4月も一週間が過ぎました。
3月末から固唾をのんで毎日のニュースを注視していたのですが、結局「あの報道」はなんだったのだろうかと思う毎日が過ぎました。もちろん、今のいまも、突然のニュースが飛び込んでくるのかもしれませんが、しかし・・・です。
「あの報道」とは「金総書記訪中へ 非公式 今月後半で調整」という見出しが躍った毎日新聞3月3日(水)朝刊のスクープをはじめ、その後いくつかのメディアでも伝えられた一連の金正日総書記の訪中観測記事です。
3月末までに「訪中」がなかったためか、次には、4月はじめにという観測が流され、先遣隊が中国に入ったという「情報」まで伝えられました。
金正日総書記の訪中があるとすれば中国の党、政府首脳との会見、会談が必須となるので、外国訪問が予定されていた習近平副主席の「日程」についての「質問」を中国外交部関係者に「当てて」探るという取材努力までしたあげく、金総書記の訪中観測をにべもなく「否定」されるなど、さまざまな「曲折」をへて、結局、大山鳴動して・・・の類に終わったというところです。
ただし、今のところ、と注釈をつけておかなければなりません。
朝日新聞は4月1日の朝刊で「韓国大統領府報道官は31日の記者会見で、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中について『(近く実現する)可能性が高いとみて、鋭意注視している』と語った。北朝鮮は4月9日に国会にあたる最高人民会議の開催を予定しており、それまでの訪中の可能性を念頭に置いた発言とみられる。」と伝えています。
ただし、この記事では、末尾に「一方で、北朝鮮核問題の停滞や金総書記の健康問題などを理由に、訪中を疑問視する見方も依然残っている。」とそれまでの記述をちゃんと?打ち消す一行も加えるという、なんともややこしい記事になっていました。
で、8日の今日に至ると、この観測記事はもうハズレた、というべきですから皮肉なことに「訪中を疑問視する見方も依然残っている」という一行の方が正しかったというわけです。
ところが、今現在、Web掲載のみで紙面(私がチェックしているのは、「朝日」の場合は、朝刊は14版、夕刊は4版です)では見当たらないという不思議さは残しつつですが、ご丁寧にも続報として「韓国の情報機関・国家情報院の元世勲(ウォン・セフン)院長は6日、国会情報委員会で証言し、北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中時期について『(最高人民会議が開かれる)9日以前に行かないのであれば、12日に胡錦濤(フー・チンタオ)中国国家主席の外遊日程もあり、4月末になるだろう』と述べた。『25日から28日までの間とみることもできるのではないか』とも語った。同委に出席した国会議員が明らかにした。」(web版2010年4月7日3時0分)とフォローしています。
なにがなんだかわからなくなりますが、ということは、この報道に従うかぎり、少し日延べとなっているという程度のことなのかもしれません??
また、「非公式」訪中というわけですから、中朝両国の情報管理が行き届いていて?!実は金総書記はすでに訪中しているが、メディアにはキャッチできていないということも皆無とはいえないのかもしれません・・・??
しかし、常識的に考えると、一連の「金総書記訪中観測報道」はガセだった!というべきです。
もちろん、メディアの報道の揚げ足取りをするためにこれを書いているのではありません。血のにじむようなあるいは地を這うような取材の積み重ねを要求される「現場」の努力を一切顧みず、いわば安全地帯からあれこれあげつらうというような態度をとるつもりは、少なくとも、私には、ありません。
しかし、先月から、この動向を、まさに固唾をのむ思いで見つめていたのは私一人ではなかったと思うだけに、今回の一連の「北朝鮮報道」について、厳しい検証がなされてしかるべきだと考えます。
一体何がガセだったのか?!なぜガセになってしまったのか、スクープが嘘報だったのはなぜなのか?!どこにその原因があったのかを突き止めることができるのは伝えた記者本人であるはずです。
ことほど左様に「北朝鮮情報」といわれるものがいい加減で危ういということでは、我々がメディアの報道などをもとに何も判断できない、考えられないということになりますし、何を書いても「書き得!」、あとは野となれ山となれでは、ジャーナリズムの名に恥じる、もっとも唾棄すべきところにメディア自らが堕していくことになりかねないというべきです。
一連の報道に実のある検証がなされることを切に期待しておきたいと思います。
と、朝からここまで書いてきたところに朝刊が届きました。
