2010年05月24日

普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(11)

(承前)

 刻々と事態が動いていきます。書くことに十分時間を費やすことができない状況では、書くことが情勢の動きに即したものにならず、忸怩たる思いがあります。

 したがって、きちんとしたところまで書き上げてから掲載しようと考えていたのですが、言い訳がましくなることを承知で、まず、けさ、そして夜になって書いた部分だけWebにアップすることにします。

 普天間飛行場の移設問題で鳩山首相が沖縄を再訪したことについては、きのう冒頭でふれましたが、テレビの中継を見ながらメモしたため鳩山首相の「ことば」の採録がやや不完全なところがありましたので、けさの朝刊掲載の記録をもとに、その部分を再掲しておきます。

 「私はこれまで、ぜひ普天間の代替施設は県外にと考えて、実際にそれも追求して参ったわけでございます。それがなぜ県内なのだ、という皆様方のご懸念、お怒りはもっともなことだとも思っております。これは、ま、昨今の朝鮮半島の情勢からもおわかりだと思いますが、今日の東アジアの安全保障環境にまだ不確実性がかなり残っているという中で、海兵隊を含む、これは在日米軍全体の抑止力を、現時点で低下をさせてはならないということは、これは一国の首相として安全保障上の観点から、やはり、低下をさせてはならないということは申し上げなければならないことでございまして、そのうえで、普天間の飛行場に所属をしております海兵隊のへリの部隊を、沖縄に存在する他の海兵隊部隊から切り離して、国外はもちろん県外に移設すると、海兵隊の持つ機能というものを大幅に損なってしまうという懸念がございまして、従いまして、現在の、現在のでありますが、安全保障の環境のもとで、代替地は県内にどうしてもお願いせざるを得ないという結論を私どもとすれば、結論になったのでございます。」

 きのうも書きましたが検証されるべきは、「昨今の朝鮮半島情勢」から、「東アジアの安全保障環境」に不確実性が残っているので、海兵隊を含む「在日米軍の抑止力」を低下させてはならない・・・というロジックです。

 これを「所与の前提」としていいのかということです。

 そして、鳩山首相沖縄再訪の記事に隠れて扱いは小さいのですが、けさの朝刊で「聞き捨てならない」記事を目にしました。

 それは、「米軍普天間飛行場の移設問題を巡り、米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に建設する代替施設について、日米両政府が、自衛隊と米軍による共同使用を検討することで大筋合意していることが23日、分かった。28日にも発表する日米共同声明に盛り込む方向。北沢俊美防衛相が24日に訪米し、25日のゲーツ米国防長官との会談で最終調整する。」というものです。
 
 問題は、ここでも、そのロジックです。

 「自衛隊と共同使用とすることで米軍のプレゼンスを相対的に減らし、沖縄の負担感を薄める狙いがある。さらに日本側は将来、安全保障環境が改善し、沖縄からの海兵隊撤退が可能となる事態を想定し、自衛隊管理としたい意向だ。」というのです。

 別の新聞には「普天間飛行場の移設問題をめぐる日米共同声明に、沖縄県名護市辺野古周辺に設ける代替施設について、米軍と自衛隊の共同使用の検討が盛り込まれることがわかった。政府高官が明らかにした。施設が米軍に占有されると、事故や環境汚染の情報が入りにくくなる。政府は、自衛隊が基地に入ることで、地元の心理的負担を軽減できるとみている。日本側は将来的に施設の管理権を自衛隊に持たせることも求めているが、米側は難色を示している。 」とあります。

 「政府高官」からこのことを聞かされた記者は、こんな理屈をそのまま信じて書いたのでしょうか。

 「政府高官」が「そう言った」ことは事実だからそのまま書いたまでだ!というならジャーナリストは要りません。

 もちろん記者の意見を書きこめなどと幼稚なことを言っているのではありません。

 取材者としての問題意識と責任でさらに取材して書くべき事実やニュアンスというものがあるだろうと思うのです。

 ただ、あっちからこっちに物を運ぶように「言ったこと」を運ぶだけなら記者という存在は不要というべきでしょう。

 問われるのは取材者としての、ジャーナリストとしての問題意識です。

 それにしても、自衛隊との共同使用、共同管理にすれば地元の負担感を薄めることができる、あるいは軽減できるとは、どうものを考えればそうなるのか、書いた記者に説明してもらいたいものです。

