2010年05月09日
金正日総書記訪中、普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(8)
金正日総書記の中国訪問について、きょうまでに、各メディアでおおむねの初歩的な「総括」(まとめ)が報じられています。
そうした報道をもとに少しばかり整理しておく必要があると感じます。
その前に、前回、米国務省のクローリー次官補の5日の定例会見でのコメントについて、元のテキストにあたって確認しておかなければならないのではないかと書いた問題についてです。
以下はその元テキストです。
まず、金正日総書記訪中問題にかかわるクローリー次官補のコメントです。
Cannot verify Kim Jong-il comments in China/ U.S. shared views with China/ Hope North Korea will meet its commitments and cease provocative behavior
U.S. supports South Korean investigation into sinking of naval vessel/ Will draw conclusions once the investigation is complete .
続いて、その後の質疑の中からこのテーマにかかわる部分です。
QUESTION: P.J., do you have any comment on the report that Kim Jong-il said in Beijing North Korea is ready to return to Six-Party Talks?
MR. CROWLEY: I cannot verify what Kim Jong-il has said anywhere in China. We obviously are aware he’s there. It’s been reported there will be meetings between senior Chinese officials and North Korean officials tomorrow. We have shared our views with China in anticipation of this meeting. We hope that North Korea will live up to its obligations and meet its commitments. We hope that North Korea will cease its provocative behavior, but then we’ll see what comes out of the meeting tomorrow.
QUESTION: (Inaudible) your understanding was that he was there. Do you know if he has his son with him?
MR. CROWLEY: I – we do not.
QUESTION: I’m sorry, you do not know or you don’t --
MR. CROWLEY: Well, I don’t. I don’t --
QUESTION: You don’t know; not that you don’t believe that he --
MR. CROWLEY: I don’t know.
QUESTION: Thank you. That was --
QUESTION: Does the provocative behavior include anything that happened to a South Korean naval vessel a few weeks ago?
MR. CROWLEY: On that, we continue to support South Korea as it investigates that incident.
QUESTION: If I understand, then you think the response to sinking of Cheonan and the resumption of Six-Party Talks separate as two track; is that right?
MR. CROWLEY: Well, certainly, North Korea’s behavior has affected the pace of talks in the past. We are fully supportive of South Korea’s investigation, and obviously, when that investigation is completed, we will all draw conclusions and implicate – and then we’ll have potential implications. Let’s get to the end of the investigation first.
QUESTION: On Mitchell?
MR. CROWLEY: Hold. A follow-up?
QUESTION: Follow-up. You said on this podium yesterday you hope that North Korea will come back to Six-Party Talks. It means if Kim Jong-il in Beijing right now make decision and express come back to Six-Party Talks, you take part in Six-Party Talks?
MR. CROWLEY: Well, there are a couple of ifs there. Let’s see, but – I mean, we are – there are things that North Korea has to do if this process is going to move forward. And its behavior, living up to its obligations, meeting its commitments that it’s made over a number of years – those are things that North Korea has to do. And let’s see what they’re prepared to do. Meanwhile, we’ll take note of the meeting tomorrow and we’ll continue to work with South Korea on this investigation.
