2009年12月26日

知られざる北朝鮮代表・・・

 「代表チームはブラジルに行って合宿してますよ・・・」
 「エッ?!ブラジルで合宿ですか!」
 「こりゃ本気だ!北朝鮮はワールドっカップで旋風を起こすことを狙ってますね・・・」
 「イヤイヤ・・・、強豪ぞろいのあのグループでは良くて一勝できればってとこですよ」
 「う〜ん、そんなこと言いながら、こりゃわからないぞ・・・・」
 
 今月上旬、朝鮮問題をテーマにしているジャーナリスト数人で日朝関係にかかわる「幹部」を囲んで懇談した際、偶然、話が北朝鮮のワールドカップ出場に及びました。
 
 そこで飛び出したのが冒頭の、北朝鮮代表チームがブラジルで合宿、という言葉でした。
  
 北朝鮮代表が10月にフランスに遠征して、コンゴ共和国やフランス2部リーグのナントと試合をしたこと、11月に平壌でブラジルのクラブチーム、アトレチコ・ソロカバと親善試合をして引き分けたことは伝えられていましたが、ブラジルで合宿ということは初耳でしたので、その場の全員が、エッ!と声をあげたわけです。

 「こりゃ北朝鮮は本気だ・・・」ということばに「イヤイヤ、一勝がいいとこ・・・」という「謙遜」で話はそこまでということになったのでしたが、スポーツ交流とはいえ、北朝鮮とブラジルの関係がそういう「親密」なものだということに驚いたものでした。

 ただし、その後も、この「合宿」については報道もなく、確認のしようもなく過ぎているのですが、ともかく、サッカーを通じてフランス、ブラジルと交流が行われていることはたしかだといえます。
 
 後でふれますが、フランスはEU諸国の中で、エストニアと並んで、北朝鮮とまだ国交がない数少ない国だということに、少しばかりの注意が必要です。

 さて、そして、今週火曜日(12月22日)北朝鮮に、あるいは朝鮮半島情勢にかかわる実に興味深い記事が、二つ、新聞に載りました。

 一つは「ベールの裏側 ユース強化 フリーライターが見た北朝鮮代表」(「朝日」朝刊)です。
 「今月9月末、平壌市民にも知られていない場所に私はいた。」という書き出しに、つい引き込まれて読みすすんだのでした。
 44年ぶりにワールドカップ出場を果たしたサッカーの北朝鮮代表について、平壌に足を運んで取材しレポートしたのはフリーライターのキム・ミョンウ氏でした。

 1993年にW杯米国大会予選で敗退したあと国際舞台化から姿を消した「その背景には、94年の金日成主席死去、相次ぐ自然災害や食糧難による国家の危機的な状況があった。 『でもサッカーは捨てなかった』とリ・ドンギュ氏が述懐する。60年に日本から北朝鮮に帰国。体育科学研究所に入り、代表チームに同行しながら試合の分析データを集め、北朝鮮サッカーを隅から隅まで見てきた人物だ。」

 記事に盛られている情報に目を瞠りながら読みすすみました。

 「少ない強化費をA代表でなく、ユース世代に回した」ことで、若手を育成し「世界と戦える基盤が整った」というのです。

 すでに知られているように1次リーグで北朝鮮は、ブラジル、ポルトガル、コートジボワールという戦うことになりました。

 「死のグループG」とさえいわれるレベルの高いチームが集まったこのグループで、サッカーの「玄人」からは「1次リーグ突破どころか勝ち点1を挙げることすら厳しい」といわれる北朝鮮ですが、キム・ミョンウ氏の取材に対して監督、選手、協会関係者らは、「66年のW杯イングランド大会のベスト8を超えたい」と口をそろえたというのです。

 このレポートは「失うものは何もない。あとは、サプライズの続きを起こすだけだ。」と結ばれています。

 こうした内容を興味深く読んだのはもちろんですが、記事のなかで、北朝鮮サッカー協会のキム・ジョンス書記長が「海外のサッカーを取り入れ、自分たちのカラーに合わせる必要がある。」と語っているくだりに、強く興味をひかれました。

 なぜかといえば、この記事が載った前週17日(木)、「日刊スポーツ」の一面、全面ぶち抜きのスクープ記事が記憶に残っていたからです。

 


