2009年06月30日
核持ち込み密約報道をどう読む・・・
6月もきょうで終わります。
一年の半分が過ぎたことになります。
政治は迷走などということばではとても言い表せないほどの液状化がすすみ、言うべきことばも見つかりません。
昨年秋以降、今年初めにかけて、このコラムで迷走する麻生政権について「立ち枯れ・・・」と書きましたが、その後の経過を見ると、まさにその通りの展開だと言わざるをえません。
メディアではあいかわらず解散総選挙はいつ・・・ということが云々されていますが、その「背後」で極めて重要な「スクープ」があったことを忘れるわけにはいきません。
スクープにカギカッコをつけたわけは、最後までお読みいただけば分かっていただけると思います。
さて、その「スクープ」とは、アメリカの「核持ち込み密約」問題についてです。
時は一カ月さかのぼります。
口火を切ったのは、6月1日付東京新聞の一面トップを飾った「60年安保『核持ち込み』密約、外務官僚が管理」「歴代4次官が管理」「伝達する首相を選別」という記事でした。
これは共同通信が配信した価値あるスクープでした。
重要な内容なので、共同通信が5月31日午後配信したものを再録しておきます。
1960年の日米安全保障条約改定に際し、核兵器を積んだ米軍の艦船や航空機の日本立ち寄りを黙認することで合意した「核持ち込み」に関する密約は、外務事務次官ら外務省の中枢官僚が引き継いで管理し、官僚側の判断で橋本龍太郎氏、小渕恵三氏ら一部の首相、外相だけに伝えていたことが31日分かった。
4人の次官経験者が共同通信に明らかにした。
政府は一貫して「密約はない」と主張しており、密約が組織的に管理され、一部の首相、外相も認識していたと当事者の次官経験者が認めたのは初めて。政府の長年の説明を覆す事実で、真相の説明が迫られそうだ。
次官経験者によると、核の「持ち込み(イントロダクション)」について、米側は安保改定時、陸上配備のみに該当し、核を積んだ艦船や航空機が日本の港や飛行場に入る場合は、日米間の「事前協議」が必要な「持ち込み」に相当しないとの解釈を採用。当時の岸信介政権中枢も黙認した。
しかし改定後に登場した池田勇人内閣は核搭載艦船の寄港も「持ち込み」に当たり、条約で定めた「事前協議」の対象になると国会で答弁した。
密約がほごになると懸念した当時のライシャワー駐日大使は63年4月、大平正芳外相(後に首相)と会談し「核を積んだ艦船と飛行機の立ち寄りは『持ち込み』でない」との解釈の確認を要求。大平氏は初めて密約の存在を知り、了承した。こうした経緯や解釈は日本語の内部文書に明記され、外務省の北米局と条約局(現国際法局)で管理されてきたという。
核を搭載した米艦船や航空機などの「核持ち込み」については、これまでも言われてきたことでしたし、米側文書の公開などで、いわば常識といってもいい「暗黙の既定事実」になっていましたから、内容についての驚きはありませんでしたが、ここにきて4人もの外務事務次官経験者が揃って「認めた」ことは、驚きでした。
まさに共同通信の大スクープだと言っていいと思います。
これで、「事前協議の申し入れがないのだから、日本への核の持ち込みもない」という倒錯した、論理ともいえない論理を口にすることは少しははばかられる空気になるだろうか・・・という思いも、したものです。
その後、これまた共同通信が、政府が宗谷、津軽などの重要な海峡の領海幅を、領海法で可能となっている12カイリではなく3カイリにとどめてきたのは、アメリカの原子力潜水艦などの核搭載艦船への配慮だったというスクープを配信しました。
これも、6月22日の東京新聞に掲載されたましたのでお読みになった方もいらっしゃると思います。
念のため、6月21日午後配信の記事を以下に再録します。
政府が宗谷、津軽など五つの重要海峡の領海幅を3カイリ(約5・6キロ)にとどめ、法的に可能な12カイリ(約22キロ)を採用してこなかったのは、米軍の核搭載艦船による核持ち込みを政治問題化させないための措置だったことが21日、分かった。
政府判断の根底には、1960年の日米安全保障条約改定時に交わされた核持ち込みの密約があった。
複数の元外務事務次官が共同通信に証言した。
これらの海峡は、ソ連(現ロシア)や中国、北朝鮮をにらんだ日本海での核抑止の作戦航行を行う米戦略原子力潜水艦などが必ず通らなければならないが、12カイリでは公海部分が消滅する海峡ができるため、核が日本領海を通過することになる。
