(承前)
前のコラムを書いた直後、新たなニュースに接しました。
まず、韓国の李明博大統領が24日午前、哨戒艦「天安」沈没事件の調査結果にかかわって国民向け談話を発表することになったということで、ここで李大統領は、「北朝鮮に対する断固とした対応措置」を取る意向を示すとともに「国連安全保障理事会への問題提起など国際共助を通じた対応方向」(聯合通信)についても表明することになるということです。
また、李大統領の談話発表終了後に外交通商部の柳明桓(ユ・ミョンファン)長官、統一部の玄仁沢(ヒョン・インテク)長官、国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官が、合同記者会見を行い、北朝鮮への具体的な対応策を発表する予定だということです。
一方、このことをBBCニュースが伝えたとして、国連の安全保障理事会理事国ロシアの「ロシアの声」放送がいち早く転電で報じています。(5月23日夜、「ロシアの声」Webによる)
ロシア外務省のネステレンコ報道官は、韓国で「調査報告」についての発表があった20日、今回の調査がかなり詳細に行われたとしながら、韓国側とは事前交渉があったものの、北の犯行疑惑を確証できるような証拠は示されなかった点を指摘して、韓国から受け取ったものがあくまで「調査結果に関する発表」であり「実際の結果」を受け取り検証するまで結論は出せないとして「彼らは検証が終わったことを確認しているようだが、我々には時間が必要だ」と語っていました。(「ロシアの声」による)
「調査結果」発表後の「動き」が慌ただしくなってきました。
事態の動向は、このコラムの続きを、「のんびり」と書いていることを許すかどうかわからなくなってきましたが、とにかく続けることにします。
完璧な「証拠」に裏付けされ、かつ専門家の緻密な検証と原因追及の論理構築に一介の素人が疑問を抱くなどという「不遜」なことが許されるのかどうか、少なくとも大メディアの誰一人、紙面なり番組なりでそんなことを書き、語っていないなか、まるで無謀としか言えない所業というべきかもしれません。
それだけのことを自覚して、しかし、少し書いておきたいと考えます。
つまり、もし「それはおかしい!」というなら、ぜひ納得できる答えが欲しいと切望するからです。
したがって、国際的な専門家が大勢集まって「究明」し論理構築したものに対して、にわか勉強、一知半解の「知識」で挑もうというような大それた気持ちは一切ありません。
ただ、素朴な疑問に答えてほしいと思うところを述べてみようと考えただけです。
さて、何から書いていけばいいのか気の遠くなるほどいっぱいあるのですが、それを全部書き連ねるには時間とスペースが足りません。
また、どういうわけか、このところ背中から肩、腕にかけての痛みに悩まされているため、キィーボードにふれるのが辛く、最低限の事柄にとどめざるをえません。
そこで、まず、哨戒艦天安沈没「事故」が起きた当時に記憶を戻してみることから始めたいと考えます。
この「事故」が起きたのは3月26日の夜のことでした。
思い返してみると、「事故」発生当初は日本のメディアの扱いも決して大きなものではなかったと記憶しています。
手元に残している日本の新聞よりも韓国での報道をたどるほうが報道のトーンの「変化」がよくわかるので、聯合通信の報じ方を読み返してみます。
聯合通信の第一報だと思われるものは、2010年3月27日0時0分配信で、
「黄海の白リョン島付近で警備中だった韓国海軍の哨戒艦が26日午後9時45分ごろ原因不明の爆発により沈没していると軍消息筋が伝えた。軍消息筋は、哨戒艦が船体後方から沈没しており、攻撃を受けた可能性が提起されていると明らかにした。哨戒艦の乗組員は104人で、このうち相当数が爆発当時、海に飛び込んでおり、人命被害が懸念されている。」
というものでした。
その後、「黄海の白リョン島南西沖で警備活動中だった海軍哨戒艦『天安』(1200トン級)が26日午後9時45分ごろ、船体後方に穴が開き、沈没した。合同参謀本部情報作戦処長のイ・ギシク海軍准将は27日、艦艇の船底に原因不明の穴が開き、沈没したと説明した。穴が開いた原因が明らかになっていないため、北朝鮮によるものと断定はできないとし、一刻も早く原因を究明し、適切な措置を取る方針を示した。哨戒艦の沈没地点は白リョン島と大青島の間、北方限界線(NLL)から南方に遠く離れた海上で、27日午前1時現在、艦艇の乗員104人のうち58人が救助された。残り46人の救助活動も続けられている。合同参謀本部は人命救助作業を最優先に行っているため、まだ正確な事故原因は究明できずにいると説明した。一角では、船尾に穴が開いたため、北朝鮮の魚雷艇などによる攻撃の可能性も提起されているが、合同参謀本部は『確認されていない』とし、慎重な反応を示した。また、事故当時、事故海域近隣で作戦中だった別の哨戒艦『束草』のレーダーに正体不明の物体が捉えられ、警告射撃を5分間行った。イ准将は『レーダーに捉えられた物体の形状から鳥の群れと推定されるが、正確な内容の確認を行っている』と述べた。一方、李明博(イ・ミョンバク)大統領が26日午後10時に招集した安保関係長官会議は27日午前1時ごろに終了した。同日の午前中に再び会議を開き、事態の把握に努める予定だ。青瓦台(大統領府)の李東官(イ・ドングァン)弘報(広報)首席秘書官は、北朝鮮との関連の可能性については現時点では予断できないと明らかにした。」(3月27日8時2分配信)
