2009年09月21日

情報の「ゆがみ」の恐ろしさを知らなければならない

 2回にわたって北朝鮮問題、朝鮮半島情勢について書いてきました。

 今回は、中国・東北への旅、とりわけ中朝国境地帯を歩いて見聞きしたこと、考えたことに転じたいと考えていましたが、その前に、さらに書いておかなければならない問題があることを痛感します。

 何かというと、北朝鮮にかかわる情報の「ゆがみ」についてです。

 私たちの意識のなかに、あるいはメディアの報道に抜きがたく存在する、北朝鮮情報にかかわる「ゆがみ」の問題は、実に深刻だと言わざるをえません。

 この2回のコラムにふれて、直近のニュースを取り上げます。
 金正日総書記にかかわる情報です。

 きょう(21日)の各紙でも伝えられているのですが、アメリカのオバマ大統領が20日のCNNテレビとのインタビューで、8月に平壌を訪れたクリントン元大統領からの報告に基づいた分析として、昨夏から健康不安説が取りざたされていた北朝鮮の金正日総書記について、健康を回復し「再び権力掌握を確かなものにしている」との見方を示したということです。
 
 さらに後継者問題についても「病気だったころは後継についてもっと気にしていたが、今はそれほどでもないようだ」と語ったというのです。

 これについては「北の最重要課題は後継問題ではないとの見方も示した。」(読売)と報じた新聞もありました。

 そして、北朝鮮当局に拘束されていた米記者2人の解放を目的としたクリントン氏の訪朝について「我々は北朝鮮との交流は多くはないので、こうしたことを知る貴重な機会だった」と評価したのでした。

 金正日総書記の健康問題は「後継問題」にとどまらず、この間のロケット発射から核実験にいたる北朝鮮の「動き」を規定する重要な要因であることはいうまでもありません。

 実は、北朝鮮の金永南最高人民会議常任委員長が今月の10日平壌で日本の共同通信との会見に応じています。

 その発言要旨を見てみると、

・(日朝)両国が21世紀になっても近くて遠い関係を打破できないことを残念に思う。われわれは日本当局の不当な敵視政策に反対するのであり、日本の国民は敵ではない。

・日本が(日朝)平壌宣言を重視し、宣言に基づき不幸な過去を誠実に清算しようとするのであれば、両国間で解決できない問題はない。関係改善の展望はあくまで日本当局の態度にかかっている。

・諸懸案を解決しながら、政治、経済、文化などあらゆる面で実りある関係を築くことは、両国民の利益に合致し、北東アジア地域の平和と安定、発展に有利な状況を生むだろう。

・金正日総書記は、現在も旺盛な精力にあふれ、党と国家、軍の全般を賢明に指導している。

・革命伝統はわが国家と国民の生命で貴重な財産であり、その継承は重要な問題だ。国民は常に、金日成主席が生み出し、金総書記が発展させている革命伝統を体得するようにしている。

・これ(革命伝統継承)に継承者(後継者)問題は関係していない。現時点では論議されていない。(金総書記の三男、正雲氏の内定説など一連の報道は)全く事実無根だ。

 という内容です。

 もちろん、こうした発言を、そのまま「鵜呑み」にするわけにはいかないということはあるでしょう。
 
 しかし、これだけの高位にある首脳が、国外に報道されることを前提に、いま、なぜこうした内容の発言をしたのかということは無視できません。

 この点は極めて深い吟味と慎重な分析が不可欠です。

 たとえば、後継問題について、金総書記の三男、正雲(ジョンウン)氏が内定したとの海外での報道に対して「革命伝統を継承する問題は重要だが、これに継承者(後継者)問題は関係していない」、「現時点では論議されていない」と海外での「内定報道」をきっぱりと否定していることは注目すべきことだといえます。

