2010年06月01日

ミスリードしてはならない!

ミスリードしてはならない!
きょう昼のテレビニュースを見ていて思わず口をついて出た言葉がこれでした。

 ミスリードしてはならない!!

 そのニュースとは、きょう昼モンゴルに向けて日本を離れた中国の温家宝首相が「天安」問題について語った内容について伝えるニュースでした。

 そのニュースでは以下のようなコメントとともに温家宝首相がインタビューに答える姿が伝えられました。

 温家宝首相は韓国の哨戒艦の沈没事件について、各国が冷静に対応し軍事的な衝突を回避すべきだとしたうえで、「衝突が起きれば最も被害を受けるのは韓国であり、中国も被害を免れない。中国には『城門に火事が起きると、災いは池の魚にも及ぶ』ということわざがある」と述べ、朝鮮半島の平和と安定の維持を最優先にする考えを示しました。そのうえで、温首相は「中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく」と述べ、友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました。一方で、韓国が目指す国連安保理への事件の提起については「中国は各国の状況や反応を真剣に検討して態度を決めていきたい。どのような姿勢で臨むかは見守ってほしい」と述べ、安保理での中国の対応については明言を避けました。

 私が、違和感を感じて思わずエッと思ったのは、「温首相は『中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく』と述べ、友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました。」というくだりでした。

 これを取材して出稿した記者がそう受けとめたのか、あるいはもっと別のコメントだったものがデスクの判断でこうなったのか、それはわかりませんが、「中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく」ということが、「友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました。」ということになるのでしょうか。

 さて、月並みな表現になってしまいますが、ここはまさに取材者が問われる「正念場」です。

 ここで言う「公正な立場」とはどのような含意なのか、取材した記者は考えたでしょうか。

 取材の出発点が、「極悪非道」な北、その被害を受けてなお「自制する」南という、せいぜい鳩山首相と同レベルの認識と問題意識でしかないことを如実に露呈してしまったというべきです。

 いや、こんなことを言うとこの記者は、一国の総理と同レベルということはスゴイじゃない!と、まるで褒められていると勘違いしそうですから、ここは言葉を選ばなければなりませんね。

 そんな「与太話」は置くとして、この温家宝首相の「ことば」をどう読み取るのかは、事の本質にかかわる重大な問題です。

 結論から言うと、あれこれ言葉を重ね、策を弄してなんとか温家宝首相に韓国、日本の「言い分」に寄り添った(かのような)コメントを引き出したいと狙った日本の、そして韓国の思惑は完全に外れたというべきなのです。それを示したのがこの温家宝首相のコメントだと読み取るべきです。

 六カ国協議の構成メンバーであることから、普通であればロシアのメディアまで見たり読んだりしないのですが、今回の問題が起きてからは、それなりに努力してロシアのメディアの論調もチェックしてきました。ロシア語など一言も解さないにもかかわらずです。
 
 その結果、韓国の「調査報告」にいくばくかの「疑問」を呈していたロシアでしたが、韓国に「調査団」を派遣することになり、いまソウルで「調査」に当たっていることがわかりました。

 では中国はといえば、調査団をという韓国側の「誘い」にもかかわらず、ロシアとは違って、派遣しないということを韓国に通告しました。

 もちろん、今後、未来永劫にということではないでしょう。「条件」次第では変わることもあり得ます。

 しかし、いま、韓国の政権べったりのメディアはそれがいたく気に食わないと見えて、中国への「苛立ち」の論調を醸し出し始めています。

 【ソウル=築山英司】一日付の韓国紙、朝鮮日報は、韓国軍哨戒艦沈没を「北朝鮮製魚雷の攻撃」と結論付けた調査結果をめぐり、中国が韓国政府による追加資料提供や調査団派遣などの要請を拒否したと伝えた。同紙によると、韓国政府は哨戒艦沈没の国連安全保障理事会への問題提起を前に常任理事国である中国とロシアに「信用できないなら調査団を韓国に送り、調査結果を検討してほしい」と要請した。ロシアは調査団を派遣したが、中国からは返答がないという。(「東京」6月1日夕刊)