「在韓米軍は黄海・白リョン島南西沖での海軍哨戒艦『天安』(1200トン級)沈没事故に関連し、北朝鮮の介入の可能性は低いと判断していると伝えられた。軍の事情に詳しい情報筋が27日に明らかにした。事故前後に朝鮮人民軍の特異動向がとらえられていないことを根拠としているという。一方、韓国海軍は、事故海域の水深は24メートルほどだが、暗礁は存在しない地域と判断し、座礁による事故の可能性は大きくないとみている。また、軍一角でも、沈没地点が北方限界線(NLL)から遠く北朝鮮軍艦艇の侵透が制限されており、比較的浅海のため敵艦隊の機動も容易ではないことから、『天安』内部で爆発があった可能性が提起されている。ただ、国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官は、この日事故海域に向かう前、記者らに対し『深海を探索してみなければ、事故原因は分からない』と述べ、慎重な姿勢を示した。海軍はこの日午後から、事故原因究明と行方不明者の捜索に、戦時・平時の海難救助作戦と港湾および水路上の障害物除去などの任務を遂行する海軍特殊潜水部隊SSUを投入した。天候も午後から比較的安定しており、18人の要員が特殊潜水装備を着用し水中に入り、爆発した船体部分を詳しく調査、今回の事故が魚雷や機雷など外部衝撃によるものか、内部爆発によるものか、原因把握に当たっている。同時に、行方不明者46人の多くが船内に閉じ込められているものと見て、沈没した哨戒艦の隅々まで捜索し、生存者の救助と船体引き上げなどの作業に入る。ただ、長時間の捜索作業が可能なほど天候が良いわけではなく、軍関係者は、27日中に調査を終えるのは難しいとの見方を示している。」(3月27日15時32分配信)と北朝鮮の関与にかかわっては微妙に「変化」していきました。
また、米国防総省のスポークスマンも米国時間26日に行われた記者会見で「むやみに結論を急ぐべきではない」と前置きした上で、「現時点では北朝鮮が関与した証拠はない」としました。
当初から「北朝鮮攻撃説」で突っ走った一部のメディアを除いて、聯合通信などのメディアは、沈没発生当初は「北朝鮮軍の魚雷によって沈没した可能性」にふれはしましたが、その後は米国の見方などともあいまって「政府高官関係者は27日、『まだ正確な事故原因は究明されていないが、政府各官庁でこれまでの調査状況を総合すれば、今回の事故は北朝鮮によるものとは見られないというのが、政府の判断』だと明らかにした。」(聯合通信3月27日16時22分配信)などと、報道のトーンが変化したことは思い返しておく必要があります。
その後行方不明者の捜索が難航し家族の苛立ちも昂じてくる中でネットなどでも政府の危機管理能力に対する辛辣な批判が飛び交うようになっていきます。
そして、処理されずに残った「機雷」説や「疲労破壊」など、諸説が交錯する中、一部メディアが「天安」の沈没と前後して北朝鮮の「半潜水艇」が周辺海域で稼動していたと報じたことについて、青瓦台(大統領府)が「確認の結果、まったく事実ではない」ときっぱりと否定するとともに、そうした一部のメディアで北朝鮮の魚雷によって「天安」が沈没した可能性も取りざたされていることについて「北朝鮮潜水艇の作戦遂行能力などを考慮すると事実ではない」とし、さらに 国防部も、半潜水艇の出没説について「当時、北朝鮮に特異兆候はなかったと把握された」として、「そのため事故当時も非常事態が下されなかったと説明した」と伝えられました。(聯合通信4月1日9時16分配信)
在韓米軍もまた、シャープ司令官(韓米連合司令官兼務)が4月6日におこなわれた講演で「米国は事故調査のため最高の専門家チームを派遣するとし、同チームが韓国ともに、事故原因を正確に究明するだろうと期待を示した。また、李明博大統領が強調したように、米軍は精密に分析作業を行うと説明した。
そのうえで、北朝鮮を連日近くから観察しているが、現時点で特異活動はないとみていると強調した。」(聯合通信4月6日17時32分配信)と、北朝鮮の関与説を否定していました。
では、どのあたりから「北朝鮮関与説」に「反転」しはじめるのでしょうか。
(つづく)
2010年05月24日
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/38468233
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/38468233
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック