(承前)
さきほど、10時15分過ぎ、フジテレビで、金正日総書記が乗っているとみられる列車がけさ6時15分ごろ(日本時間)北朝鮮の新義州と中国の丹東の間の鴨緑江にかかる友誼橋を渡ったと映像つきで伝えられました。
NHKニュースでは8時台に「北朝鮮と国境を接する中国の丹東に、定期旅客列車とは異なる列車が到着し、外交関係者の間では北朝鮮のキム・ジョンイル総書記が乗った特別列車ではないかという見方が出ています。」と、コメントと過去の資料映像で伝えていました。
金正日総書記が中国に入ったことはまず間違いないと思われます。昼のニュースではさらに詳しい情報が伝えられるだろうと思います。
「最終幕」の緞帳があがるかどうか、ただし、「最終幕」にも「第一場」から始まっていくつもの「場」があることだろうが、ということは今朝書きました。
そこで、きのうに続いて書き継いでいく際に、押さえておく必要があるだろうと思ったいくつかの事項について、金総書記の訪中ということになりましたので、詳細はさてくとして、今現在の「成り行き」を見据える場合の重要なポイントになる、北朝鮮側の「立ち位置」について原資料に当たって見ておくことにします。
なお、原資料ですから当然のことながら北朝鮮の公式的な言明です。
ですからこのブログの読者の中には、北朝鮮側の「主張」だけを紹介するのかと思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、米国政府が、少なくともオバマ政権発足以降、朝鮮半島問題について包括的かつ公式に表明した文書にはめぐり合っていませんので、ここは比較対照のしようがありませんから、仕方ありません。
また、それよりなにより、北朝鮮が、いま、どのような主張を持ち、どこに立っているのかを過不足なく知ることは、金正日総書記の訪中を注視するとき、あるいは、その後の「展開」を考える際にも欠かせないと考えます。
そこで、以下に4つの原資料を転記、掲載します。
いずれも朝鮮中央通信=平壌―朝鮮通信=東京によるものです。
まず、1月11日付の朝鮮外務省の声明です。
「朝鮮半島の非核化プロセスが重大な挑戦にぶつかって岐路に立たされている中、年が明けた。
朝鮮半島の非核化は、東北アジアの平和と安全、世界の非核化の実現に貢献するため共和国政府が終始一貫して堅持してきた政策的目標である。
共和国政府の誠意ある真しな努力によって1990年代から朝鮮半島の非核化に向けた対話が行われ、その過程に『朝米基本合意文』と9.19共同声明のような重要な双務的および各国間合意が採択された。
しかし、それらすべての合意は、履行が中途半端になったり、丸ごと覆された。その期間に、朝鮮半島で核の脅威は減少したのではなく、かえって増大し、従って核抑止力まで生じるようになった。
挫折と失敗を重ねた6者会談の過程は、当事者間の信頼を抜きにしてはいつになっても問題が解決されないことを示している。現在も、6者会談は反共和国制裁という不信の障壁によって隔てられ、開かれていない。
朝鮮半島の非核化プロセスを再び軌道に乗せるには、核問題の基本当事者である朝米間の信頼醸成に優先的な注目を払わなければならないというのが、われわれの到達した結論である。
朝米間に信頼を醸成するためには、敵対関係の根源である戦争状態を終息させるための平和協定がまず締結されるべきであろう。
当事者が互いに銃口を向けている交戦状態からは、いつになっても相手に対する不信をなくすことができないし、非核化はおろか会談自体が順調に推進され得ない。戦争と平和という本質的で根源的な問題を抜きにしたどのような合意も、これまでと同じ挫折と失敗の運命を免れない。
そもそも平和協定は核問題と関係なく、それ自体の固有の必要性から以前に締結されるべきであった。朝鮮半島に既に恒久平和体制が樹立されていたなら、核問題も生じなかったであろう。
9.19共同声明にも平和協定を締結することに関する問題が言及されている状況から、その行動順序をこれまでの6者会談が失敗した教訓に照らし、実践的要求に合わせて前倒しにすればいいであろう。
平和協定が締結されれば、朝米の敵対関係を解消し、朝鮮半島の非核化を速い速度で積極的に推し進めることになるであろう。
朝鮮民主主義人民共和国外務省は委任により、朝鮮戦争勃発60年になる今年に停戦協定を平和協定に替えるための会談を速やかに始めることを停戦協定の各当事国に丁重に提案する。
平和協定締結のための会談は、9.19共同声明に明記されている通りに、別途に行われることもでき、その性格と意義から見て現在進行中の朝米会談のように朝鮮半島の非核化のための6者会談の枠内で行われることもできる。
制裁という差別と不信の障壁が除去されれば、6者会談そのものも直ちに開かれるであろう。
停戦協定の当事国が朝鮮半島の平和と安全、非核化を心から望むなら、これ以上自国の利益を優先視して時間を滞らせずに、大胆に根源的問題に手を付ける勇断を下すべきであろう。」
次に、この「声明」を受けた形で1月18日に発表された朝鮮外務省スポークスマンの談話です。
「われわれの平和協定締結の提案は9.19共同声明を全面的に、完全に履行できる合理的な方途である。
共同声明が履行されるには、この声明の生命である相互尊重と平等の精神が棄損されてはならず、行動の順序を歪曲することがあってはならない。共同声明には、非核化と関係正常化、エネルギー補償、平和体制樹立の問題が『調和を取って』実現されなければならないと明示されている。非核化が進ちょくしてこそ、平和体制樹立の問題を議論できるという合意事項はなく、専ら『公約対公約』『行動対行動』の原則だけが共同声明の唯一の実践の原則として明示されている。
われわれは、米国側の事情を考慮して、6者会談で平和協定締結の論議に先立って非核化の論議を優先させる雅量ある努力を6年以上傾けてきた。2008年に国際社会は寧辺核施設の冷却塔が爆破されるシーンを目撃した。米国がわが国に対する敵性国貿易法の適用を中止し、『テロ支援国』リストから削除するほど、非核化プロセスは実質的な進展を遂げていた。
にもかかわらず、平和協定締結の論議は開始すらされず、結果的に非核化プロセスは逆転してしまった。平和体制の論議に先立って非核化を進める方式は、失敗に終わったのである。信頼なくして非核化を推し進めるというのは、基礎なしに家を建てるのと同じであることを実践の経験が示した。
われわれは6者会談に反対せず、それを遅延させる何の理由もない。
参加国の間に信頼がなかったため、平和的衛星の打ち上げまで問題視することが生じた。信頼のある国同士は、衛星の打ち上げを問題視したことが一度もない。衛星の打ち上げを差別的に問題視した甚だしい自主権侵害は、核実験という自衛的対応を生み、それに伴った制裁はまた、6者会談の破たんを招くような不信の悪循環が生じた。
このような不信の悪循環を断ち、信頼を醸成して非核化をさらに推し進めようとするのが、われわれの平和協定締結の提案の趣旨である。各当事国が平和協定締結のための交渉に臨み、対座するだけでも信頼の出発点はつくられるであろう。
6者会談が再開されるには、会談を破たんさせた原因がどんな方法であれ解消されなければならない。数十年間の封鎖と制裁に慣れているわれわれに、今回の制裁は特別に事新しいものではない。しかし、われわれが制裁の帽子をかぶったまま6者会談に臨むなら、その会談は9.19共同声明に明示されている平等な会談ではなく、『被告』と『判事』の会談になってしまう。これは、われわれの自尊心が絶対に許さない。自主権を引き続き侵害されながら自主権を侵害する国々と向き合って、まさにその自主権守護のために保有した抑止力について議論するというのは話にならない。
われわれは、各当事国が経験と教訓に基づいているわれわれの現実的な提案を受け入れるよう説得するための努力を引き続き真摯に傾けていくであろう。」
相前後しますが、1月16日付「民主朝鮮」紙の「朝米関係の根源的問題に手を付ける時が来た」と題する論説です。
「既報のように、去る11日、朝鮮民主主義人民共和国外務省は委任により、朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)60年になる今年に朝鮮停戦協定を平和協定に替えるための会談を速やかに始めることを停戦協定の各当事国に丁重に提案した。
