2009年09月27日

「東アジア共同体」へのハードル 〜中国・東北、中朝国境への旅で考えたこと〜(その2)

 「力がなければ、民族も、国家も滅びる、悲惨なものだ・・・」

 在日朝鮮人の方たちと意見を交わす中で出てきた、呻きに似たことばであることは書きました。

 とりわけ、中朝国境地帯という戦略的にも複雑な地域に立って、あるいは高句麗という、中国との間で「歴史論争」になっている、その地で考える朝鮮民族の歴史を踏まえるなら、このことばはむべなるかなというものではある、というより誰しも否定できないというぐらいの重みを持ったことばだと思います。

 確かに過去の歴史をふり返ればそうであるかもしれないし、私たちが生きる現在もまた、その論理を否定できない状況であるかもしれない、そうなのだけれども、しかし、その先を、未来を考えるべきなのではないか、私たちは・・・。

 民族というものをどう定義づけするのが正しいのか、あるいは国家は・・・と、学問的には歴史にもとづく深い研究と考察が必要であることは承知しています。

 しかし、いまここで語ろうとするのは、そうした専門研究に属することではありません。

 ただし、少なくとも近代国民国家というものが民族という論理とは必ずしも一致しない形で形成されてきたことは、現実として認めるべきだと考えます。

 しかも、帝国主義の時代にあって、植民地というものが生まれ、その分割、再分割闘争としての戦争を経て、国、国家というものが、民族の論理とは無関係に「線引き」されて形成されたという現実もあります。

 したがって、冷戦構造の「崩壊」のなかで、ひとたび「抑圧」する力として働いてきた「国家」が揺らぐと、一気に噴出した民族(意識)との軋轢の中で凄惨なまでの「争い」を目の当たりにすることになりました。

 旧ユーゴや旧アルバニアなどを例にあげるまでもなく、いま現在、それらの国がどうなっているのか、どんな名称の国でどのような版図を占めているのか、地図で正確に示すことすら容易ではない状況だといわざるをえません。

 中国でいえば一つの国家の中に56もの民族が暮らし、それらの中には自治区であったり自治州といった民族ごとの「自治、自決」を謳った地域もあります。

 そして、いま、チベットで、新疆ウイグル自治区で、「騒乱」、「暴動」を目の当たりにしているのです。

 こうした状況を前に、力がなければ民族もなにもあったものではないという論理は、現実論としては反論の余地はないのだろうと思います。

 しかし、私たちの生きる21世紀という時代のあいだに解決できるかどうか、それはわからないというぐらいの長い射程のはなしなのですが、結局、どう力を得たとしても、力によっては根本的に解決できない問題として残るのではないのか、ということです。

 そうなると、欧州の「実験」をすべてよしとするのではありませんが、究極的には、平和の中で生きるためには力においてではなく、強力的あるいは「暴力的」に線引きした現在の国家というものをどれだけゆるやかで、柔らかい存在にしていけるのかにかかってくるのではないか。

 象徴的に言えば、黒々とした実線の国境を薄い「点線」にするという営みの積み重ねにしか未来はひらけないのではないか、ということです。

 もちろん、もう一度、地球の破滅しか意味しない「世界戦争」を戦おうという場合は別ですが・・・。

 国境を点線にするという営為の中で、ひとつひとつの「国家」をこえて、あるいは「国家」の内部にも、多数の民族が平和的に共存していく道を模索していくべきではないのか・・・。

 なんとも、口はばったくも、青臭い論を述べたものだと気恥ずかしくなるほどでした。

 それよりも、在日朝鮮人の人びとが、いま、どれほどの苦難に耐えて生活を営んでいるのか、そんなこととは「別世界」のような空論に長広舌をふるったものだと、自己嫌悪に陥るぐらいのものでした。

 しかし、です!空論ではなく現実論として、力においてではなく、論理においてあるいはもっといえば、理念と理想において生きる時代をひらくべきではないのか、これは私の頑固な「思いこみ」ですらあるのです。

 であるがゆえに、中国・東北の地に立って歴史を見つめ、考える旅の意味があるのではないか、というのが私の述べた要旨でした。

 さて、しかし、ここには避けて通れないというべきか、最低でも、二つの語るべきことが残されているというべきです。

 ひとつは、北朝鮮はなぜ崩壊せずに生き続けているのかという問題。

 もうひとつは、中国・東北、つまり旧満州の地に立って、こうした「理想」を語る際に忘れてはならない問題、つまり歴史の記憶という問題があるということ。
 この二つです。

(つづく)



 
posted by 木村知義 at 23:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録
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