 これぐらいなら、それがどうした、という程度でしょう。
 しかし以下を目にすると、韓国の「焦り」がどのようなものかが直截に伝わってきます。

 「哨戒艦沈没:韓国側の追加資料受け取らない中国」
 5月29、30の両日開かれた韓中日首脳会談で、中国の温家宝首相から「国際合同調査団と各国の反応を重視する」という言葉を引き出したものの、韓国政府からは「天安」沈没事件に対する中国の態度に冷めた声が続いている。表面的には大統領府(青瓦台)関係者が「中国が一歩前進した」と評価し、外交部の金英善報道官が「中国との意思疎通は現在進行形だ」と述べるなど、表情を取り繕ってはいるが、内心は「中国はあんまりだ」というため息ばかりだ。 韓国政府は「天安」事件を国連安全保障理事会に問題提起する件について、明確な立場表明を行っていない中国とロシアに対し、「調査結果を信頼できないならば、専門家チームを韓国に送り、調査結果を検討してほしい」と要求した。ロシアは5月31日に潜水艦と魚雷の専門家で構成される海軍調査団4人を韓国に派遣し、検討作業に着手した。しかし、中国からは何の回答もない。韓国政府高官は「何の回答もないことからみて、中国は最後まで専門家チームは派遣しないのではないか。国際社会がすべて合同調査団の調査を信頼しているにもかかわらず、中国だけが理解できない反応を示している」と話した。韓国政府は5月20日の調査結果発表直前に事前説明まで行い、「必要な資料があればいつでも送る」と中国側に伝えた。クリントン米国務長官もソウルで、「韓国が400ページに達する調査報告書を中国に提供すると提案したと承知している」と述べた。しかし、中国は専門家チームの派遣どころか、追加資料の受け取りをも拒んでいる。中国は韓国の提案に耳を閉ざしたまま、張志軍外務次官が「中国は『天安』事件に対する一次資料を確保していない」と述べている。また、武大偉朝鮮半島問題特別代表も「北朝鮮の仕業だと証明する独自資料はまだない」として資料不足を理由に挙げた。「天安」事件は韓国領海で起き、船体、残骸(ざんがい)、北朝鮮製魚雷のスクリューなどの一次資料をすべて韓国政府が保有しているにもかかわらず、「一次資料がない」とやや矛盾する主張をしている格好だ。韓国政府関係者は「温首相の言葉通りに是非をわきまえて判断するというならば、資料を必要としているはずなのに、提供するという資料に関心がないのは理解できない。中国がいう一次資料とは何なのか分からない。具体的にどういう資料を欠いているのか知らせてほしい」と話した。このほか、中国政府高官は外交ルートを通じ、「韓国は中国の立場を今は理解できないだろうが、長期的にはわれわれの判断が正しかったことを悟ることになる」と訓戒でもするかのように語ったという。韓国政府は「天安」事件を国連安保理に問題提起し、北朝鮮を非難する決議案か議長声明を出す方向で協議する過程が中国の態度変化を期待できる最後の機会ととらえている。
(韓国・「朝鮮日報」6月1日)

 ここまでなら、まあ、まあそんなにムキにならずに・・・と宥めもしますが、以下のような論調になるともう度をこえているというべきでしょう。メディアの品格もなにもあったものではありません。
 しかしとにかく読んでみましょう。

 『金総書記に援交費やるのはもうやめろ』
 「中国は『シュガーダディー(sugar daddy=援助交際男)』、
  金正日に援助交際費を渡すのはもうやめろ」
 米国の有名な経済コラムニスト、ウイリアム・ペセック氏は5月31日、ブルームバーグ通信のコラムで、中国を北朝鮮の金正日総書記と援助交際をする金持ち男に例え、上の通り主張した。
 『シュガーダディー』とは、自分よりはるかに若い女性に金品を与える代わりに、性的な関係などを要求する金持ち男のことだ。
 ペセック氏は、「中国は、世界で最も孤立している北朝鮮政権に、食糧・石油・援助物資を支援する最大のスポンサー。このため、中国が北朝鮮に大きな影響力を行使しているのは否めない」と語った。
 また、「ハエになって中国の指導者たちの部屋に忍び込まなくても、彼らが『天安』沈没で(北朝鮮に対し)いらだっているのが分かる。中国がこの煩わしい蚊(金総書記)をたたき落とさないのは、北朝鮮政権の崩壊がもたらす脱北者の大量発生や、韓半島(朝鮮半島)での米国の勢力拡大を懸念しているからだ」と分析した。
 だが、「北朝鮮の崩壊は中国や韓国の経済にとてつもない影響を与える可能性があるので、誰もこれを心から願ってはいない。
 中国はもう、金総書記の挑発行為の尻ぬぐいをやめ、アメではなくムチを手にしなければ」と強調した。
 中国が支援を中止すれば、北朝鮮はほかの国と交渉をせざるを得ず、北朝鮮の経済開放は北朝鮮住民の福祉やアジアの安定に寄与するとペセック氏は考えているのだ。
 そして、「成長する経済力にふさわしい外交的努力を示せずにいる中国は、果たして国際社会の責任ある一員になれるのだろうか」と疑問を呈し、「北朝鮮は中国が国際的な責任を果たす国であることを証明する絶好の舞台」と述べた。(「朝鮮日報」6月1日)