「朝日」一面の「北朝鮮『6者』前向き 予備会合支持、米は慎重」という見出しに目が釘付けになりました。
ソウル発のこの記事では「北朝鮮が3月下旬に、核問題をめぐる6者協議の予備会合開催を呼びかけた中国提案への支持を表明していたことが分かった。」と伝えています。そして「米国が日韓など関係国に説明した内容を、協議筋が明らかにした」とソースも示しています。
「これを受け、米国も北朝鮮の高官の訪米に向けた調整などを始めたが、直後に起きた韓国哨戒艦沈没の影響などで慎重姿勢に転じ、予備会合の開催は固まっていない。」ともしています。
ただし、記事の中で北朝鮮が「中国提案への支持を表明していた」と表現しているところと「哨戒艦の沈没」とからんで米国が「慎重姿勢に転じ」としていることに、わたしはなんともいえない違和感を抱いたのでしたが・・・。
この「違和感」についてだけでも、何ページもの紙幅を費やして書くべき問題だと思うのですが、今回はそのために書き始めたわけではないので、簡単に2点だけメモするにとどめます。(なお、不思議なことに朝刊一面記事であるにもかかわらず、いまのところWebには掲載されていません。先ほどの、金総書記の訪中観測の「フォロー」記事とは逆のケースとなっています。)
1.北朝鮮は予備会合の当事者であって、中国提案への「支持」を表明する立場ではなく、それに「合意」あるいは「同意」するのかしないのかというべきです。支持を表明するというときは中国が北朝鮮の態度にというべきで、一見言葉尻をうんぬんしているように見えるかもしれませんが、この情報への違和感をぬぐえません。
2.米国が「慎重姿勢に転じた」理由にふれて、韓国の哨戒艦沈没と北朝鮮のかかわりを何気なく匂わせるというトーンには、記者が韓国の「協議筋」と記している情報源による情報操作の色合いがにじみ出ているというべきで、この情報を漏らした目的に「不純」なものを否定できないというべきです。
さしあたりはこの2点についてはきちんと検証されなければならないといえます。
特に後者については、今回の哨戒艦沈没にかかわってさまざまな「不手際」が重なったことから、窮地に立った李明博政権の「情報操作」がとりざたされている状況で、沈没と北朝鮮のかかわりを、あるでもなくないでもないという曖昧さの中に落とし込んでおきたいという「見えざる意図」が強く働いていることを見落とすわけにはいかないと思います。
わたしが接する韓国の人々の見方、感じ方からもこのことを強く感じます。さらにいえば、今回の哨戒艦沈没の原因は「単純であるがゆえに、より深刻だ」という観測もあります。
北朝鮮にかかわる情報操作については、まさに魑魅魍魎というべき、ほの暗い世界が無限に広がっていることを知っておかなければならないと感じます。
さて、金総書記の訪中問題に戻るならば、なぜ固唾をのんでニュースを注視していたのかといえば、まさにこの「6者協議」の行方を見定める上で決定的というか、無視できない重要性を帯びているからです。
そこで、今回の「金総書記訪中」報道とかかわって、実はもっと大きな、注目すべき「スクープ」があったことを思い出さなければなりません。
「金総書記の訪中観測」にさかのぼる2月23日(火)の「朝日新聞」朝刊一面トップを飾った「改革開放 世襲反対 核放棄 中国、北朝鮮に圧力 昨春の核実験直後」という見出しの大スクープ記事です。
二面に続く解説記事では「『北朝鮮の経済体制は全面的に崩壊しつつあり、警戒する必要がある』中国共産党上層部は昨年12月16日、北京で政府系研究機関の研究者や当局者を集めた内部検討会議を開き、悪化する北朝鮮の経済状況を集中的に議論した。」というくだりにつづけて、北朝鮮のいわゆるデノミネーションの失敗や金総書記の三男ジョンウン氏への権力継承問題さらには1月に北朝鮮が発表した「国家開発銀行」の設立と外資導入問題にふれて書いています。
この国家開発銀行については「中国の北朝鮮大使館で経済を担当する外交官が、人民日報系の国際情報紙・環球時報の取材を受けて詳細に説明している。」として、その説明では「経済開放を本格的に始める第一歩で、核問題を含めた安全保障の解決にもつながる」としていると書いています。
しかし、続けて「ただ、こうした北朝鮮当局の主張に対し中国内には懐疑的な見方がある。中国共産党の対北朝鮮政策のブレーンの1人、張l瑰・中央党校国際戦略研究所教授は、北朝鮮が本気で開放政策を導入するのではなく、国連安保理の制裁で不足した外貨を一時的に補うのが目的だとみる。」として張教授は「北朝鮮の安全を保障するのは核兵器ではない。改革開放によって自国の経済を発展させることで、国民の支持を得ることだけだ」と批判している、と記事を締めくくっています。
