ホームページの小島正憲氏の「凝視中国」に最新レポート「5月暴動情報検証」を掲載しました。
広東省の英徳市に住む、ベトナムから帰国した華僑たちの生活改善要求の「抗議行動」をはじめ、湖南省醴陵市の農地収用をめぐる、農民と警官隊の衝突など、この間各地で起きた地域の政府や行政当局などへの抗議行動について、詳細な報告がなされています。
また、日本でも知られるようになった中国の検索サイト「百度」の華南地域の従業員が、「達成不可能な目標数値を盛り込んだ能率給に近い」賃金制度の改革に対してストライキに突入したという、実に興味深いレポートもあります。
このレポートを読みながら、先日参加した研究会(中国朝鮮族研究学会)で聴いた慶應義塾大学非常勤講師の呉 茂松氏の報告を思い起こしました。
呉 茂松氏の報告は「中国タクシー業界における運転手たちの維権運動」というものでした。
呉氏はこの日の報告のテーマとした「タクシー運転手たち」にとどまらず、中国社会の各分野、各階層で起きている権利保護や、行政当局への訴え、抗議の動きを詳細に拾い上げながら、それらが総体として中国社会にどのような影響を及ぼして行くのかを分析、考察するという意欲的な研究を重ねているのですが、そこでのキィワードが「維権」という言葉でした。
以下に呉氏の解説を引かせていただくと、
「『維権』(Weiquan)とは中国語の『維護権利』の略語であり、合法的な利益・権利を擁護する意味でよく使われる。1990年代半ば、メディアが、青少年の権利、女性権利の保護、消費者権益の保護を提唱する際に作り出した言葉であるが、用語の適用範囲が拡大し、出稼ぎ労働者、失地農民、弱者グループ、所有権者たちの諸権利に対する様々な領域まで広く使用されている。なお、インターネットなどのメディアだけではなく、一般市民レベルにおいても権利意識の覚醒、権利主張のシンボルとして深く定着している。この言葉は、常に『民生』とともに現れたことであり、侵害された利益への抵抗、権利への訴えが同伴した。『維権』現象は、市民生活への浸透とともに地理的、領域的適用範囲も広がりを見せている。日本語の適訳はないが、憲法を守る意味で提唱された『護憲』の『憲』を権利の『権』に置換え造語にした『護権』に最も近いと思われる。」
ということです。
小島氏の「暴動情報検証」は毎月「定例」のレポートですが、呉氏の報告を聴いて、小島氏のレポートの意味(価値)が、よりくっきりと見えてくる気がしました。
「改革開放」「中国の特色ある社会主義市場経済」さらには現在の指導部が掲げる「和諧社会」(調和のとれた社会)といった言葉で語られる中国の現在と未来にかかわる重要な示唆が読み取れるレポートだと感じます。
中央における政治権力の移行(奪取)による革命から60年。
社会のさまざまな領域、分野で起きている「変容」とそれが引き起こす人々の意識の変化をどうとらえ、そうした「動態」がこれからの中国の行方をどのように左右することになるのかを考えることは、北東アジアの隣国に生きる私たちにとって重要かつ不可欠な営みとならざるをえないと考えます。
その意味でも、中国での実地調査を重ねながら分析、考察を重ねる呉 茂松氏の「維権」をめぐる研究や小島氏のレポートに注目していきたいと思います。
一般的なメディアでは、よほどの「大事件」にならないかぎり伝えられない、中国社会の底流で起きているこれらの「動き」にしっかりと目を凝らして中国のこれからを考えて行くうえで貴重な情報になると確信します。
こうした視点、視角で、ホームページのレポートをお読みいただければと思います。
最新レポートのページは以下の通りです。
http://www.shakaidotai.com/CCP038.html
2009年06月30日
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