私は、「中国と共有している」というところにもっと質問を重ねて突っ込んでいるのかと思ったのですが、そこはあまり深く触れられていませんので残念です。
ワシントン時間で5日の日中ですから、クローリー次官補の言葉にもあるように、詳細についてはわからない段階でしょうから、本当は、冒頭発言のこの「U.S. shared views with China」というところについて、一体、何を、どう、中国と共有しているのかを突っ込むべきではなかったかと思います。
ここが重要なカギだと思いますので、依然としてモヤモヤしたものが残ります。もちろん質問したからといってクリアーに答えるとは思えませんが、ニュアンスというものがわかるのではないかと思うのです。
重ねてですが、せっかっく何も訊ねてもいないのに、「中国とviewsを共有している」と言っているのですから、金ジョンウンを同行していると思うかなどと聞くよりも、こここそ踏みこんでほしかったと、残念でなりません。
さて、米国が中国と何を、どう共有しているのかと深くかかわる、「おおむねの総括」をめぐってです。
各メディアの「まとめ記事」あるいは、テレビ各局の「まとめニュース」を見て、いまさらながら取材者の、あるいは伝える側の問題意識が問われるところだと痛感します。
一体何が問題の本筋なのか、そこに加えて付随的に見えたことは何なのか、という一番大事な「仕分け」が実にぐらぐらと揺らいでいて、いい加減うんざりしてしまいます。
何を問題だと認識して、なんのために取材しているのか、伝えているのか、焦点が定まらず、ただあれやこれやと覗き見ているだけという感じをぬぐえません。
ですから、お笑いの類ですが、一方では、左足を引きずっていたことなどから金正日総書記の「健康不安ぬぐえず」と書くメディアがあるかと思うと、他方では「精力的に・・・」とか「健康回復ぶりをアッピール」と書くものがあったりと、付き合いきれません。
また社説に「中国は北朝鮮を甘やかすな」というものやら「中国は北の勝手を許すな」などというものまで飛び出してきて面喰います。
新聞の論説委員というのはもう少し良識と品のある人がなるものかと思っていましたが、こうした言説には品位というものが感じられず、読んでいる方が恥ずかしくなります。
問題はすでに煮詰まっていて、要は「最終幕」の緞帳があがることになるのかどうかだということはすでに書きました。
ただし、昨年末の中国の習近平副主席訪日の際の「6カ国協議の再開や朝鮮半島の非核化について新しいチャンスを迎えているのではないか。朝鮮半島問題は緊張緩和の兆しが出てきている。日朝関係にも期待感があり、日本としても積極的な対話と協議をしてほしい。」という発言以降、年が明けてからは「脅威と緊張」への「巻き戻し」が起きていること、それゆえに今回の金正日総書記の訪中が重要な意味を帯びているという問題意識であることはすでに書いてきたとおりです。
とりわけ普天間飛行場の移設問題に象徴される沖縄と米国の世界戦略、そして李明博政権の対北政策、さらにそれらに規定されて日本の朝鮮半島政策や対中国、アジア戦略が無定見ともいえる「揺れ」を繰り返していることで、どんどん袋小路に入っていくという状況を前に、北朝鮮が勝負に出る、あるいは中国が「カード」を切るというところに踏む込むことを意味したのが、金正日総書記の訪中だったというべきでしょう。
新華社通信の報道によると、9人の中国共産党政治局常務委員全員が総出で最大級のもてなしをして胡錦濤主席みずから金正日総書記の視察にも同行するという配慮を重ねたことがわかります。
胡錦濤主席、温家宝首相それぞれとの首脳会談の席で、胡錦濤主席から5項目にわたる「提案」があったことは伝えられるとおりでしょうが、この新華社の報道をこえる「踏み込んだ話」についてはまだ明らかではありません。したがって、各メディアが言うように、「六か国協議復帰説得失敗」というのは早計に過ぎるというべきです。
それよりも、いま六か国協議が再始動をはじめて緊張緩和に舵を切ることは阻止したいという「見えざる意図」が働いて、そのために哨戒艦「天安」の問題などもふくめて、この間のさまざまな「動き」があったと理解する方が自然だと言えます。
