2010年11月24日

よみがえる「朝鮮戦争」の悪夢・・・

 きのうは仙台に出かけて午後ずっと会合に出ていたので北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃のニュースは速報時点では知らず、帰路、仙台駅のホームに上がったところでパソコンでニュースをチェックして知りました。
 
 後でわかったのですが、午後このニュースを知らせる電話が何度も着信していたのでしたが会合に出ていたので着信音を切っていたため気づかずに過ぎていたのでした。

 最初にニュースを目にした時点では、事の詳細はわからなかった(今もわからないことだらけですが)のですが、起こるべくして起きたというのが私の第一印象でした。とともに、いったん収まっても、きわめて深刻な状況が続くことへの懸念を深くしたのでした。

 すでに各メディアでは「北朝鮮の暴挙」への非難が湧き起こっていますが、ここは本当の意味で冷静に事の本質に踏み込んで考えてみることが必要だと思います。

 まず確認しておかなければならないことは、この海域は何が起きても不思議ではないところだという点です。

 北方限界線(NLL)をめぐる歴史的経緯についてはすでに、少しばかりというべきですが、メディアでも触れられています。

 共同通信はこのNLLについて以下のような「解説」を配信しています。

 「朝鮮戦争休戦協定調印後の1953年8月30日、国連軍司令部が陸上の軍事境界線を考慮して定めた黄海上の韓国と朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の境界線。99年6月にも北朝鮮警備艇が侵入を続け、同15日に韓国海軍艦艇との間で銃撃戦が発生、北朝鮮の魚雷艇1隻が沈没し、警備艇数隻が大破。北朝鮮は同年8月17日の板門店での在韓国連軍との将官級会談で、黄海の新たな境界線設定に向けた協議を要求、9月2日に北方限界線の無効を一方的に宣言した。」

 また毎日新聞は、
 
 「朝鮮戦争の休戦協定(1953年7月)で定められた軍事境界線は陸上に限定されていたため、在韓・国連軍は同年8月、黄海上に艦艇の行動北限として独自にNLLを設定した。92年発効の『南北基本合意書』は海上区域について『(境界線が)画定されるまで、双方が管轄してきた区域とする』とし、NLLを事実上認めた。だが北朝鮮は99年9月、NLLは無効だとして南側に境界線を設定し『軍事統制水域』を主張。過去にも銃撃戦があり『海の火薬庫』と呼ばれる。」

 としています。

 いずれにせよ、南北で「境界」の認識が異なる状況のなかで、これまでも衝突が起きて緊張関係が続いてきたということがわかります。

 そして、事態の本当のところの経緯はまだ明らかではありませんが、そんな「何が起きても不思議ではない」この海域で、韓国の陸海空軍が「軍事演習」を行っていたことは、見落としてはならない重要なポイントだというべきです。

 しかし、ある新聞が書くように「韓国は定期的に同海域で訓練しているうえ、北朝鮮が韓国の陸地を目標に砲撃したのも極めて異例だ。訓練への抗議を口実にして攻撃を仕掛け、内部引き締めを図るとともに、対話に応じない米国の姿勢に焦って朝鮮半島の緊張を高めることを狙った可能性もある。」といった分析で事が済むということでいいのだろうかという省察はメディアに皆無です。

 そのことに懸念を抱くのは私だけなのだろうかと考え込みました。

 そういう視角で振り返ってみると、韓国のこの「演習」に対しては、前日すでに北側から強い非難の表明がなされていたこと、そして23日午前8時20分、南北非武装地帯に近い都羅山に位置する韓国軍の通信施設に、韓国軍が予定している延坪島付近での「射撃訓練」に対して、北朝鮮の「領海に撃ったなら看過しない」という内容のファックスが送られてきて、北朝鮮側が強い警告を発していたことは、しっかりと押さえておく必要があると考えます。

 韓国側は、この「射撃訓練」では南西側にしか砲弾を撃っておらず、つまりは北朝鮮の陸地側に向けては砲・射撃していないとしています。

 しかし、目と鼻の先で繰り広げられる砲・射撃を、緊張関係のなかで対峙する軍人がどう感じるかは、想像すればそれほど難しい問題ではないと言えます。

 これを「挑発」と言わずしてなんと言うのか、と言うとまるで北側の「言い分」そのままになってしまうのですが、ここは冷静にとらえておくべき問題だと言うべきです。

 さらに、北からの砲弾が民間人の居住地域に着弾したことや韓国海兵隊の関連施設の建設工事に当たっていたとされる民間人に犠牲者が出たことで、一層北朝鮮への非難の声が高くなっているのですが、この島には韓国軍の「施設」(基地)があり、北からの砲撃はそこに向けてのものだったということが、死傷者の多数が兵士だったということでもわかります。

 こう考えてくると、まさに「戦争」が繰り広げられていたのだということが見えてきます。

 南北の「境界」をめぐって争いが続いている海域で、まさに一触即発の状況下で韓国軍による砲・射撃「演習」が行われ、それに対して北側から執拗な「警告」が発せられ、そのあげく北からの砲撃が行われたということです。

 さらに重要なことは、朝鮮半島周辺海域では、7月段階から米韓、あるいは韓国軍単独の演習(軍事訓練)がほとんど切れ目なく打ち続いていたということです。

 私は、7月26日のコラムで『なんと愚かなことをするものだろう』と書きました。
 ぜひ、以下の内容を、もう一度お読みいただきたいと思います。
 http://blog.shakaidotai.com/archives/201007-1.html

 残念ながらその時の懸念が、懸念では済まなかったことが昨日の「砲撃事件」で明らかになりました。

 さらに、このようにして戦争は「起こされる」のだという思いを強くします。

 そしてもう一件、5月23日のコラムで「天安艦事件」にかかわって、信頼する軍事問題研究家から、この海域とそこでの軍人の「行動」について鋭い示唆を得たことを書きました。

 今回の「砲撃問題」を考える際にもそこでの指摘は極めて重要だと思い返したものです。
 このコラムもあわせてお読みいただければと思います。
 http://blog.shakaidotai.com/archives/20100523-1.html

 「訪朝報告」が中断したままとなっている最中、今回の「砲撃事件」が起きました。
 「訪朝報告」と密接にかかわる問題だと痛感することから、こちらを先に書くことにしたものです。

 メディアが「挑発」と書くとき、何をもって挑発と考えるのか、そこがまず問われるのだと思います。

 そして、けさ、神奈川県のアメリカ海軍横須賀基地から、原子力空母「ジョージ・ワシントン」とイージス巡洋艦「カウペンス」が出港して、韓国周辺海域に向かいました。

 28日から、より規模の大きな米韓軍事演習が展開されます。

 一触即発という言葉が言葉だけではなくなる、まさに悪夢の再来を目の当たりにしないとも限りません。

 ここを冷戦の残る地域、ではなく「熱い戦争」の繰り広げられる地域にしてはならない!という思いがつのります。

 しかし、日に日にガバナンスの喪失の度を強める日本の現政権のこの問題への態度や、言うところの評論家や外務省OBとしてメディアで語る「外交専門家」の言説の危うさを目にするにつけ、悪夢が悪夢では済まない恐れを強くしてしまいます。

(つづく)

posted by 木村知義 at 23:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録
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