2010年03月06日

「時々日録」の長き「不在」から、いま語るべきこと・・・@


  年明け以来、長くこのコラムを休んでしまいました。
 この間、何人もの方々から、どうなっているのかというお問い合わせをいただきました。
 また、お会いする機会のあった方からも、体調でも崩しているのかと尋ねられることもありました。
 ご心配をおかけしたことをまず深くお詫びします。

 研究会や会合などで忙しく過ごしていたことは確かですが、体調を崩すこともなく、ひたすら駆けずりまわっていましたので「長き不在」のわけは、なんらかの不具合があったということではありません。
 むしろ、書かなければならないと思うことは積もり積もっていたというべきです。

 しかし、またもやというべきか、こうして語り、メッセージを発して言説を重ねることの意味をひたすら考える日々となっていました。

 「理論は灰色だ、現実は緑なす樹だ」と言ったのは、革命家にして理論家であるレーニンだったと記憶しています。

 47巻にも及ぶ全集の並ぶ書棚を見るだけでも圧倒される膨大な論文を書き、論を重ねたレーニンが言うのですから、この一節の意味するところは実に重いと思ったことがあります。

 私たちの言説が、ただ現象や事象についてあれこれの解釈をしてみせたり「おしゃべり」するだけのものであってはならないという強い思いに、ただただ立ち尽くす日々を重ねていたのでした。

 何かを語ろうとする際、ここで言う「立ち尽くす思い」をどうのりこえていくのか、私にとって重い命題としてあり続けています。

 とりわけ中国や朝鮮半島を中心とする北東アジアを見つめ、その動きと向き合って立つ時、こうした思いは一層重くのしかかってくるのでした。

 また、私自身が長く身を置いてきたメディアのありようを見据え、考える時、単なる批評や評論ではなく、どのようにしてその「現実」を変えるのか、どのようにしてそのための実体ある力としていくのかを自身に問いかけることなく、何かを語ることに、深く逡巡する思いが募るのでした。

 そんな思いを抱えながら、先週末から慌ただしくですが、韓国・ソウルを訪ねて戻りました。
 
 ちょうど一年ぶりの韓国は、バンクーバーオリンピックのフィギュアで金メダルを獲得したキム・ヨナ選手の活躍に国中が沸き、李明博大統領が就任から2年、そして三・一独立運動の記念日「三・一節」を迎える時でした。

 大先達というべきオールドジャーナリストにお会いして、韓国の現在について時間をかけて話を聴くとともに、時間の足りない分はこれらを読み込むようにと準備してくださった新聞や雑誌の記事、そのほかの論考などの資料をいただいて戻りました。
 帰国してすぐ、まず経済にかかわる資料を翻訳して読み込んでみました。

 そこからは「韓国経済のV字型回復」の虚構性が垣間見えてきます。また、6月の地方選挙の行方、そして与党ハンナラ党が分裂するかどうかが、韓国の行方を占う当面の焦点だと語る、先達のジャーナリストのことばが重みを持って迫ってきます。

 コラムの「長き不在」を破って、そうした「現場」からのレポートを書くべく手を動かしはじめたのですが、ちょうどその時、重要な「呼びかけ」を受け取りました。
 まずはそのことから記しておかなければならないと考え、内容を変更してこれを書いている次第です。

 それは、高校無償化法案と朝鮮学校の問題です。

 韓国に出かける直前、この問題がニュースで伝えられました。
 結論からいうと、首相就任に際して「東アジア共同体」などというものを掲げた鳩山由紀夫という人は一体どういう思考構造を持っているのだろうかと驚くとともに、政権交代とは一体何だったのだろうかと、改めて考えさせられたのでした。

 以下は「高校無償化法案」をめぐって、記者がメモした、先月25日夕刻の鳩山首相との「ぶらさがり」の一問一答です。

―中井洽・国家公安委員長が朝鮮学校は支給対象外とするように要請しているが、総理の見解はどうか。

 「これはいま調整、最後の調整しているところと承っていますが、これはやはり、朝鮮学校の方々のどういう、いわゆる指導内容とかね、どういうことを教えておられるのかというようなことが必ずしも見えない中で、私はやはり中井大臣の考え方というのは一つ案だと考えております」

 ―具体的な対象についての総理の考えは。

 「方向性として、そのような方向性になりそうだというふうには伺っていますが、最後の調整だと思います」


 「最後の調整しているところと承っていますが・・・」「そのような方向性になりそうだというふうには伺っていますが・・・」などと、これが総理という立場にいる人間の言だろうかと唖然とするのは置くとしても、見識というものを感じることのできないこの「一問一答」はなんだろうと言葉を失いました。