 「いや!高官はそう言ったのだから書いたまでだ!」と言い張るのなら、では、「君はここに疑問を持たなかったのか??」、それを「高官」に質さなかったのか?!と問い詰めたくなります。

 否!そこをはっきりさせてもらわないと記者などと名乗るのをやめて「運び屋」とでも称するべきでしょう。

 ましてや、間違っても、ジャーナリストなどを僭称するのはやめてもらわなければと思います。

 けさはまずこのことを押さえておかなければならないと思いました。

 さて、韓国の哨戒艦「天安」の沈没をめぐって、発生当初をふりかえると、韓国の一部のメディアには「北朝鮮の関与」という論調で走る傾向がなかったわけではないが、青瓦台と政府、韓国軍当局そして在韓米軍司令部もそれにブレーキをかけて慎重になる、もしくは北朝鮮の関与を否定するという態度をとっていたのが、どこから「反転」していくことになるのかという問題意識で、聯合通信の報道に依りながら、沈没発生からの初期段階の推移を振り返ってきました。

 いささか煩雑になるのを承知で、聯合通信の記事を引用したのは、そこに、後になって留意する必要の生じる、重要な情報が散らばっていたからと、初期段階では日本のメディアでの扱いはそれほど大きくはなく、子細に吟味するためには韓国内での報道に依る必要があると考えたからです。

 そこで、ではどこが「反転」のポイントとなったと考えるのかです。

 記憶を3月中旬から4月に戻す必要があります。

 4月2日、米国のキャンベル国務次官補がソウルを訪問しました。キャンベル国務次官補のアジアとの往還は実に頻繁で、2月にも訪韓していました。

 実は3月半ばに来日する予定だったのが急きょ中止になりました。3月16日の外務省の会見で岡田外務大臣は記者の質問に対して「キャンベル米国務次官補の訪日が急遽中止になりました。これは訪問先のタイにおける現在の混乱によって日本に来ることができなくなったということで、大変残念に思っております。」と答えていました。

 一方平野官房長官は同じ日の会見で「日程の調整がつかないため、わが国への訪問を中止したということだ」と説明しました。
 
 キャンベル次官補の日本訪問中止と普天間問題の「迷走」との関連をめぐってさまざまな憶測を呼びセンセーショナルに語られたため、その背後でおこなわれた4月初めの韓国訪問はあまり注目されなかったといえます。新聞の扱いもいわゆる「べた記事」扱いでした。

 しかし、です!問題はこの前後に、一体何が起きていたのか、あるいは何が進行していたのかです。

 そこで、もう少し遡って、まず2月の訪韓について伝える記事を見ておきます。

 【ソウル=箱田哲也】訪韓中のキャンベル米国務次官補は4日、玄仁澤(ヒョン・インテク)・統一相と会談後、韓国の聯合ニュースに「米韓は南北首脳会談と6者協議(の開催)のいずれも(北朝鮮に)促すことで意見が一致した」と語った。一方で「すべての面で米韓が必ず調整せねばならないというのが核心だ」とも述べ、韓国政府が首脳会談のみを先行させないよう暗に牽制(けんせい)した。韓国統一省は会談後、「キャンベル氏が、南北関係発展のための韓国の努力を全面的に支持すると語った」と発表し、米国の支持を強調した。韓国政府関係者によると、玄統一相らは南北首脳会談に向けた動きについてもキャンベル氏に説明したが、同氏は首脳会談について直接の支持は表明していない模様だ。そんななか、李明博大統領の信頼が厚い韓国大統領府の金泰孝(キム・テヒョ)・対外戦略秘書官が3日から訪米していることが判明。南北首脳会談の開催に向けた調整ではないかとの観測が広がっている。(「朝日」2月4日)

 そして4月です。まず、日本での報道です。

 【ソウル=牧野愛博】韓国を訪れたキャンベル米国務次官補(アジア・太平洋担当)は2日、ソウルで北朝鮮核問題を巡る6者協議の韓国首席代表を務める魏聖洛(ウィ・ソンラク)朝鮮半島平和交渉本部長らと会談した。キャンベル次官補は会談後、記者団に対して北朝鮮の金正日総書記の訪中を巡り、「北朝鮮が6者協議に早く復帰するよう、中国側に努力を要請した」と語った。韓国政府は金総書記が近く訪中する可能性が高いとみているが、キャンベル次官補は訪中時期について「多くの推測が出ている」と語るにとどめた。(「朝日」4月3日)