これには、朝鮮半島の非核化を含め朝米関係の改善で提起されるすべての問題を円滑に解決することで、朝鮮半島とひいては世界の平和と安全のための頼もしい保証をもたらそうとするわが共和国政府の政策的立場が反映されている。
今回、わが共和国政府が朝米間の平和協定の締結に重大な意味を付与することになったのは、朝米関係の全過程の総括に基づいて一つの明白な結論に到達したことに関連する。
これまで、わが共和国政府が朝鮮半島の核問題を平和的に解決して朝米間の敵対関係を解消し、朝米関係を両国人民の共通の利益に合致するよう発展させるため献身的に努力してきたことは周知の事実である。
朝鮮半島の非核化問題を見ても、1994年10月21日に発表された「朝米基本合意文」をはじめ1993年6月11日の朝米共同声明、2000年10月12日の朝米共同コミュニケは、わが共和国政府が朝米間の核問題を解決して朝鮮半島で平和と安定を保障し、米国との敵対関係を解消するためどれほど真摯に努力してきたのかを歴史的に実証している。
しかし、残念なことに朝米間に合意された問題は日の目を見ないし、朝米間の敵対関係は歴史の解決を待つ政治的な未解決の事案として残って国際社会の一様な憂慮をかき立てている。悪化の一途をたどってきた朝米関係は、わが共和国に対する核の脅威の増大を招き、こんにちに至っては核抑止力まで生じさせた。
事態をこれほどまでに追い込んだ全責任は米国にある。
米国は、わが共和国の自主権尊重と関係改善の意志を約束しておきながらも、色眼鏡でわが共和国を見たし、ブッシュ政府の出現以降は露骨な対朝鮮敵視政策実現の道に進んだ。米国大統領が自身の政策的立場を公式に表明する席上、わが共和国を『悪の枢軸』であると名指しで暴言を吐き、『核態勢見直し報告』(NPR)でわが国を「『先制攻撃の対象』に含めた事実は、朝鮮に対する米国の敵意がどれほど根深いものであるのかを世界にそのまま実証した。
米国がわが共和国と絶対に共存せず、あくまで圧殺しようとする敵意を抱いている状況で、朝米関係が解決されないことは誰の目にも明白である。
今まで朝鮮半島の核問題解決に向けて何度も6者会談が行われてきたが、挫折と失敗を重ねているのも、問題解決の直接的な当事者である米国がわが共和国に対する敵意を解消していないことから生じた必然的な結果であると見るべきであろう。
信頼なしには、6者会談が数百回開かれたところで得るものは何もないということは火を見るよりも明らかな事実である。
わが共和国が朝鮮半島の非核化プロセスに再び活力を吹き込むための先決措置として核問題の当事者である朝米間の信頼醸成に優先的な意義を付与した理由がまさしくここにある。朝米間に信頼関係が醸成されてこそ、相互関係問題が順調に解決される。
朝米間の信頼関係醸成で朝鮮停戦協定を平和協定に替えることよりも効果的で建設的な代案はない。
現在、朝鮮と米国は軍事境界線を挟んで銃口を向けた交戦状態にある。対話の当事者が互いに刀を持って握手するというのは話にもならないし、たとえ握手したとしてもそれは一つの見せ掛けにすぎない。真に和解し、関係を改善するには、対話の相手が互いに信頼できるよう刀を捨てるべきである。
朝米が停戦協定を平和協定に替えれば、信頼醸成で根本的な革新が起き、懸案問題をめぐって虚心坦懐に意見を交換して合意点に到達する上でも良いし、朝鮮半島で平和と安定を実現する上でも決定的な突破口が開かれるであろう。
朝鮮半島の非核化を含め朝米関係問題をめぐって当事者はもとより、関係国は今まであまりにも長い間入り口で堂々巡りを繰り返してきた。わが国に虎穴に入らずんば虎子を得ずということわざがあるが、これは問題解決の入り口で堂々巡りせずに根本問題の解決に肉薄すべきであるということである。
非現実的な要求で時間を浪費してはならず、またそのような時も過ぎた。今は、誰もが朝鮮半島の平和と安全、非核化のために根源的問題に手を付けることにより、朝米敵対関係の清算で決定的な突破口を開くべき時である。