 すでに報じられているように、今回の「高校無償化法案」の骨子は2010年度から、
(1)公立高校の授業料をとらない
(2)私立高校生には公立高校授業料と同等額の年約12万円を助成する
というものです。

 そして、国会での審議入りを前に、中井洽・拉致担当相が、在日朝鮮人の生徒ら(朝鮮籍、韓国籍の生徒がいます)が通う各地の朝鮮学校を対象にすることについて「制裁をしている国の国民だから、十分考えてほしい」と川端達夫文部科学相に要請したことで、朝鮮学校を対象とするのかどうかが論点の一つに浮上したものです。

 鳩山首相の記者との一問一答を目にすると(私は「ぶらさがり」の現場にいたわけではありませんが、多分このメモにあるとおりなのだろうと思います)彼の掲げる「東アジア共同体」などというものになんらの哲学も思想もなく、そして歴史意識のかけらもなく語られていたことが白日の下に曝されてしまったというべきですが、そんなことをあれこれ論評してみたところで、それこそなんの力にもなりませんので、今は、やめておきます。

 そこで、冒頭に書いた、私が受けとった「呼びかけ」と「共同要請」の本文を以下に記すことにします。


「共同要請」への賛同のお願い

私たちはこの間、外国籍の子どもたちの学習権を保障するためのさまざまな取り組みを行なってきました。そして昨年9月誕生した新政権に対しても、朝鮮学校や韓国学校、中華学校、ブラジル学校、ペルー学校など200校以上になるすべての外国人学校の処遇改善を求めてきました。
新政権が「高校無償化」制度を提起し、その中に外国人学校を対象としたことは、画期的なことです。しかし、朝鮮学校だけこの制度から除外しようとすることは、憲法および国際人権諸条約に違反するものであり、朝鮮学校に通う子どもたちの心を踏みにじるものです。
この共同要請書に、多くのNGO・市民団体・労組・諸団体および個人に名前を連らねてもらい、3月11日、政府に提出すると共に、海外の人権団体などに送付します。

要請書に賛同される団体・個人は、3月10日正午までに、団体名か個人名を、英語表記を併記して、下記のEメールアドレスまでお知らせください。
 school@econ-web.net(外国人学校ネット)
○また、賛同された団体は、各団体のウェブやMLで、この共同要請を広く発信していってください。

<呼びかけ>
外国人学校・民族学校の制度的保障を実現するネットワーク(代表:田中 宏)
〒169-0051 東京都新宿区西早稲田2−3−18−52 在日韓国人問題研究所
電話03-3203-7575(佐藤)
〒160-0023 東京都新宿区西新宿7−5−3 斎藤ビル4階 みどり共同法律事務所
電話03-5925-2831(張)
〒657-0064 神戸市灘区山田町3−1−1 神戸学生青年センター
電話078-851-2760(飛田)

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内閣総理大臣 鳩山由紀夫 様
文部科学大臣 川端 達夫 様

<NGOと市民の共同要請>

私たちは朝鮮学校を「高校無償化」制度の対象とすることを求めます。
 私たちは、多民族・多文化社会の中ですべての子どもたに学ぶ権利の保障を求めて活動するNGOであり市民です。
 新政権のかかげる「高校無償化」制度においては、政権発足当初より各種学校である外国人学校についてもその範囲に含むことが念頭におかれ、昨秋、文部科学省が財務省に提出した概算要求でも朝鮮学校などの外国人学校を含めて試算されていました。
 ところが今年2月、法案の国会審議を目前にしたこの時期、新聞各紙では「中井拉致問題担当相が、4月から実施予定の高校無償化に関し、在日朝鮮人の子女が学ぶ朝鮮学校を対象から外すよう川端達夫文部科学相に要請、川端氏ら文科省の政務三役が検討に入った」(2月21日)、「鳩山首相は25日、高校無償化で、中井洽拉致問題担当相が朝鮮学校を対象から外すよう求めていることについて『ひとつの案だ。そういう方向性になりそうだと聞いている』と述べ、除外する方向で最終調整していることを明らかにした」(2月26日)と報道されています。しかし、日本人拉致問題という外交問題解決の手段として、この問題とはまったく無関係である日本に生まれ育った在日三世・四世の子どもたちの学習権を「人質」にすることは、まったく不合理であり、日本政府による在日コリアンの子どもたちへの差別、いじめです。このようなことは、とうてい許されることではありません。