二面の見出しだけを拾ってみると「中朝ひそかな攻防」「核放棄・改革開放の圧力」「中国6者維持へ策」「石油止め復帰促す」「本心見えぬ北朝鮮」「『装った開放』の懸念」というものです。
正直なところこの記事には驚きました。
何に驚いたのかというと、中国が圧力をかけているということにではなく(それで北朝鮮が動くかどうか、もっと率直に言うと、従うかどうかは別にして、「圧力を加える」ことは想像の範囲ですから驚きはしません)この記事に、中国の北朝鮮関係の研究者それも「対北朝鮮政策のブレーンの1人」とされる人物が実名で登場していることにでした。
昨年2月、北朝鮮情報を「漏えい」したとして日本でもよく名前の知られている研究者が身柄を拘束されたという情報が流れました。もちろん確認されたものではありませんが、この情報は中国が北朝鮮情報の扱いについて少なからずセンシティブになっていることを示したものとして注目されました。
私のつきあいのある中国人研究者は、情報を漏らしたのはこの人物ではないといったのでしたが、何らかの形で北朝鮮情報が洩れたということは事実でありそれに対して中国当局が厳しく調査していることはうかがえました。
また、北朝鮮情報を知りうる専門家、研究者は党の許しなしに党外の人物に北朝鮮問題について語ることは厳しく規制されているともいわれていました。
したがって、こうした記事に、しかも単なる北朝鮮関連記事というレベルを超えて、政権の継承問題や核開発問題で中国が北朝鮮に対して圧力をかけていると伝える詳細な記事の中に、北朝鮮の実情と真意は・・・という形で、中国共産党中央党校の研究機関の教授が実名でコメントするというのは異例のことであり、常識的に考えればなんらかの「お墨付き」がなければ勝手にはできない「わざ」だというべきでしょう。となるとこの記事が書かれた背景は一体なんだろうかということを考えざるをえなくなります。
さて、ここまで長々と書いてきたのは、いま書き続けているこのブログ記事に登場する韓国のオールドジャーナリストとの「対話」で、氏が、南北関係、北朝鮮の動向について、「李明博政権では動かすことができない。オバマ政権の現状を見ると米国も朝鮮半島問題に力を傾ける余裕などなく政権維持で精いっぱいだ。カギは一にかかって中国にある!」と鋭く断じたことに深くかかわるからです。
かつて韓国を代表する新聞の外信部に身を置き、責任ある立場で仕事を重ねたこのオールドジャーナリストは、俗にいわれるような、北朝鮮に影響力を持っているのは中国だ・・・といったレベルで語ったのではありませんでした。
もっと深く朝鮮半島の動向を洞察して、いま動きのとれない米国とまさに存在感を大きくする一方の中国という世界史的な構図の中で、北東アジアと朝鮮半島問題での中国の存在の重さとそれが果たすであろう「役割」さらにはそこで中国がめざすであろう「方向性」(意図)と選択肢について、深く考察、分析することこそが今後の北朝鮮情勢を判断するうえで不可欠になっているという、きわめて含むところの大きい、あるいは重い、示唆について語っているのでした。
金正日総書記の訪中問題とは、実は、この問題設定への「解」がほの見えてくるということであり、それゆえに固唾をのんで注視しているというわけです。
少し飛躍していうならば、北朝鮮と朝鮮半島問題への中国の決断とはどのようなものなのか、また北朝鮮はそれに対してどのような対策あるいは決断をもって向き合うのか、要はここに集約される問題が、多分、かなりの確率で見えてくるだろうと思うのです。
もちろんその際のアクターの一人は米国であることはいうまでもありません。朝、中、米と、中国を中にはさむ国際政治の「ゲーム」が見えないところで熾烈に戦われ、展開されているということ、そしてその方向性がそれほど時をおかず見えてくるということだろうと思います。
さて、残念ながら、この構図のなかでは韓国もそして日本もリアクターではあってもアクターではない、という実は深刻な問題が横たわっているというべきです。
韓国のオールドジャーナリストとの対話に読み取るべきことはそのことでもあると痛感したのでした。
さてそれにしても、メディアの伝える北朝鮮情報の危うさ、不確かさをのりこえる真剣な努力がなされないと、「リアクターからアクターへ」などと考えてみても、一歩たりとも踏み出せないことを、いま私たちは肝に銘ずるべきだと考えます。
その上で、朝、中、米の「ゲーム」の構図を真剣に見据えるならば問題の所在あるいは争点はもう明確に絞られているというべきです。
メディアが決まり文句のようにいう「米朝の溝は広くて深い」というような評論家然とした言説で事足れりというものではなく、なすべきことは明らかというべきです。