 そして、なによりも重要なことは、20日のCNNテレビでのオバマ大統領の発言と平仄があっていることです。

 重ねてですが、金永南委員長の言う通りになるのかどうか、それはわかりません。

 しかし、米国の大統領がメディアのインタビューに答えた内容と合致してくるとなると、これは軽い問題ではなくなります。

 ふりかえってみると伏線がありました。

 今月15日、米太平洋軍のキーティング司令官が「北朝鮮の後継構図は不透明」との見方を示していたのです。

 これは 米国のシンクタンク、戦略国際問題研究所(CSIS)のフォーラムでの発言です。

 キーティング司令官は、クリントン元米大統領の先月の訪朝は大きな情報をもたらしたと述べ、「金正日総書記はしっかりと立つことができ、力もありそうで、論理的な討論をする能力もあるものと見られた」と語ったというのです。

 この発言について韓国の聯合ニュースは、クリントン元大統領の訪朝が「北朝鮮指導部の状況について重要な情報を得る機会になったことをほのめかしたもの」と伝えています。

 さてそこで、きょうのTBSニュースです。

 CNNのインタビューに答えたオバマ大統領の発言について伝えながら、「北朝鮮に対する強い制裁措置は『中国やロシアの協力も得て非常に成功している』と述べると共に、北朝鮮が米朝2国間を含めた協議に復帰することを念頭に『近いうちに何らかの前進がはかられると思う』との見方を示しました。」と報じました。

 米朝間の問題について「近いうちに何らかの前進がはかられると思う」とオバマ大統領が言明したというのです。

 ここまで情報の流れを押さえて見ると、クリントン元大統領がもたらした情報の重みが見えてきます。

 まさにホワイトハウスの西ウイング、特殊防諜装置が施された密室でクリントン氏が直接オバマ大統領に伝えた情報の重みです。

 このコラムでは、国際情報小説やスパイ小説の類のような想像力をたくましくしようというのではありません。

 アメリカの、情報というものに対する姿勢について注意を払う必要があると、かなり控えめな物言いではあるのですが、言いたいのです。


 情報は、現実に対して謙虚になることがなければ生きない、つまり価値がないということを如実に物語っているのです。

 まさかクリントン氏が金正日総書記にシンパシーを抱いているなどと考える人は皆無でしょう。

 好きか嫌いかといえば、多分嫌いでしょう。

 百歩譲ったとしても、「人権派」のクリントン氏ですから、金正日氏は、少なくとも好きな人物ではないでしょう。

 しかし、そうした「個人の好み」に左右されず、現実を直視する力があるからこそ、大統領としての彼を評価するかどうかは別にして、国家の指導者としての大統領が務まったというべきです。

 CNNで今回のような発言をしたオバマ大統領もまた同じでしょう。

 さて、ここまで書いてくると、賢明な読者のみなさんですから、何を言おうとしているのかおわかりだと思います。

 対する、日本の、北朝鮮にかかわる情報の「貧困」さです。

 「金正日はすでに死んでいる」などと大言壮語したメディア出身の北朝鮮問題専門家がいたりするのはお笑いで済みますが(いや!記者を辞めてからは大学の教授などという職にあるのですから笑えないか?)なんともことばにできないほどの北朝鮮情報の「ゆがみ」は深刻だというべきです。

 何を言っても確認のしようがないということをいいことに、言いたい放題という様相を呈しているのが、日本の北朝鮮情報ではないでしょうか。

 この間の米国の動きを深く見つめると、なぜいつも日本が「蚊帳の外」に置かれるのか、如実に見えてきます。

 国益とは何か!

 北朝鮮情報をもてあそぶ専門家に、ここは真剣に考えてもらわなければなりません。

 北朝鮮に対する救い難い情報の「ゆがみ」が、いま、日本を危うくしています。

 私は、なにもアメリカが立派だといっているのではありません。
 アメリカは自国の利益のためにそうしているだけのことです。

 しかし、では、日本に、“クリントン”はいるのか、それに謙虚に耳を傾け、国の行く末を間違わないように努力する“オバマ”はいるのか?!
 
 あるいはバイアスをできるだけ排除しながら、現実を直視して伝えるメディアはあるのか・・。

 さらに、この日本における北朝鮮にかかわる情報の「ゆがみ」は何に由来するものなのか、これこそ歴史に深く根ざす問題として、真摯な思索を求められるものだと思います。

 朝鮮半島は動く!

 そう確信するだけに、情報の「ゆがみ」に根ざす問題の深刻さと重さを思わざるをえません。





posted by 木村知義 at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録
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