 一方韓国の4月2日の聯合通信です。

 【ソウル2日聯合ニュース】訪韓している米国務省のキャンベル次官補(東アジア・太平洋担当)は2日、海軍哨戒艦「天安」沈没事故と北朝鮮の関連性について、「推測はしない。韓国政府が進めている(原因)調査を全面的に信頼している」と述べた。外交通商部で6カ国協議韓国首席代表の魏聖洛(ウィ・ソンラク)朝鮮半島平和交渉本部長と会合した後、記者団に語ったもの。
キャンベル次官補は、すでに4隻の米軍軍艦が現場でサポートを行っており、船体引き揚げをはじめ他の作業でも援助が必要な場合は支援を惜しまないと強調した。キャンベル次官補と魏本部長は会合で、事故原因の究明に伴う想定事項やその影響を確認し、共同対応策を集中的に話し合った。政府高官は、「具体的には言及できないが、内部爆発、外部衝撃、北朝鮮との関連性などさまざまな事故原因について、どう対応していくかを協議した」と伝えた。一方、北朝鮮・金正日(キム・ジョンイル)総書記の訪中と関連し、キャンベル次官補は「現時点では推測だといえる」としながらも、韓国側と協議を行っており、今後も鋭意注視していくと述べた。また、北朝鮮の国際投資誘致努力は国連安全保障理事会の制裁違反では、との質問には、「米国をはじめとする同盟国は、北朝鮮が2005年9月19日の(6カ国協議)共同声明と2007年2月13日の合意で提示した約束を履行するまで、現存する制裁が維持されるよう強く望んでいる」と答えた。キャンベル次官補は同日午後に金星煥(キム・ソンファン)青瓦台(大統領府)外交安保首席秘書官、申ガク秀(シン・ガクス)外交通商部第1次官とも会合し、韓米同盟の懸案や北朝鮮核問題、金総書記の訪中に関する動向など、両国懸案を幅広く話し合った。3日に日本を経由し米国に戻る。

 同じ「米韓会談」についての報道に微妙にニュアンスの違いがあることに気づきます。このことをまず知っておかなければならないと思います。

 その上で、この「米韓会談」が、「天安」沈没問題でも重要な協議の場になったことが見えてきます。

 そして、この背後で同時進行していた重要な「懸案」があったことに目をこらす必要があると思います。

 それは米朝協議に向けて大きく動く可能性を秘めたある「懸案」でした。わたしは小さな「兆候」からそれを注意深く見守っていたのですが、最近の韓国の報道で、結果的には残念な形で「裏付けられる」ことになって、やはりそうだったかという思いを強くしたものでした。

 その「懸案」とは・・・。

 この直近の韓国での報道はまだ日本でキャリーされていなのですが、きわめて重要な記事なので全文引用しておきます。

 以下は韓国「中央日報」5月20日付の記事です。

 米国と北朝鮮は3月26日、天安艦事件発生直前、朝米両者会談および(予備)6カ国協議の連続開催に合意し、これにより米国は金桂寛(キム・ゲグァン)北朝鮮外務省次官の訪米のためのビザ発給準備に入ったが、天安艦事件が起こり取り消されたと外交消息筋が19日伝えた。
消息筋は「6カ国協議復帰を拒否してきた北朝鮮が3月に入り「朝米両者会談が行われればこれは6カ国協議につながる」という意を米国側に明らかにし、米国もこれまで北朝鮮に要求して来た「非核化過程に推動力を与える措置」を(予備)6カ国協議後にしてもいいという立場を見せることにより、朝米が米国で両者会談を持つことに事実上合意した」とこのように伝えた。消息筋は「これによって米国は3月末または4月初め、金桂寛副相にビザを発給することにして準備に入ったが、わずか数日後の26日、天安艦事件が起こってプロセスが全面中断された」と述べた。続いて「事件初期には天安艦沈没原因が明らかにされなかっただけに米国は朝米両者会談オプションを完全に捨てないで状況を注視した」とし「しかし事件発生2週後、北朝鮮の犯行であると明らかになると、米国は韓国の“先天安艦事件・後6カ国協議”基調に同意して朝米両者会談方針を下げた」と述べた。北朝鮮は2月末、北京とニューヨークの朝米チャンネルを通じて金桂寛副相のビザ発給申込書を米国に公式提出したと消息筋は付け加えた。
消息筋は「スティーブン・ボズワース米対北政策特別代表とソン・キム米北核特使は天安艦事件で両者会談および予備6カ国協議プロセスが取り消され、落胆したものの韓国の“先天安艦、後6カ国協議”の方針に対して反対しなかった」と伝えた。また他の外交消息筋も「天安艦事件直前まで中国が朝米両者会談→予備6カ国協議→6カ国本会談の3段階案を提示し、非常に積極的な仲裁をして、6カ国協議再開のための確かなモメンタムが生じたとすべての会談参加国が確信した状態だった」とし「まさにその瞬間、天安艦事件が起こり、会談再開に向けて肯定的に進行された状況が大きくひっくり返った」と述べた。
消息筋は「このような急な反転は朝米対話と6カ国協議再開を望まなかった北朝鮮軍部など北朝鮮内強硬派が外務省など交渉派を押して天安艦事件を起こし、政策の主導権を取ったという推測ができる」と指摘した。消息筋は「天安艦事件で韓米と北朝鮮間の対峙が長期化することが明らかで6カ国協議は今年の下半期にも再開される可能性はほとんどない」と見通した。