北朝鮮の主張への賛否や好悪をあれこれいうのではなく、問題は、北朝鮮の主張が何であり、米国が主張するのは何かというところを見据え論点のありかを明確にすれば、何をどうしようとも動かせないものは動かせないということがわかってくるのです。逆にいえば、何をどうすることで事態は動くのかがはっきりするというわけです。
そのためには北朝鮮が何を主張しているのかを冷静に見極める必要があります。
近いところでいうと、ひとつには朝鮮中央通信が3月16日付で報じた「備忘録」がありますし、もうひとつは3月末にバンコクで開かれたIPU列国議会同盟第122回総会での朝鮮最高人民会議代表団団長の洪善玉最高人民会議副議長の演説があります。
この演説で洪善玉副議長は「現在、朝鮮半島と地域の平和と安全保障で提起される根本の問題は朝米の敵対関係を終息させることである」として「米国の持続的な核の脅威に対処して自国の自主権と生存権の守護を目的にやむを得ず核の保有を選ばなければならなかったわれわれにとって、平和と安全保障問題は死活の問題として提起されている」「深い不信が根付く朝米の敵対関係を終息させる活路は、朝米間に平和協定を締結し、互いの信頼を築くところにある。6者会談が停滞しているのもまさしく、朝米間に信頼がないためである。」と述べています。
また、「備忘録」では3月に行われた米韓共同の軍事演習「キー・リゾルブ、フォールイーグル」を非難するとともに「米国の現民主党政府は、就任前から対朝鮮政策で『変化』を提唱した。しかし、それは虚構にすぎなかった。」「昨年、米国が非核化のための会談再開を請託し続けるので、まず朝米会談を行ってみて米国が朝鮮を圧殺しようとする意図を改めたのか確かめた後、多者会談にも臨む意向を明らかにする『最大の雅量』を示した」「新年には、平和協定締結で戦争状態に終止符を打ち、信頼を築いて非核化をはじめ朝米間の諸問題の解決を前進させることに関する提案も打ち出した。しかし、米国は合同軍事演習で核の脅威を極大化し、朝鮮大豊国際投資グループと国家開発銀行の活動に嫉妬して経済制裁のさらなる強化に進んでいる」と米国を非難しています。
そして「戦争か平和かという最も根本的な問題を抜きにして、朝鮮半島問題のいかなる解決も期待できない。米国は、核問題の軍事的・政治的根源である朝米間の戦争状態、敵対関係を解消して信頼を築くための実質的な措置を講じなければならない」と主張しています。
繰り返していいますが、北朝鮮側の主張をそのままよしとするのかどうか、あるいは好悪の感情を抱くかどうかということが問題なのではなく、この指摘と主張がなされているという現実をふまえて、では何をどうすれば事態を動かすことができるのかということです。
少なくとも、6か国協議を重ねてきた結果、このままでは北朝鮮としてはもはや得るものは何もないと断じているわけで、もし事態を動かそうという意志があるなら、残されるのは、米朝の直接対話による「戦争状態の終結」という道しか選択肢はないということです。
もちろん戦争もまたやむなしということであれば別ですが、朝鮮半島のみならず北東アジアにおよぶ「災厄」の甚大さを考えれば、事実上、そのような選択肢はありえないことは明白です。
とするならば、事はすでに煮詰まったというべきです。そのために、米国、中国がどう動くのか、それがいま試されているというべきです。
現実主義ということばを、いまこそかみしめて考えてみなければならないと思うのです。
また、そのような選択によってこそ、北朝鮮が主張することが本当なのかどうか世界注視の場で試されることになるという意味で、本質的に厳しく北朝鮮に迫るという構図をもたらすものだということです。
韓国の李明博政権のいう「グランドバーゲン」なるものこそが、一見耳にここちよく響きながら実は現実離れした、ある種の「観念論」にすぎないことがわかってきます。
交渉や協議というものは相手があることだということを忘れ自己の好悪や賛否でしか物事を考えられないとき、アクターであることを降りなければなくなる、それが国際政治の「ゲーム」というものです。
もし相手が気に入らないのなら、本質的に相手を追いつめるということはどういうことなのかという現実的な判断ができなければ勝負にならないというべきでしょう。
重ねていいます。この北東アジアで、またふたたびの戦争をしようというのなら別の選択肢があるかもしれないが、そうでないのであればとるべき選択は自ずとあきらかだというべきでしょう。
メディアもまたこのことを率直かつ正直に語らなければならないと思います。
すでに問題の所在は煮詰まり、動かし難く明白になっているということを直視すべきです。
2010年04月08日
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