(ここで言う「六か国協議の再始動」というのは六か国協議の前提となる「米朝協議」へという意味を含んでいることはいうまでもありません。)
ここをメディは深く掘り下げて取材し、分析すべきだと思うのですが、みんな横並びの論調になってしまうのですから、救いがたいというべきです。
もちろん金正日総書記と胡錦濤主席並びに温家宝首相との首脳会談で、笑顔の下の駆け引きは熾烈をきわめたでしょうから、そう簡単に一件落着とはいかないでしょう。
しかし、上海万博開幕に合わせた韓国の李明博大統領の訪中と首脳会談、そしておなじく上海万博の開幕式に出向いた北朝鮮の金永南・最高人民会議常任委員長と胡錦濤主席との会談を終えて金正日総書記の訪中へと進んだ「段取り」からみても、周到に準備された今回の訪中ですから、やってみたけれどもダメでした・・・というような「子供の遊び」のようなことであるわけはありません。
そこで残るのは米中間の駆け引きとせめぎあいということになります。
その意味で、冒頭に挙げた、米中が何を、どう共有しているのかが重要なカギとなってくるわけです。
6か国協議に関して金正日総書記が「各国と再開のため有利な条件を作り出したい」と表明したと伝えられていますが、中国が提案する協議予備会合への参加条件としてきた米朝協議などに言及しなかったことについては「協議復帰について、中国に委任する形を取った。綿密な計画に基づくものだ」(韓国国防研究院の白承周(ペクスンジュ)安保戦略研究センター長:「読売」5月8日)という指摘は的を射たものだというべきでしょう。
このブログで北朝鮮の立ち位置を確認しておくためにと挙げた資料でもたびたび言及されている「9・19声明」(六か国協議で2005年9月19日にだされた共同声明)のレビューも含めて、今後米中がどう動くのか、まさに水面下の「せめぎあい」もふくめて、ささいな「兆し」から敏感にキャッチして解析していく感度が求められるのだろうと思います。
そうした視点からは今月24,25日に北京で予定されている米中戦略・経済対話が要注目でしょう。
また、5月3日のブログに項目だけでしたが挙げた中朝間の経済、実務面の協力、連携の「うごき」は、新華社の報道でも
「在双方共同努力下,当前双方各領域友好交流合作都呈現出良好発展・・・成功協議的鴨緑江大橋新建工程将成為朝中友好合作的新象征。・・・」(表示できない簡体字を一部手直し)
と、中国丹東市と北朝鮮新義州市を結ぶ鴨緑江大橋の新設などにふれているように、六か国協議への「復帰」問題と別のテーマとしてあるのではなく、一体となって事の成否を規定していく重要な位置づけ、要因として、動向に目を凝らしておく必要があると考えます。
その意味では3日のブログ記事で挙げた、
○中国丹東市と北朝鮮新義州市を結ぶ橋の新設
○新義州の島を「経済特区」とし、中国企業を誘致
○北朝鮮が国境沿いの島などの開発権を中国企業に付与
○中国琿春市と北朝鮮羅先市を結ぶ橋の補修・建設や道路整備
○北朝鮮が平壌や開城などを外資に開放、中国企業が参入
などの分野で具体的にどんな動きがはじまるのか、今回の視察先としてわかっている、
大連:機関車製造工場、牛肉加工販売会社、水産加工工場、空調設備製造工場
天津:港湾施設、経済技術開発区
北京:バイオテクノロジー研究所
などと合わせて、今後の展開の重要なシグナルという意味で要注目でしょう。
さらに言うならば、今回の訪中の随行メンバーの中に国家開発銀行―朝鮮大豊国際投資集団のプロジェクトで重要な役割を負う、大豊国際投資集団理事長の金養健(朝鮮労働党統一戦線部長)、同集団役員の張成沢(国防委員会委員)が加わっていたことも、単に金正日総書記の側近という意味をこえて示唆するものが大きいといえます。
一方、外務省の斎木アジア大洋州局長がワシントンに飛び6日、ボズワース朝鮮半島問題担当特別代表、6カ国協議担当のソン・キム特使と会談しましたが、そこで何が話し合われたのかを解析していくことも今後の展開を読む上で見落とすことのできない重要な要素になってくると言えます。
最終幕の緞帳はどう上がるのか、あるいはそれを「阻止」する力がどう働くのか、一層目の離せないところに来ました。
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