 ここで登場する「消息筋」は、今回の「天安」沈没を引き起こしたのは北朝鮮軍部の「強硬派」だったという結論を導き出すために語った(リークした)ということになるわけで、中央日報のスタンスも同様です。

 日本のメディアではまったくといっていいほど伝えられていないのですが、いま韓国社会に広がる「北朝鮮の仕業論」への疑念を封じ込めるために、ここに踏み込んだというニュアンスがうかがえる記事です。

 しかし、この記事から導き出される「結論」はそれだけではないことは賢明な読者ならばおわかりになると思います。

 あるいは、わたしが「残念な形で裏付けられた」と言うのもおわかりいただけると思います。

 ここまで何度か「最終幕の緞帳は上がるのか」と書いてきました。

 その意味では、「3月26日」を挟んで、まさに「緞帳が上がる」まで「あと一歩」というところにさしかかって、息詰まるような重要な「つばぜり合い」が、見えないところで、繰り広げられていたのです。

 こうした文脈の中に「天安」沈没を据えて吟味しないと、その本質を読み解くことができず、当然のことながら、いま目にしている事態の意味も見えてこないと、わたしは考えます。

 つまり普天間問題、北朝鮮の脅威と抑止力、金正日総書記の訪中、そして米朝協議から六か国協議へ、さらには朝鮮半島の戦後の歴史的懸案の解決にむけての大きな胎動へという、大きな「連環」の中に位置付けてそれぞれを見据えなければ、「天安」沈没問題の本質も見えてこないということだろうと考えます。

 それにしても、朝鮮半島の、そして北東アジアの緊張と対立の解消に向けた「歩み」は「天安」によって、またもや足踏みを余儀なくされることになったというべきです。

 10年、いや20年あまりも「時間」が逆戻りしたのではないかとさえ感じます。

 そして、何とも言い難い「暗雲」が、韓国社会を、そして日本を、北東アジアを、覆い始めているのではないか・・・。
 そんな危惧を抱かざるをえません。
(つづく)




 
posted by 木村知義 at 23:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録

普天間、朝鮮半島、中国そしてアジアへ(10)

(承前)
 前のコラムを書いた直後、新たなニュースに接しました。
 
 まず、韓国の李明博大統領が24日午前、哨戒艦「天安」沈没事件の調査結果にかかわって国民向け談話を発表することになったということで、ここで李大統領は、「北朝鮮に対する断固とした対応措置」を取る意向を示すとともに「国連安全保障理事会への問題提起など国際共助を通じた対応方向」(聯合通信)についても表明することになるということです。

 また、李大統領の談話発表終了後に外交通商部の柳明桓(ユ・ミョンファン)長官、統一部の玄仁沢(ヒョン・インテク)長官、国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官が、合同記者会見を行い、北朝鮮への具体的な対応策を発表する予定だということです。

 一方、このことをBBCニュースが伝えたとして、国連の安全保障理事会理事国ロシアの「ロシアの声」放送がいち早く転電で報じています。(5月23日夜、「ロシアの声」Webによる)