朝鮮半島に強固な平和保障体系を樹立することで、朝鮮半島の非核化の実現に有利な条件を整え、地域の平和と安定を成し遂げていこうとするわが共和国政府の真摯な努力は広範な国際社会の支持を得るであろう。」
さらに、「6者会談再開には朝米信頼醸成が急務」とする1月26日付の「民主朝鮮」紙の論説です。
「挫折と失敗を繰り返し6年間も行われてきた6者会談は、関係各国と国際社会に深刻な教訓を与えている。
現在までの6者会談の過程を総括してみれば、関係各国が非核化問題を論議したが、このような方式ではいつまでも問題が解決されないし、たとえ6者会談が再開されるとしても得るものは何もないということを示した。
朝鮮半島の非核化は商取引ではない。
全朝鮮半島の非核化を実現するには、問題発生の根源から解消すべきであるというのがわが共和国の原則的な立場である。
すべての問題には原因と結果があるものである。核問題もそれを生じさせた歴史的な原因が存在する。
1953年に朝鮮で停戦が実現し、朝鮮停戦協定が締結されたが、米国はわが共和国に対する敵対意思を捨てなかったし、朝鮮に対する軍事的威嚇と侵略企図を片時も中断しなかった。米国によって朝鮮半島の情勢を安定させ、平和を保障するための朝鮮停戦協定の諸条項が有名無実なものとなり、わが共和国がその生存のための決定的な手段を整えなければならない極端な状況まで生じた。
現実は、信頼が醸成されてこそ非核化問題はもちろん、そのほかの問題も解決されるということを示している。
朝米間に平和協定を締結し、信頼関係が醸成されれば、朝鮮半島に平和を保障する制度的装置がもたらされて戦争勃発の危険性も除去され、非核化の実現に向けた良い雰囲気がつくられるなど、すべての問題が順調に解決されるであろう。
関係各国にとって、まず絡まったもつれを解いて提起される問題を一つ一つ順次解決していくことがより実利的であろう。
6者会談参加国がどんな場合にも犯してはならない絶対禁物がある。6者会談は、主権国家が平等な資格で一堂に会して提起される問題の解決方途を模索する場であるだけに、会談の相手側の自主権をじゅうりんするような行為が絶対に許されてはならない。6者会談が再開されるには、会談を破たんさせた原因がどんな方法であれ、解消されなければならない。われわれが制裁の帽子をかぶったまま6者会談に臨むなら、その会談は9.19共同声明に明示されている平等な会談ではなく、『被告』と『判事』の会談になってしまう。
6者会談に参加して非核化問題を討議しようと一方的な要求を提起するのは、常識以下の無礼な妄動である。
何が問題の根源であるのかを見分け、その解決のための雰囲気づくりに努めるべきであろう。」
重ねてですが、これらは北朝鮮側の主張の原資料です。
評価や意見はさざまに分かれるかもしれません。
しかし、北朝鮮が何をどう考えているのか、それを深く知ることからはじめない限り、現在の状況を動かすことはおぼつかないというべきです。
普段、各メディアがそれぞれのスタンスから一部をピックアップして伝えることはあっても、こうしたオリジナルの形で読む機会はそれほど多くないと思います。
状況の的確な把握と情勢分析には原資料を読み込むことが、まず第一歩ということになります。
その意味で、金正日総書記の訪中がその後の事態の展開にどのような意味を持つのかを考える上で、熟読、吟味してみるべき重要かつ有用な資料だと考えます。
もうひとつ、最近の報道の中から中朝間の経済面の協力、連携事業の「動き」についてメモしておきます。
(「日経」2月26日による)
○中国丹東市と北朝鮮新義州市を結ぶ橋の新設
○新義州の島を「経済特区」とし、中国企業を誘致
○北朝鮮が国境沿いの島などの開発権を中国企業に付与
○中国琿春市と北朝鮮羅先市を結ぶ橋の補修・建設や道路整備
○北朝鮮が平壌や開城などを外資に開放、中国企業が参入
金正日総書記の訪中によって中朝間の「実務」的な関係がどうなるのか、これも同時に、「その後」を見る際の重要な指標になることは間違いありません。
その意味でも、要注目!です。
(つづく)
2010年05月03日
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