 物事には限度というものがあります。しかし、反面、これはいまの韓国の「苦衷」を余すところなく伝えていると見ることもできるわけで、その意味ではこの記者は「なかなかいい仕事」をしていると言えなくもありません。

 さて、こんな言説に付き合っているとこちらまで「下品」になってしまいそうで、いいかげんのところで切り上げなくてはと思います。

 そこで最後に、これまた日本のメディアでは伝えられない重要な情報について引いておきます。

 外交消息筋は28日「中国が天安艦事件と関連して駐韓国連軍司令部(UN司令部)と中国、北朝鮮が参加する共同調査を実施しようと米国に提案した」と明らかにした。この消息筋は「中国は先週頃にニューヨーク国連代表部チャネルを通じてこういう提案をした」とし「この間 機能を喪失した軍事停戦委員会(軍政委)を開き共同調査をしようということだった」と伝えた。米国と中国は去る24〜25日、中国北京で開かれた米中戦略・経済対話で中国側のこういう仲裁案に対する調整を終えた後、UN司令部の天安艦事件特別調査チームを通じ26日 韓国政府に通知したということだ。これと関連してUN司令部特別調査チームは、中国人民解放軍の軍政委復帰を要請すると韓国側に通知し、朝鮮人民軍の‘共同監視小組派遣’も北側に要請すると通知した。これと共にUN司令部特別調査チームは‘対話を通した天安艦事態の解決’が必要だという点を強調したと伝えられた。UN司令部は去る22日天安艦沈没事態の原因を糾明するため‘特別調査チーム’を構成した経緯がある。中国のこういう新仲裁案は去る20日、北朝鮮の‘国防委員会検閲団(調査団)派遣’提案を韓国が拒否した事実を考慮した新折衷案だと見られ、現実化する場合、天安艦事態が新しい局面に入ると予想される。中国の提案に対し韓国政府はまだ公式方針を明らかにしていないが、北に弁解する機会を与えることになるだけだとして、慎重に考慮しなければならないという態度だとされる。温家宝中国総理は28日午後、大統領府で開かれた李明博大統領との会談で、天安艦沈没事態に関連して「中国政府は国際的な調査とこれに対する各国の反応を重視し事態の是是非非を分け、客観的で公正に判断して立場を決める」と表明した。温総理はまた「中国はその結果に従い誰もかばうことはしない」と述べたとイ・ドングァン大統領府広報首席が語った。温総理のこの発言は、中国が提案した‘南・北・米・中など国際共同調査’提案を念頭に置いたものと見られる。李明博大統領は「北朝鮮を正しい方向に導くためには断固たる対応が必要だ」として「今回ばかりは北が誤りを認めるよう中国が積極的な役割をして欲しい」と述べた。温総理は国会でキム・ヒョンオ国会議長と会見した席で「我々は事態悪化と衝突発生を予防するため各国が冷静さと自制を維持するよう訴えている」として「朝鮮半島で衝突が起きれば最も大きな被害をこうむるのは韓国と北朝鮮、そして中国だ」と語った。(「ハンギョレ新聞」5月29日から)

 さて、もう一度冒頭の温家宝首相の「中国は一方をかばうことはなく、公正な立場を堅持していく」というコメントに戻りましょう。

 この含意は、少なくとも韓国が国家の威信をかけて発表した「調査報告」であるかぎり、韓国の立場を(メンツを)損なうようなことはできない。仮にも韓国の「発表」を否定するなどということはあってはならないことだ、しかしだからと言って、そのままハイソウデスネとはいかない!
 ゆえに、「公正な立場を堅持する」ということなのだ、と温家宝首相は語ったと読み解くのが理にかなうということです。

 冒頭のニュースが、意図してなのか、意図せずなのかはわかりませんが、なんとかして、中国が「友好国である北朝鮮に対し一定の距離を置く姿勢を示しました」というところに誘導したいという、「見えざる手(思い)」が働いたということは否定できないと思います。

 それがごく自然な読み解きとならざるをえません。

 メディアは、そして情報の受け手である私たちは、相当賢くならなければメディアの「導き」でとんでもないところに連れて行かれるかもしれないと、自戒を込めて、思うのでした。

 メディアはミスリードしてはならない!
 それが最低限の掟です。






posted by 木村知義 at 23:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録