 ロシア外務省のネステレンコ報道官は、韓国で「調査報告」についての発表があった20日、今回の調査がかなり詳細に行われたとしながら、韓国側とは事前交渉があったものの、北の犯行疑惑を確証できるような証拠は示されなかった点を指摘して、韓国から受け取ったものがあくまで「調査結果に関する発表」であり「実際の結果」を受け取り検証するまで結論は出せないとして「彼らは検証が終わったことを確認しているようだが、我々には時間が必要だ」と語っていました。(「ロシアの声」による)
 
 「調査結果」発表後の「動き」が慌ただしくなってきました。

 事態の動向は、このコラムの続きを、「のんびり」と書いていることを許すかどうかわからなくなってきましたが、とにかく続けることにします。

 完璧な「証拠」に裏付けされ、かつ専門家の緻密な検証と原因追及の論理構築に一介の素人が疑問を抱くなどという「不遜」なことが許されるのかどうか、少なくとも大メディアの誰一人、紙面なり番組なりでそんなことを書き、語っていないなか、まるで無謀としか言えない所業というべきかもしれません。

 それだけのことを自覚して、しかし、少し書いておきたいと考えます。
 つまり、もし「それはおかしい!」というなら、ぜひ納得できる答えが欲しいと切望するからです。

 したがって、国際的な専門家が大勢集まって「究明」し論理構築したものに対して、にわか勉強、一知半解の「知識」で挑もうというような大それた気持ちは一切ありません。

 ただ、素朴な疑問に答えてほしいと思うところを述べてみようと考えただけです。

 さて、何から書いていけばいいのか気の遠くなるほどいっぱいあるのですが、それを全部書き連ねるには時間とスペースが足りません。

 また、どういうわけか、このところ背中から肩、腕にかけての痛みに悩まされているため、キィーボードにふれるのが辛く、最低限の事柄にとどめざるをえません。

 そこで、まず、哨戒艦天安沈没「事故」が起きた当時に記憶を戻してみることから始めたいと考えます。

 この「事故」が起きたのは3月26日の夜のことでした。

 思い返してみると、「事故」発生当初は日本のメディアの扱いも決して大きなものではなかったと記憶しています。

 手元に残している日本の新聞よりも韓国での報道をたどるほうが報道のトーンの「変化」がよくわかるので、聯合通信の報じ方を読み返してみます。

 聯合通信の第一報だと思われるものは、2010年3月27日0時0分配信で、
「黄海の白リョン島付近で警備中だった韓国海軍の哨戒艦が26日午後9時45分ごろ原因不明の爆発により沈没していると軍消息筋が伝えた。軍消息筋は、哨戒艦が船体後方から沈没しており、攻撃を受けた可能性が提起されていると明らかにした。哨戒艦の乗組員は104人で、このうち相当数が爆発当時、海に飛び込んでおり、人命被害が懸念されている。」
 というものでした。
 
 その後、「黄海の白リョン島南西沖で警備活動中だった海軍哨戒艦『天安』(1200トン級)が26日午後9時45分ごろ、船体後方に穴が開き、沈没した。合同参謀本部情報作戦処長のイ・ギシク海軍准将は27日、艦艇の船底に原因不明の穴が開き、沈没したと説明した。穴が開いた原因が明らかになっていないため、北朝鮮によるものと断定はできないとし、一刻も早く原因を究明し、適切な措置を取る方針を示した。哨戒艦の沈没地点は白リョン島と大青島の間、北方限界線(NLL)から南方に遠く離れた海上で、27日午前1時現在、艦艇の乗員104人のうち58人が救助された。残り46人の救助活動も続けられている。合同参謀本部は人命救助作業を最優先に行っているため、まだ正確な事故原因は究明できずにいると説明した。一角では、船尾に穴が開いたため、北朝鮮の魚雷艇などによる攻撃の可能性も提起されているが、合同参謀本部は『確認されていない』とし、慎重な反応を示した。また、事故当時、事故海域近隣で作戦中だった別の哨戒艦『束草』のレーダーに正体不明の物体が捉えられ、警告射撃を5分間行った。イ准将は『レーダーに捉えられた物体の形状から鳥の群れと推定されるが、正確な内容の確認を行っている』と述べた。一方、李明博(イ・ミョンバク)大統領が26日午後10時に招集した安保関係長官会議は27日午前1時ごろに終了した。同日の午前中に再び会議を開き、事態の把握に努める予定だ。青瓦台(大統領府)の李東官(イ・ドングァン)弘報(広報)首席秘書官は、北朝鮮との関連の可能性については現時点では予断できないと明らかにした。」(3月27日8時2分配信)

