されている、翻訳家であり韓国文学研究者でもある青柳優子さんから、ソウル発の「コリア文庫通信」特別号が届きました。
今回の震災の被災地である宮城県仙台市に住み、地域の人たちと手を携えて韓国文学を読み、朝鮮半島問題、東北アジアの平和について考える営みを重ねていらっしゃる青柳さんが、たまたま震災前日に仙台を発ってソウルでのシンポジウムに討論者として参加している間に地震が起きて、その後韓国に留まりながら仙台の地とそこでの仲間や市民、県民の安否を気遣い、現在の状況を案じていること、さらには韓国の民衆やメディアが今回の日本の震災にどのような「まなざし」でいるのかをビビッドに伝える「通信」でした。
韓国の反響を含め、今回の震災に対する諸外国の受けとめについては日本のメディアでも伝えられていますが、青柳さんから届いた「通信」を読みすすむうち、従来のメディアによる報道ではまったく伝えられていない大事なことがらがいくつも記されていることに気づきました。
そこで、青柳さんのご理解を得て、「コリア通信」特別号―1をここに転載させていただくことにしました。
既存のメディアではすくい上げられていない内容に、私は、胸が熱くなる思いで読みました。
ぜひお読みいただきたいと思います。
なお文中に触れられている金 起林は韓国の文学者でありジャーナリストで、当時の東北帝大に留学していたことがある仙台ゆかりの人物でもあります。
詳しくは青柳優子さんの編訳・著書「朝鮮文学の知性 金 起林」(新幹社2009年)をご参照ください。
コリア文庫通信 (特別号―1) 2011年3月29日
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東北大震災から18日になりますが、皆様、お元気でしょうか。
この間一時帰国していた連れ合いからの連絡によりますと、コリア文庫会員皆様の無事が確認され、ホッとしています。
私は、11日にソウルで開催された、日韓の翻訳事情に関するシンポジウムに討論者として参加するため、10日の飛行機で仙台空港を発ちました。そして、シンポジウムの最中に地震のことが日本大使館を通じて知らされましたが、夜ホテルに戻ってテレビを見てその被害の大きさに愕然としてしまいました。電話も通じないし、連絡の取りようがなく、本当に心配しました。
仙台空港が使えなくなり、また食糧事情などもよくないと聞いていますが、現在、私は状況を見ながら帰国の時期を探っているところです。
ところで、仙台ではどの位報道されているのかわかりませんが、こちら韓国では日本に対する全国民的な大きな支援と友情の輪が広がっています。連日、テレビを通じて募金が呼びかけられており、サッカーの試合などでは(日本は出場していませんでしたが)選手も応援席のファンたちも「日本がんばれ!」の日本語で書かれた横断幕を掲げて「日本、ファイト」と声をあげ、カメラもそれを大写しで伝えたり、日本と姉妹校になっている高校の生徒たちも募金とともに励ましの手紙を書いたり、伝えきれないほど様々な支援と友情の輪が広がっています。
特に印象的だったのは、日本軍「慰安婦」被害者のハルモ二たちが3月16日の定例の水曜抗議デモを地震被害者の冥福を祈る集会にしたという報道でした。日本という国家に対しては抗議しているが、この度のとてつもない被害にあった日本人に対しては冥福とともに早く復興できるよう祈っているというハルモ二の声が伝えられました。恐ろしい状況の中で生き抜いてきたハルモ二たちの崇高なる精神と優しさに触れた瞬間でした。
また、15日付けのハンギョレ新聞の1面に高銀(コ・ウン)さんの詩「日本への礼義」が大きく掲載されました。白楽晴(ペク・ナクチョン)先生の勧めで日本語に訳したのを朝日新聞に送りました。今週中に掲載される予定です。いい詩だということで、雑誌『世界』にも掲載されることになりました。
昨日は、ハンギョレ新聞社や市民団体が主催する「追慕と連帯の夜」の集まりがソウル鐘路の普信閣で開催され、多くの市民が参加したそうです。私は残念ながら、参加できませんでした。
そして、今朝(3月29日)の「ハンギョレ新聞」の第1面には、甲子園に出場した東北高校の記事が連合ニュースの写真とともに載っています。タイトルも「勇気を奮い起こす‵希望の直球′」で、地震にあいながらも出場した東北高校の選手たちとそれを支える仙台市民の姿が感動的に伝えられています。韓国では高校野球はまったく関心外のものなので、日本の「甲子園」についてはほとんど知られていません。そういう点からも日本人の庶民生活を伝えるいい報道だと感心しました。この間感じていることですが、掲載された写真なども、久しぶりに学校の教室で学友に再会して喜ぶ子供たちの姿など、「日本」という国家に重点が置かれることなく、同じ「人間」としての姿に焦点をあてた報道になっています。これは大きな変化であり、素晴らしいことだと思います。60年以上前に金起林が喝破した“民族主義“と“民族文化”の違い, そして将来向かうべき“民族文化”の方向が、今、この目の前で示されているのです。感慨無量です。「ハンギョレ新聞」の報道が特別というのではなく、そうした報道姿勢を自然に受けとめている多くの読者が存在するからこそ、そうした報道が可能なのであり、可能な市民社会が構築されている証でありましょう。
転じて日本の社会はどうなのでしょうか? 一部で関東大震災のときのような流言蜚語が飛び交ったと、インターネットで伝えられていました。こうした大災害に便乗して出てくる排他的民族主義・国粋主義の醜悪さと情けなさを痛感しました。そうした心無いデマを言いふらす人々は、きっと自分の醜い行為が瞬時にして全世界に知れわたっていることも平気で関係ないとでも思っているのでしょうか?非常に多くの人が非常に長い時間をかけて一つ一つ積み上げてきた国家を超える信頼関係を破壊する破廉恥で恐ろしい行為であることを自覚できるだけの人間性をもってほしいと痛切に思います。
さて、現在の生活で直接体験していることとしては、まず、以前仙台に取材にいらっしゃったアリランTVのプロデューサー・朴さんご夫妻のご親切です。ホテルを出た3月18日から朴さんのご自宅にずっとお世話になっています。そして、近所に住んでいる高一の姪御さんがやってきていろいろ取材されたりもしました。彼女は高校の新聞部に所属していて、その学校も日本の学校と姉妹校の提携をしているのだそうです。「普段、どのような地震対策をしているのか、避難訓練は定期的にやっているのか、学校でもやっているのか」など、いろいろ聞かれました。話をしていて、新聞部だからということではなく、すぐ隣の国で起きた大災害に隣人として心配し、なんとか励ましたいという気持ちで会いに来てくれたことがわかり、とてもうれしく、しみじみとした思いになりました。
一昨日の日曜日にもお母さんから頼まれたといってお手製の特別なサンドイッチを持ってきてくれました。本当に皆さんのご親切に感謝しながら過ごしています。
今、私は国立中央図書館に通って今後の仕事の段取りをしています。帰国するまで、こちらから皆さんにできる限り発信していきたいと思います。
皆さん、どうかお体を大切に!또 봅시다!!
(ソウルにて、青柳優子)
2011年03月29日
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