 「日刊スポーツ」の大特ダネでしたが、翌18日の「朝日」朝刊では
「日本滞在中のトルシェ氏は(北朝鮮サッカー協会関係者との)接触を認めた上で代表監督就任については、『北朝鮮協会のある人物と私の間だけの話で、公式のオファーでも交渉でもない。北朝鮮に行く予定はあったが中止になった』と語った。」と伝えました。

 読んでわかるように、非常に含みのある記事で、前日の「日刊スポーツ」の大スクープ記事の背景にどういう意図が働いていたのか、微妙な要素が残るといわざるをえません。

 この時点では、結果的に、こうして表に出ることで「つぶれた」という印象はぬぐえません。
 どういう「力学」が働いたのか、ぜひサッカー担当記者の深層に迫る取材を期待したいところです。

 さて、もう一つの記事はといえば、「毎日」朝刊の国際面に載った「南北、実務接触3回」という記事です。

 リード部分を引くと、
 「朝鮮日報など韓国各紙は21日、南北首脳会談開催をめぐり南北当局者が今年、少なくとも3回秘密接触したと一斉に報じた。韓国統一省は接触の事実を否定したが、韓国国内では、北朝鮮指導部が体制維持に必要な支援獲得のため、今後も首脳会談開催を打診するとの見方が強まっている。」
 というものです。

 「毎日」は11月末に韓国の聯合ニュースを引く形で「韓国政府高官は29日、韓国記者団との懇談で、8月の金大中元大統領の死去に伴う北朝鮮弔問団の訪韓以降『南北間で何回もの接触があった』と語った。」と伝えていますので、それをアトづける記事だというべきでしょう。
  ただし、22日の記事は韓国の新聞報道を引く形をとっていますが、韓国で18日に発行された月刊誌『民族21』の2010年1月号に掲載された巻頭記事「深層取材2009年南北高位級秘密接触の顛末」
ですでに、「8月から11月まで中国、シンガポール、開城などで南北首脳会談のための高位級および実務級接触が4回以上行われた。」と伝えていたということですから、接触の回数の相違は置くとして、韓国の新聞の独自スクープといえるものかどうかは微妙です。

 李明博政権の登場で南北関係はそれ以前とは大きく様変わりして、緊張が増していましたが、背後ですすんでいる「変化」の兆しに気づいておかなければ、今後の事態の展開を見誤ることになるのではないかと感じます。

 もちろん、こうした「秘密接触」で現下の南北関係が簡単に打開できる状況にあると考えるのは早計ですが、しかし、風向きが変わりつつあることは実感できます。

 そして、ふたたびトルシェ監督問題です。

 私は、この「日刊スポーツ」の一面ぶち抜きスクープを目にして、サッカーそのものへの興味もさることながら、トルシェ氏がフランス生まれであることに目が行きました。

 はじめにも書いたように、フランスは北朝鮮と国交を持っていませんが、フランスのジャック・ラング大統領特使が先月9日から13日まで訪朝し、10日、北朝鮮の朴宜春外相が特使一行と会談して「両国の関係をはじめ相互の関心事となる一連の問題について」意見交換が行われたと伝えられ、さらに12日には、朝鮮最高人民会議常任委員会の金永南委員長がジャック・ラング大統領特使と会見したと伝えられていました。

 そして「日刊スポーツ」の大スクープが掲載された今月17日には、朝鮮中央通信が「フランス側は、大統領特使の朝鮮訪問の結果に従い、両国の関係を正常化するための最初の段階の措置として平壌にフランス協力・文化事務所を開設することにしたことを通報してきた。われわれは、フランスとの関係を一層深め、発展させる立場から平壌にフランス協力・文化事務所を開設することに同意した。」と伝えたのでした。
 もちろん単なる偶然のなせるわざということかもしれません。
 しかし、フランスが北朝鮮との国交正常化に向けて一歩踏み出したことは注目すべき動きだといえます。
 サッカー代表はブラジルで「合宿」?!
 南北関係にも水面下ではあれ、動く「兆し」が感じられ、
 そして、フランスが動く・・・。

 さて、いわゆる先進諸国のなかで北朝鮮と国交のない国は、米国フランス、日本ということになるのですが・・・。

 
サッカー北朝鮮代表チームの知られざる「うごき」に読みとるべきことは実に多い!という感慨を深くします。




 

posted by 木村知義 at 18:57| Comment(0) | TrackBack(0) | 時々日録