このため、核持ち込み禁止などをうたった非核三原則への抵触を非難されることを恐れた政府は、公海部分を意図的に残し核通過を優先、今日まで領海を制限してきた。表向きは「重要海峡での自由通航促進のため」と説明してきており、説明責任を問われそうだ。
外務次官経験者によると、領海幅を12カイリとする77年施行の領海法の立法作業に当たり、外務省は宗谷、津軽、大隅、対馬海峡東水道、同西水道の計5海峡の扱いを協議。
60年の日米安保改定時に密約を交わし、米核艦船の日本領海通過を黙認してきた経緯から、領海幅を12カイリに変更しても、米政府は軍艦船による核持ち込みを断行すると予測した。
そこで領海幅を3カイリのままとし、海峡内に公海部分を残すことを考案。核艦船が5海峡を通過する際は公海部分を通ることとし、「領海外のため日本と関係ない」と国会答弁できるようにした。
その後この問題は、濃淡の差こそあれ、各紙、各メディアで伝えられました。
しかし、「密約」そのものの問題性よりも、歴代の外務事務次官の間で秘かに「引き継がれてきた」こと、密約について告げ知らせる首相を次官の側で「選んでいた」という問題に力点が置かれるようになってきているように感じます。
つまり、官僚と政治家の関係の問題に焦点が移ってきている印象がぬぐえない報道ぶりではないかといわざるをえません。
そうした問題を一時置くとしても、私が気になるのは、なぜここにきてこの問題が明るみに出たのか、つまり、なぜ、いま「日の目を見る」ことになったのだろうかということです。
「日の目を見る」というのはいかにも表現としてヘンだということは承知の上で、そうとしか言えないのです。
そこでもう少し注意深くメディアを浚ってみると、意外なことにつき当りました。
朝日新聞社、いや、もう別会社の朝日新聞出版になっているのですが、その朝日新聞出版発行の「週刊朝日」の5月22日号で、前外務事務次官で、麻生総理の下で政府代表を務める谷内正太郎氏が、1972年の佐藤政権下での沖縄返還時に「核の再持ち込みの密約」があったと思う、と語っているのです。
なんとなく「構図」が見えてくるような気がしてきます。
そこで、あと二つの言説に、私は注目しました。
まず、6月19日の産経新聞のコラム、「正論」欄です。
元防衛大学長で現在は平和・安全保障研究所理事長の西原 正氏が「非核三原則の一部緩和が必要」と題して「自民党の国防部会では、日本の敵基地攻撃能力の保有を提言しているとのことである。ところが敵のミサイル基地を攻撃することで武力紛争が拡大した場合に、どう対応するのかがはっきりしない。そうした敵側への攻撃能力を検討しておくことは重要だとしても、より緊急に必要なのは、自衛隊と米軍との共同作戦の策定と指揮権の調整である。また米国の核抑止力の効果を高めるために、日本が非核三原則の一部を修正し、米国の核ミサイル搭載艦の日本寄港を容認することも真剣に検討すべきである。北朝鮮の行動を抑止するのは国連決議だけでは不十分である。」と説いています。
そして『WEDGE』7月号に掲載された読売新聞政治部次長の飯塚恵子氏の「北朝鮮の暴走 日米同盟強化のため今こそ核の傘の議論を」です。
このなかで飯塚氏は、今こそ核に関する開かれた議論を始めるべきだとして「日米間の『核の傘』をめぐる話し合いは、戦後から今日まで極めて手薄になってきた分野だ。北朝鮮が核計画を発展させ、中国でも核兵器の近代化が進む現在、日米核協議は同盟強化のために必要な根本的な仕事だといえる。」「一方、日米間で協議を進めるなら、日本国内でも核をめぐる安全保障問題について、冷静でオープンな議論を国会などではじめるべきだろう。政治的エネルギーが必要な課題だが、オバマ政権の登場はそれを始めることを日本に迫っている。」と説いています。
昨年9月から米国のブルッキングス研究所客員研究員も務める飯塚氏と上記の西原氏の言説を重ね合わせて、もう一度、谷内氏が「週刊朝日」誌上で明かした「秘密」を思い返してみると、今回の「スクープ」をめぐる風景が一変してしまうことに気づきます。
もちろんそれで共同通信の記者のスクープを何ら損なうものではないでしょう。大いに賞賛されてしかるべきだと考えます。
しかし、と・・・私は考え込んでしまうのです。
なぜ、いま、あれほどまでに否定され続けてきた「密約」は「日の目を見た」のだろうか、と。
メディアで仕事をすることの容易ならざる「手ごわさ」を思い、複雑な気持ちになるのは、さて、私だけなのだろうか、と。
この間の政治の液状化、政権の「迷走ぶり」を目の前にして、その背後で、確かに、いま、何かが動き始めていると確信するのでした。
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