 朝鮮学校排除の理由として「教育内容を確認しがたい」との説明もなされていますが、これは、『産経新聞』2月23日付けの社説「朝鮮学校無償化排除へ知恵を絞れ」にも見られるように、朝鮮学校排除のために追加された名目にすぎません。
 朝鮮学校は地方自治体からの各種学校認可や助成金手続きの際、すでにカリキュラムを提出していることからも、「確認しがたい」との説明はまったく事実に反します。また、日本のほぼすべての大学が朝鮮高級学校卒業生の受験資格を認めており、実際に多くの生徒が国公立・私立大学に現役で進学している事実からも、朝鮮
高級学校が、学校教育法第1条が定める日本の高等学校(以下「1条校」という)と比べても遜色ない教育課程を有していることを証明しています。

 そもそも、1998年2月と2008年3月の日本弁護士連合会の勧告書が指摘しているとおり、民族的マイノリティがその居住国で自らの文化を継承し言語を同じマイノリティの人びととともに使用する権利は、日本が批准している自由権規約(第27条)や子どもの権利条約(第30条)において保障されています。また、人種差別撤廃条約などの国際条約はもとより、日本国憲法第26条1項(教育を受ける権利)および第14条1項(平等権)の各規定から、朝鮮学校に通う子どもたちに学習権(普通教育を受ける権利、マイノリティが自らの言語と文化を学ぶ権利)が保障されており、朝鮮学校に対して、日本の私立学校あるいは他の外国人学校と比べて差別的な取扱いを行なうことは、そこに学ぶ子どもたちの学習権・平等権の侵害であると言わざるを得ません。
 「高校無償化」制度の趣旨は、家庭の状況にかかわらず、すべての高校生が安心して勉学に打ち込める社会を築くこと、そのために家庭の教育費負担を軽減し、子どもの教育の機会均等を確保するところにあるはずです。

 朝鮮学校は、戦後直後に、日本の植民地支配下で民族の言葉を奪われた在日コリアンが子どもたちにその言葉を伝えるべく、極貧の生活の中から自力で立ち上げたものです。いま朝鮮学校に通う子どもたちには朝鮮籍のみならず、韓国籍、日本国籍の子どもたちも含まれており、日本の学校では保障できていない、民族の言葉と文化を学ぶ機会を提供しています。
 このような朝鮮学校に対して、1条校と区別するだけではなく、他の外国人学校とも区別して、「高校無償化」制度の対象から除外する取り扱いは、マイノリティとして民族の言葉・文化を学ぼうとする子どもたちから中等教育の場を奪うものであり、在日コリアンに対する民族差別に他なりません。
 去る2月24日、ジュネーブで行なわれた国連の人種差別撤廃委員会の日本政府報告書審査では、委員たちから「朝鮮学校は、税制上の扱い、資金供与、その他、不利な状況におかれている」「すべての民族の子どもに教育を保障すべきであり、高校無償化問題で朝鮮学校をはずすなど差別的措置がなされないことを望む」「朝鮮学校だけ対象からはずすことは人権侵害」などの指摘が相次ぎ、朝鮮学校排除が国際社会の基準からすれば人権侵害であることはすでに明らかになっています。

 外国籍の子も含めてすべての子どもたちに学習権を保障することは、民主党がめざす教育政策の基本であるはずです。私たちは、朝鮮学校に通う生徒を含めたすべての子どもたちの学習権を等しく保障するよう強く求めます。

2010年3月10日
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 さて、友愛などという、政治の場では口に出すのも面映ゆいスローガンを掲げる鳩山首相。
 「友愛」の実のあるところを見せることができるかどうか、はなはだこころもとないのですが、ただ待っていても実現しそうにありませんので、ここは意を決して、この「呼びかけ」と「要請文」をできるだけ多くの人びとに読んでいただこうと思い、これを書きました。 

 このあと、ソウル・レポートを続けますが、まずはここまでにします。



posted by 木村知義 at 17:18| Comment(1) | TrackBack(0) | 時々日録
この記事へのコメント
高校無償化法案の対象から朝鮮学校を外すことに、祖国が北朝鮮である社民党の福島瑞穂は思ったとおり反対している。
朝鮮学校の教育は日本の文部科学省の指導要領に基づいておらず、北朝鮮の指導に基づいて行われており、明らかに北朝鮮の学校である。
彼女の政策は、夫婦別姓、外国人参政権など、およそ日本人なら到底考えられない政策であるのが大きな特徴である。
社民党は見かけは日本の政党であるが、内実は北朝鮮の政党である。
伝統的に昔から自発的に民主党と北朝鮮の機関紙であることを自認している新聞もある。
高校無償化は民主党の得意技である人のカネ(税金)ばら撒きによる集票策の一環。
Posted by 腐敗していた民主党 at 2010年03月07日 07:46
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