 「在韓米軍は黄海・白リョン島南西沖での海軍哨戒艦『天安』(1200トン級)沈没事故に関連し、北朝鮮の介入の可能性は低いと判断していると伝えられた。軍の事情に詳しい情報筋が27日に明らかにした。事故前後に朝鮮人民軍の特異動向がとらえられていないことを根拠としているという。一方、韓国海軍は、事故海域の水深は24メートルほどだが、暗礁は存在しない地域と判断し、座礁による事故の可能性は大きくないとみている。また、軍一角でも、沈没地点が北方限界線(NLL)から遠く北朝鮮軍艦艇の侵透が制限されており、比較的浅海のため敵艦隊の機動も容易ではないことから、『天安』内部で爆発があった可能性が提起されている。ただ、国防部の金泰栄(キム・テヨン)長官は、この日事故海域に向かう前、記者らに対し『深海を探索してみなければ、事故原因は分からない』と述べ、慎重な姿勢を示した。海軍はこの日午後から、事故原因究明と行方不明者の捜索に、戦時・平時の海難救助作戦と港湾および水路上の障害物除去などの任務を遂行する海軍特殊潜水部隊SSUを投入した。天候も午後から比較的安定しており、18人の要員が特殊潜水装備を着用し水中に入り、爆発した船体部分を詳しく調査、今回の事故が魚雷や機雷など外部衝撃によるものか、内部爆発によるものか、原因把握に当たっている。同時に、行方不明者46人の多くが船内に閉じ込められているものと見て、沈没した哨戒艦の隅々まで捜索し、生存者の救助と船体引き上げなどの作業に入る。ただ、長時間の捜索作業が可能なほど天候が良いわけではなく、軍関係者は、27日中に調査を終えるのは難しいとの見方を示している。」(3月27日15時32分配信)と北朝鮮の関与にかかわっては微妙に「変化」していきました。

 また、米国防総省のスポークスマンも米国時間26日に行われた記者会見で「むやみに結論を急ぐべきではない」と前置きした上で、「現時点では北朝鮮が関与した証拠はない」としました。
 
 当初から「北朝鮮攻撃説」で突っ走った一部のメディアを除いて、聯合通信などのメディアは、沈没発生当初は「北朝鮮軍の魚雷によって沈没した可能性」にふれはしましたが、その後は米国の見方などともあいまって「政府高官関係者は27日、『まだ正確な事故原因は究明されていないが、政府各官庁でこれまでの調査状況を総合すれば、今回の事故は北朝鮮によるものとは見られないというのが、政府の判断』だと明らかにした。」(聯合通信3月27日16時22分配信)などと、報道のトーンが変化したことは思い返しておく必要があります。

 その後行方不明者の捜索が難航し家族の苛立ちも昂じてくる中でネットなどでも政府の危機管理能力に対する辛辣な批判が飛び交うようになっていきます。

 そして、処理されずに残った「機雷」説や「疲労破壊」など、諸説が交錯する中、一部メディアが「天安」の沈没と前後して北朝鮮の「半潜水艇」が周辺海域で稼動していたと報じたことについて、青瓦台(大統領府)が「確認の結果、まったく事実ではない」ときっぱりと否定するとともに、そうした一部のメディアで北朝鮮の魚雷によって「天安」が沈没した可能性も取りざたされていることについて「北朝鮮潜水艇の作戦遂行能力などを考慮すると事実ではない」とし、さらに 国防部も、半潜水艇の出没説について「当時、北朝鮮に特異兆候はなかったと把握された」として、「そのため事故当時も非常事態が下されなかったと説明した」と伝えられました。(聯合通信4月1日9時16分配信)

 在韓米軍もまた、シャープ司令官(韓米連合司令官兼務)が4月6日におこなわれた講演で「米国は事故調査のため最高の専門家チームを派遣するとし、同チームが韓国ともに、事故原因を正確に究明するだろうと期待を示した。また、李明博大統領が強調したように、米軍は精密に分析作業を行うと説明した。
 そのうえで、北朝鮮を連日近くから観察しているが、現時点で特異活動はないとみていると強調した。」(聯合通信4月6日17時32分配信)と、北朝鮮の関与説を否定していました。

 では、どのあたりから「北朝鮮関与説」に「反転」しはじめるのでしょうか。



(つづく)
posted by 木村知義 at 02:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録